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不憫な黒崎

放課後。

篠宮は桜庭に連れられ、校舎一階のラウンジへ来ていた。

窓際の席に向かい合って座る。

部活動へ向かう生徒が行き交っているが、

二人の周囲に人は少ない。


篠宮が先に聞いた。

「それで、日曜日って?」

桜庭は少しだけ間を置いた。

「怜司くん、日曜日予定ないんだって」

「うん」

「野球部も完全に休み」

「そうみたいだね」

「だから――」

そこで桜庭が止まる。

篠宮は続きを待った。

「……誘おうかなって」

「神代くんを?」

「うん」

「いいんじゃない?」

あまりにも普通に返され、桜庭が篠宮を見る。

「それだけ?」

「他に何かある?」

「いや……」

桜庭が視線を逸らした。

「二人で?」

今度は篠宮が少し止まった。

「私はそこまで言ってないけど」

「だよね!」

「桜庭さんは二人で行きたいの?」

直球だった。

桜庭が黙る。


数秒後、小さく頷いた。

「……行きたいけど」

好意そのものを隠すつもりはない。

神代のことが好きなのは篠宮も知っている。

それでも休日に二人きりで出かけるとなれば、話は少し違った。

「怜司くんに二人で出かけようって言ったら、どうなると思う?」

篠宮は想像してみた。

少し考えてから答える。

「どこに、って聞くんじゃない?」

「その次」

「何しに行くの、とか?」

桜庭が机に伏せた。

「絶対言う」

篠宮が笑う。

「ありそう」

「しかも普通に聞いてくるんだよ。嫌味とかじゃなくて、本当に目的が分からない顔で」

「神代くんだもんね」

「そこでデートって言えると思う?」

「桜庭さんなら言えそうだけど」

桜庭が顔を上げる。

「私を何だと思ってるの?」

「神代くんのことになると強い人」

否定しにくかった。


桜庭が考えていると、ラウンジの入口から声がした。

「何してるの?」

千夏だった。

その隣には天城もいる。

「千夏ちゃん」

「二人で何か相談?」

桜庭は少し迷ったが、すぐに二人を手招きした。


四人になったところで、事情を説明する。

千夏はすぐに理解した。

「それでお父さんに休みの日を聞いたんだ」

「違うよ! 千夏ちゃんが昨日言ってたから聞いただけ!」

「そうだっけ?」

「そう!」

天城は話の中心が別のところにあった。

「つまり神代を遊びに誘いたいってことでしょ?」

「そうだけど」

「じゃあ誘えばいいじゃん」

桜庭が天城を見る。

「簡単に言わないでよ」

「普段あれだけ普通に神代のところ行ってるじゃん」

「学校と休みの日は違うの!」

天城にはその違いがあまり分からないらしい。

千夏が少し考える。

「でも、いきなり二人より何人かで行った方が神代くんは来やすいかも」

「やっぱり?」

「神代くんの場合、二人なのを意識する以前に、遊びに行く理由から聞きそうだし」

「さっき全く同じ話した」

篠宮が笑った。

桜庭は少し不満そうだった。

本音を言えば二人がいい。

日曜日に神代と出かける。

それを考えただけでも楽しそうだった。


だが、二人きりで誘い、

神代から真顔で「何のために?」と返される場面も容易に想像できる。

「……じゃあ、みんなで行く?」

桜庭が言った。

千夏が頷く。

「私はいいよ」

「私も」

篠宮も答える。

三人が天城を見る。

「何?」

「天城さんは?」

「予定ないし、いいけど」

女子四人は決まった。

問題は男子だった。

「怜司くんは絶対」

桜庭が最初に言う。

「そこは分かってる」

天城が返す。

「他どうする?」

篠宮が聞いた。

桜庭は野球部員の顔を思い浮かべる。

全員を誘えば十一人になる。

それでは野球部の集まりに女子四人が加わるだけになってしまう。

「野球部全員は多いよね」

「それなら休養日の意味も変わっちゃいそう」

千夏も同意した。

篠宮が考える。

「九条くんは?」

「九条くん?」

「神代くんと一緒にいること多いし、話しやすそう」

桜庭も頷いた。

九条なら神代との会話を自然に広げてくれる。

それに桜庭自身も学校で何度か話したことがある。

「じゃあ九条くんは決まりだね」

「あと鷹野」

天城が言った。

三人が天城を見る。

「何?」

「この前、走るタイム測るって話したから。せっかく休みならその時でもできるし」

「遊びに行ってまで走るの?」

千夏が聞く。

「別にずっと走るわけじゃないよ」

天城にとっては、それだけの理由らしい。

桜庭が数える。

「これで男子三人か」

「もう一人くらいいてもいいんじゃない?」

篠宮が言う。


少し考えたあと、千夏が口を開いた。

「黒崎くんは?」

桜庭が黒崎を思い浮かべる。

横浜星央戦のあと、一人で悔しそうにボールを握っていた姿も思い出した。

「黒崎くん?」

「うん。黒崎くんなら賑やかになりそう」

天城も頷く。

「確かに静かにはならなそう」

「それ褒めてる?」

篠宮が笑う。

「多分」


男子は神代、九条、黒崎、鷹野。

女子は桜庭、篠宮、千夏、天城。


合計八人。

桜庭が全員の名前をスマートフォンへ入力する。

「問題は、怜司くんが来るかだね」

「予定ないんでしょ?」

天城が聞く。

「ないけど」

「じゃあ聞けばいいじゃん」

「それが一番緊張するの!」

天城はやはり分からないという顔をした。


翌日の昼休み。

神代は九条や朝倉たちと教室で昼食を取っていた。

そこへ桜庭がやってくる。

「怜司くん」

「何?」

昨日と同じ入り方だった。

だが、今日は桜庭の後ろに篠宮、千夏、天城もいる。

神代が四人を見る。

「何かあった?」

「日曜日なんだけど」

「日曜日?」

「みんなで遊びに行かない?」

神代が少し黙った。

桜庭は返事を待つ。

「みんなって?」

予想していた質問だった。

「私と、篠宮さんと、千夏ちゃんと、天城さん。それから怜司くんたち」

「俺たち?」

「九条くんと、黒崎くんと、それと鷹野くんも誘おうと思ってる」

九条が横から顔を上げた。

「俺も入ってんの?」

「うん。駄目?」

「予定ないからいいけど」

あっさり決まった。

神代が聞く。

「どこ行くの?」

桜庭が止まる。

まだ決めていない。

「……これから決める」

「決めてから誘った方がよくない?」

「それは今から決めるの!」

「そうなの?」

「そう!」

神代には違いが分からなかった。

「で、怜司くんは?」

「別にいいよ」

今度は桜庭が止まった。

「え、いいの!?」

「別に予定ないし」

昨日、あれだけ悩んだのが何だったのかと思うほど簡単だった。

桜庭の表情が一気に明るくなる。

「じゃあ決まりだね!」

「まだ場所決まってないんだろ?」

「それは後でいいの!」


すぐに四人が戻っていく。

神代は何事もなかったように昼食へ戻った。

九条がその横顔を見る。

「怜司」

「何?」

「お前、本当に何も気づいてない?」

「何に?」

九条は少し黙った。

朝倉も桜庭が戻っていった方向を見ている。

「……いや、もういい」

「何なんだよ」

「そのままでいろ」

「意味分からない」


昼休みが終わる少し前。

黒崎と水城が廊下を歩いていると、九条が声をかけた。

「大雅」

「なんや?」

「日曜暇?」

黒崎が警戒する。

「なんでや」

「遊びに行くことになった」

「誰と?」

九条が簡単にメンバーを説明する。

黒崎の眉が上がった。

「なんで俺入っとんねん」

「知らない。女子側が決めた」

「雑すぎるやろ」

水城が横から聞く。

「大雅、行かないの?」

「別に行かんとは言うてへん」

「行きたいんだ」

「まだ何も言うてへんやろ!」

「でも予定ないよね?」

「そらそうやけど!」

九条が笑う。

「じゃあ参加な」

「勝手に決めんなや!」

そう言いながらも、黒崎は断らなかった。


『密かに何かを期待している顔だった』


最後に鷹野。

放課後、グラウンドへ向かう途中で九条が声をかける。

「隼人、日曜暇?」

「多分」

「遊び行くけど来る?」

「誰と?」

名前を聞いた鷹野は少しだけ考えた。

「天城も来るのか」

「来る」

「じゃあ、この前言ってたタイム測れるな」

それだけだった。

こうして八人が決まった。


練習後。

神代がスマートフォンを見ると、新しく作られたグループに次々とメッセージが届いていた。

行き先の候補がいくつも出ている。

桜庭が中心になり、篠宮と千夏が意見を出し、天城が別の候補を追加する。

九条もすでに会話へ入っていた。

黒崎からは、


『どこでもええけど朝早いのは嫌や』


と送られている。

その直後、水城が黒崎へ直接送ったらしいメッセージを、九条が転送してきた。

水城は参加していないはずだった。


神代はしばらく画面を見たあと、隣を歩く九条へ聞いた。

「颯真」

「何?」

「日曜日って、何するんだ?」

九条が足を止めた。

「お前、参加決めてから聞くなよ」

「まだ場所決まってないだろ」

「そういう意味じゃない」

「じゃあどういう意味?」

九条は数秒だけ神代を見る。

やがて諦めたように歩き出した。

「日曜になれば分かるよ」

神代もその隣を歩く。

野球のない日曜日。

誰かと遊びに出かける予定。

神代の中では、まだそれ以上の意味はなかった。


ただ一つ。

何も決まっていなかったはずの休日には、

いつの間にか八人分の予定が入っていた。


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