秘密を持ってしまった私。
「フローレンス様。お迎えに参りました。」
「... ...あ、有り難うございます。」
「驚かれましたか。ラグジュル陛下がこの国の国王であらせられます。」
「はい。... 」
この方、偽陛下さんは私に再度、この国の国王陛下と仰いましたがやっぱり「はい」としか言いようがない。今は何を言われても先ほどの驚きこそはないけれど。
私はこの方と一緒に東屋から出た庭園を歩いている。ただ、この陛下さんとは会話もなく並んで歩いているだけなのに、やっぱり威圧感はある。
それでも私は、隣の陛下さんの横顔をチラチラと見る。
前よりも緊張はましになったとは言えないけど、この陛下さんが真っ直ぐ前を見ている時だけは大胆にも横顔を正視することは出来るようになった。
横顔だけど間近で見たら、こっちの陛下さんって綺麗な横顔もしていらっしゃいます。当然だけど。
さっきは正面からの見た時の綺麗なお顔に戸惑いもあって「眼」が印象的だった。凄く鋭い眼。この眼で見つめられると私は眼を伏せたくなる。だって、私の心の中まで見られているようなんだもの。だから真っ直ぐには見つめられないのよね。それに眼が黒曜石。まるで、美形の蝋人形みたい。
ラグジュル陛下の眼も鋭かったけど、この方のほうが貫禄があるっていうのか国王らしく見える。
私がマジマジとこの方を見ていたもんだからこの方は話しながらチラ、チラと横目で私を見るのよね。
私は目が合うと恥ずかしいし怖いしで、また緊張するのよ。
それに、綺麗な男には慣れていないのも原因の一つだと思う。
... ...何?今のは、ニヤついたわよね!確かにニヤニヤしていた!私にはそう見えた。...私は余計な事は言ってないし。もしかして、私は挙動不審に見えるの?
私はそんな事ばかり考えていた時にこの方は急に立ち止まって私の方を向いた。
「フローレンス様。ラグジュル陛下はあなた様にお会い出来て良かったと思っております。申し遅れました。私はラグジュル陛下の家臣、ドミトルと申します。」
「... ...ドミトル様」
「だが、皆の前ではこの国の国王は私です。お忘れなく。そして、今日のことは誰にも口外をされませんように約束をして頂きたい。勿論、あなた様の家庭教師殿や侍女殿にもです。宜しいですね。」
「...はい。お約束いたします。」
何?...ラグジュル陛下が私と会いたかったって言う意味よね?私にはこの方の仰ってる意味って、ラグジュル陛下とドミトルさんは昔から私を知っているっていう口調だよね。
それにしても、怖かった!!いったい何を言われるのかと思ったわよ。おまけに凄い威圧感だったわよ。
口外するなって勿論しません!出来ません!
そんな事をしたら、私...考えたくないけど私だって命が惜しい。大げさだと馬鹿げてるとは思うけど。
だけど、ここは異世界。何が起こるのかは分からない。
私がいろいろと考えている最中、この方、ドミトルさんはラグジュル陛下のことを話しているけど私の頭の中ではラグジュル陛下が「私と会いたかった」って言う言葉が繰り返し、繰り返し私の頭の中で鳴っている。
それにしても、ラグジュル陛下って言い難いわ。ラグ陛下の方が言い易いよ。「ラグ陛下」って心の中で言っても誰にも聞こえないんだからラグ陛下と言ってもいいよね。
「・・・様・・・レンス様?フローレンス様!どうかしましたか?」
「エッ!...ドミトル様?何でしょうか?」
「いや、あなた様が驚かれたのは無理はない。ところで、この後宮はどうですか?」
「...あの、わたくしは...あの時のお菓子とお茶がとても美味しかったですわ。」
「菓子?お茶?... ...アッ!ハハハハハ・・そうですか。それは良かった。」
「し、失礼致しました。申し訳ございません。(真っ赤)」
キャ~~!なんてことを言ったんだ!恥ずかしい。急に後宮の話しなんかしないでよ!
それに、そんな大きな声で笑わなくっても良いじゃないの!
私の顔が、私の顔が...真っ赤になっていく!落ち着け!私。
トンチンカンな事を言った私が悪いんだけど、わたしには「お菓子」と「お茶」が美味しかったんだから仕方がないじゃない!とっさの事でそれしか思い付かなかったんだから。
ドミトルさん、きっと私を馬鹿な子だと思っているわ。本当に恥ずかしい!
でも、この美形で無表情なドミトルさんでも大声で笑うことがあるんだ!
なんか安心した。そしてホッとしたわ。このままだったらどうしようかと思ったもの。
それに、ドミトルさんが話しかけくれたから良かったけど、私から話しかけることは出来ないものね。
私達は、ゆっくりなペースで歩き始めたの。
ドミトルさんは、私から何も話さないからドミトルさんなりに会話をしようと色々なことを話している。
だけど、私にとっては御伽噺のような内容。
それにラグ陛下の子供の時の話しをされても「そうなんですか。」と答えるだけ。
まぁ、この世界では私なんかが考えられない事もあるでしょうけど。それが「異世界」っていうもの。だから、私が今ここにいる。
そして、私とアンが迷った道あたりでドミトルさんは「フローレンス様。今日のことは絶対に口外されませんように。宜しいですか。」と再度、確認するように言われた。
「はい。承知しております。ご安心を。」と私。
ドミトルさん、そんなに心配しなくても大丈夫!誰にも言わないわよ。
私達は東棟側にある庭園の出入り口近くまで歩いて来た。
アンは私とドミトルさんの姿が見えると急に礼儀正しい姿で頭をずっと下げています。
ドミトルさんも国王の顔に戻り貫禄十分に見えます。私といえばいつの間にかドミトルさんの後ろを歩いてた。そして、庭園の出口でドミトルさんは「フローレンス姫。また、会おうぞ。」と言って去って行かれました。アンは、これまた礼儀正しくドミトルさんが見えなくなるまでお辞儀をしています。
偽国王さんとはいえ一応、国王さん。アンは物怖じせず、礼儀作法もしっかり身に付いている。やっぱり、侍女と言えども礼儀作法は親の躾け。私も見習わなくっちゃ!
そして、東棟側の庭園の出入り口で私とアンがドミトルさんが去って行かれたところを見ていました。
そうか。アンはこっちに来て今日、初めてこの陛下さんを見たんだものね。
無理ないわよ。なんと言っても「国王陛下」だもん。
私達には恐れ多いお方だもんね。アン。その気持ち、分かるわ。
そして、アンは急に私を見て「お嬢様。お帰りなさいませ。」とニッコリ。満面の笑みとでも言うのだろうか。
「有り難う。アン」
恥ずかしい話しなんだけど、私はアンの顔を見て何故かホッとした。一気に気が抜けましたよ。
何も知らないアンは興奮して「国王様って素敵な方なのですね。」とおまけにポッと顔が赤い。
そして、私とアンは東屋がある庭園を後にした。
その帰り道で私は冷静にも部屋に帰ってからが大変だろうなと思った。部屋で待っている先生も私がドミトルさんと、どんな話しをしたのか興味深々で私を待っているだろう。
勿論、アンは女の子だから先生以上に聞かれるだろうし。
私は今日の出来事は秘密にしなくてはならない。だから、部屋に帰るまでに適当な話しを作らなければならない。今更だけど、私はとんでもないお嬢様の身代わりになってしまったんだと後悔してもしきれない。
あの時、夢だと思い込んでOKさえ出さなかったらこんな事にならなかったのに。
本当に、私の口が...この口が腹立つわよ。
私の気持ちも知らないアンは、部屋まで待ちきれなかったのか部屋に帰る途中の通路で私に聞いてきた。
「お嬢様。国王様と長い時間、お話をされていたのですね。」
「エッ!...そんなに長い時間でしたか?わたくしには凄く短い時間だったように思います。」
「まぁ~!お嬢様ったら。きっと緊張されていたのでございますわ!だから時間が短く感じたのだと思いますわ。そして、お嬢様だけですわ。他のお姫様方は国王様との面会時間も短いと聞いておりましたのに、お嬢様は国王様と長い時間を会われておられましたから。もしかすると、もしかしましてよ!」
...アン?...何が言いたいのだ?「もしかしましてよ!」って絶対にあり得んわ!
それに、あんたは何故、他の姫さんとドミトルさんとの面会時間を知っているんだ?
私に隠れてコソコソと嗅ぎ回っていたのか?私の知らない間に!
私がアンに聞いたら、きっと「お嬢様のため」だとか何とか言っちゃって上手くかわすのよね。
それに「長い時間」って言われても、そんなの仕方ないでしょう!私が2人の陛下さんと話していたんだもの。でも、ドミトルさんと会っていた時間のほうが長かったのは確かよね。
だけど2人の陛下さんとの面会時間を考えたら1人、1人の面会時間は短くても合計すると長い。
当然、待っているアンにしては長い時間に思うのも無理はないか。
だけど、ドミトルさんは此処に集まった姫さん達と何を話すのだろう。そして1人の面会時間は?
それに他の姫さん達とは何所で出会っているの?
...ダメ、ダメ!私には関係がない!知らなくても良いことなのよ。と、無理やり自分に言い聞かせた。
それに、他の姫さん達の面会時間と場所は私が知らないんだから、きっと他の姫さん達も私の面会時間や場所は知らないと思う。だって、1人の姫さんと国王が出会っているところに別の姫さんが出くわしたら、これこそ「女のバトル」でしょう。...まぁ、少しは見てみたい気もするけど。
それよりも重大な事は、ラグ陛下のことは私だけが知っている秘密。
ラグ陛下と偽陛下と私。何か複雑だけど私には何も出来ない。聞くことだって勿論出来ない。
とりあえず、自分の部屋に戻って今日の出来事の整理がしたい。そして、これからの事も考えたい。
色々な事を考えている間に、いつの間にか自分の部屋の前。
ドアを開けたのは勿論、アン。
部屋の中で先生がニコニコとお出迎え。
「お帰りなさいませ。フローレンス様。」
ヤバい!陛下との話しの内容をまだ、考えてなかったんだわ!




