本物の国王陛下さん、登場。
「こちらの方が我が国の国王陛下であらせられますラグジュル陛下で御座います。」
私はこの言葉を聞いて驚いた!まさか、あの時の家臣と思っていた人が国王陛下だったなんて。
それに私を「やあ、フローレンス!」だと言った!
何故、この本物の陛下さんは私の名前を知っているんだ?
おまけに、この本物の陛下さんは私を見てニッコリ。
偽陛下さんから本物の陛下さんを紹介されたのにもビックリなのに私の名前まで知っているのには凄く驚いた!驚きすぎて声も出ない。
今、何が起こっているんだ?これこそ「晴天の霹靂」っていうものよね!初めて経験したわよ。
そして、本物の陛下さんが偽陛下さんの耳元で何かを話しておられます。その後、偽陛下さんは私達に一礼して去って行かれました。
それから、本物の陛下さんは私を誘導するように東屋の玄関のドアを開けて中に歩いて行かれて、部屋の中といっても玄関を入ってリビング?のような所だろうと思うんだけど、直ぐに目につく長椅子に座っておられます。
私といえば、ただ呆然と見ているだけ。
東屋の玄関前でボケ~と立ちすくんでいた私を陛下は長椅子に座りながら、手招きをされているんだけど、何を聞かれるかなんて思うと足がすくんでしまって前に進めない。
陛下は「何をしている。早く来い!」と仰っていますが、私にはバレた?バレてない?とビクビクものよ。緊張するし怖い。
そして、私はうつむきながら歩いて陛下の傍に座ったんだけど、どういう態度を取ったらいいのかも分からない。
緊張のせいか東屋の玄関のドアを閉めることを忘れていたの。だから緑の多い綺麗な庭は丸見え。
私は慌ててドアを閉めに行こうとしたんだけど陛下は「誰も来ることは無い。開けたままで良い。」だって。だけど、「壁に耳あり障子に目あり」でしょう。こんな広い庭園なんだもの誰かが散歩でもしていたらどうするんだろう?誰も通らないなんて保証はない。それに、私より陛下のほうが都合が悪くなるのに。... ...私、なんで陛下の心配をしているんだ?今は私のほうが一大事なのに。
私は色々な思いを抱きながら真っ直ぐ庭を見ていたけど陛下は私を見ている気がする。だって陛下の視線を感じるんだもの。
何かを話さないといけないことぐらいは分かっているけど、考えてみても陛下って国の王様でしょう。今まで平民だった私には恐れ多いお方。私如きが先に話しかけるなんて滅相も御座いません。
だから、2人して無言が続いてる。この空気が私には重い。先に陛下が話してくれたら私はそれなりにキャッチボールとは、ほど遠いけど「はい」「いいえ」ぐらいは答えることができるんだけどなぁ。
...私には今の状況は耐えられない。陛下、お願いだから何か話してよ。
その時、私の願いが通じたのか先頭を切って話されたのは陛下。
「フロス。久しぶりだな。俺のことは覚えているか?」
ウソ!ウソでしょう~!今、この陛下は私の事をフロスと呼んだ。
エッ!...なんで知っているの?フロスといえば、私はこの国に入るまでの道中で私の夢の中で呼ばれた名前だよね。
フロスってフローレンスの別の呼び名?
フルなら分かるけど、私っていったい何者なのよ!っていうのか、このフローレンスは何様なの?
おまけに「久しぶり」だとか「俺のことを覚えているか?」だとか、そんな事を仰られても私は知りません。だって私は偽者フローレンスなんだもの。
「フロス。どうした?俺のことを忘れたというのではないだろうな。」
「俺のことを忘れたのではないだろうな。」と聞かれても、私が陛下と出会ったのはこれで2回目。
忘れたかと言われたところで私には本物のフローレンスの記憶なんか持っていない。ここで、私は何と言ったらいいの?
それに、今の私は記憶喪失。こうなったら記憶がないと話したほうが私の身の為でもあるよね?多分。
もし、変に話しを合わしたら自分自身に墓穴を掘ることにもなる。
でも、記憶喪失だと話したところで陛下は果たして信じてくれるのだろうか?
それに、本物のフローレンスとこの陛下って昔から知ってる間柄のようだし陛下から昔の話しをされたら... ...バレる。確実にバレてしまう。
ゆっくり、考えている時間は無い。ここは覚悟を決めて、やっぱり記憶喪失だと話す事が一番だと思う。たとえ陛下が信じようと信じまいと今の私には早急に良い策は浮かんでこない。
あとは、陛下次第。どうか、私の記憶喪失を信じてくれますように。今の私は神様に祈るしかなかった。
「... ...陛下。正直にお話し致します。わたくし...わたくし、今までの記憶がないので御座います。だから陛下のことも何も分からないので御座います。どうか、お許し下さいませ。」
「...記憶が無い?フロス、記憶が無いのか?今までの記憶が... ...」
「陛下。本当にわたくしには今までの記憶が御座いません。わたくしは長い間眠っておりました。そして、わたくしが目覚めた時は家族のこと屋敷の者たちのことも分からなかったので御座います。目覚めてから家庭教師やアンたちにわたくしのこと、自分自身のことを教えて頂いておりました。今は家族と屋敷の者たちのことは少しは思い出しましたが、それ以外は...」
「フロスが目覚めたことは知っていた。だが、記憶が無いとは知らなかった。何故、記憶がなくなっていたのだ?」
「知りません。(陛下、これ以上は聞かないで!)」
「そうだったのか。だからあの時、フロスは俺のことが分からなかったのだな。俺はてっきり各国の姫達がいるから知らぬ顔をしていたと思っていた。本当に俺のことが... ...」
「申し訳御座いません。お許し下さいませ。陛下。」
「もう良い。仕方あるまい。だが、俺とフロスとは昔からの友だ。」
「... わたくしと陛下が友なのですか?」
「そうだ。昔からのな。だから、陛下と呼ぶな。昔通りラグと呼べ。」
「... ...ラグですか。わたくしは以前、陛下のことをラグと呼んでいたのですか。」
私は三度、驚いた!陛下が昔からの友達?それにラグと呼べって?
そんな事を言われても急には呼べないわよ。
「そうだ。昔からフロスのことはよく知っている。それに...」
「それに?」
「いや、何でもない。」
陛下の言いかけた言葉って何だろう?
それに、フローレンスって子はいったい何なの?
元々は私の夢に出て来た少女でしょう。この彼女が「私と代わって?」って言う言葉に私が「どうせ夢なんだから」とOKを出したために私は彼女と代わった。そして今、この状況になっているのよね。
それに、陛下がこのまま昔の話しを持ち出されたって私は何も知らないから答えられない。
ただ、私に出来ることは今この状況をどう、回避したらいいのかだけ。
はたして、陛下は私の「記憶喪失」を信じてくれたんだろうか?私とのことを「友」「よく知っている」という言い方をしてたけど、陛下は私が記憶喪失だと信じたからよね?
確信は持てないけれど陛下が信じていれば私はこの先、ずっと記憶喪失のままでいられるわけだ。
とりあえず、今日は陛下に余計な事を聞かれないようにしなくてはならない。
だけど、後どのくらい陛下と話していなければいけないのか?
何時になく小心者になってしまった私は胃が痛くなりそう。
早く、部屋に帰りたい!
その時、陛下ことラグはいきなり私に言った「フロス。また、この東屋で会ってほしい。」
「... ...会う...」
「そうだ。俺はフロスに会いたい。会っていろいろ話したい。」
「... ...(会って話したいって?私には話す事なんか何もないのに)」
「また、連絡する。」
陛下なるラグ様はそう言って私の目の前から去って行かれました。それも私を1人置き去りにして。
なんで、私を置き去りにして行くんだ!普通なら庭園の入り口まで連れて行ってくれるだろう!
この世界、いやこの国の偉いさんの考えている事は分かりません。
はたして私は無事に庭園の入り口までたどり着けるのか不安。方向音痴の私が動き回ることは自分自身が危険?だって、山登りの時によく言うじゃない。まぁ、この場合は違うけど私にしては同じ事。だから、アンが探しに来るまで此処で待っていたほうがいいのかもしれないと判断をした。それに、アンはこっちの人間だしね。そして、私は先ほどの長椅子に座ってアンを待つことにした。私自身が今日の事をいろいろ考えたかったしね。
でも、今日はラグ陛下はいったい私に何を話したかったんだろう?
それに、今日の会話ってどの位の時間だったの?
本物陛下さんとの会話時間って凄く早かったじゃない。
何なのこの会話は。私が本物か偽者かを確かめに来たみたいじゃないの。
私が本物のフローレンスだと信じていたなら、もっと昔の思い出話しをするはず...
だけど、私が記憶喪失だと話したから、早々に引き上げた?
どっちだろう?気になるのよね。
だけど「これからも会いたい」と言われたってことは...信じている?
とにかく今は私が偽フローレンスだとバレていなきゃいいのよ。
どうか、私が本物のフローレンスだと信じきっていますように。と願うしかない。
でも、本物のフローレンスとラグ陛下との関係って何なの?
眠る前のフローレンスの事は先生が知っているはず。先生といえば、ウチの一族の代々からの家庭教師の家系だし。私はフローレンスになりきらなくてはならないんだから、しっかり先生に聞いておかなければいけない。そうでないと、いつかはラグ陛下にバレてしまうわ。
ラグ陛下って、勘が良さそうなんだもの。これ、私の直感。
... ...でも、陛下は何故に「偽陛下」を仕立てなくてはならないんだ?
そこも気になるのよね。何故、陛下は偽陛下をこの国の表の顔にしないといけないのかが疑問。
それに、この国の国民は偽陛下を国王だと思い込んでいるわけ?本当の国王の事は知らないって事?
国民を騙してまで偽陛下を表の陛下に仕立てる理由って...ラグ陛下を守るために偽陛下を仕立てるだけの理由?
まさか!ラグ陛下って命を狙われているの?
よくあるよね。国の家臣、それも重臣の裏切りとかさ。その為にラグ陛下は姿を隠して、裏切り者の重臣達を一網打尽。そして、晴れて国王を名乗る。
...そんな事があるわけないか!私の妄想よね。TVや映画じゃないんだし。
だけど、偽陛下を仕立てるって計画した者がいるわけよね。それが誰か?
... ...ラグ陛下?ラグ陛下が仕組んだ事なの?
まさかね~~!ラグ陛下自ら計画したって事?
分かっている事は、何か理由があるからこのような大掛かりな事をしているということだけ。
まてよ...じゃあ、黒幕は陛下って事?もし、そうだとすると偽陛下はラグ陛下の腹心ってことよね。
妄想で決め付けることはいけない事だけど、そう考えてもおかしくはない。
妄想にせよ、そんな手の凝った事を考え実行する陛下だから私が下手すりゃ、もしかすると私の記憶喪失もバレるのは時間の問題かもしれないのよね。それを考えると怖い。
これからは、私の身の安全のために用心しなくっちゃ!
ところで...何を考えているんだ私は?自分の中でどんどん妄想が膨らんでいくじゃない!
それに、ラグ陛下は「また、会ってほしい。」って言っていたけど、私は会いたくない。
このまま、そっとしておいて欲しい。
そして、今度ラグ陛下と出会って昔の話しでもされたら...もしも、もしも私が偽フローレンスだとバレたらって考えると怖い!それに、バレた時の自分の行く末を考えたら凄く怖い!
「どうか私の考えすぎでありますように。」と再度、祈るしかない。
今直ぐとはいかないけれど、もしものことを考えて何か理由をつけてコット・ランダーに帰ろうかな?
... ...そんなに簡単には思い通りにはならないわよね。私1人じゃないんだし。
アンや先生、バクンも引き連れて来たんだもの。
私は自分の妄想とあれこれ考えをめぐらしている時に東屋の外から誰かの声がした。
私はアンだと思って外に出たら...偽陛下さんだった。
いったい、どうなってるの?




