↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/34

飛んで火に入る才の種

東京。

神代の部屋に三人は集まっていた。


「藤堂岳……」

神代怜司は、パソコンの画面に表示された名前を見つめていた。

北海道出身で右投右打の中学三年生。

昨夜、知らないアドレスから届いたメールの送り主だった。

神代が候補に入れていなかった選手から連絡が来たのは、これが初めてのことだった。

「見つかったの?」

隣から朝倉蓮が画面を覗く。

「ああ、見つけた」

神代は一つの試合映像を開いた。

画面の中で藤堂が守っているのは捕手。

朝倉が反応する。

「この人キャッチャーなの?」

「見たところ捕手として出ることが一番多いみたいだな」

九条颯真も椅子を寄せた。

「それなら蓮がいるから必要ないぜ?」

「まあ最後まで見ろ」

神代が映像を進める。

次の試合、藤堂は一塁。さらに別の試合では三塁。そして左翼。

九条が眉をひそめた。

「一体どこが本職なんだよ?」

「一応、捕手のようだな」

「一応?」

「出場数が一番多いだけだ」

映像が切り替わる。

三塁線への強烈な打球。

藤堂は横へ飛んで捕球すると、すぐに立ち上がって一塁へ送球した。

次は一塁。難しいショートバウンドを難なくすくい上げる。

次は左翼。左中間への打球に追いつき、二塁へ正確に返球。

九条が言った。

「全部それなりにうまいな」

「そうだな」

神代が答える。

「でも、飛び抜けてはいない」

「褒めてんのかどっちだよそれ」

「そのままの意味だ」

神代は藤堂の資料を開いた。

打率は高い。三振は少ない。バントもできる。右方向にも打てる。長打もそれなり。足も遅くない。肩も強い。捕手としての技術も高い。

しかし。御堂悠真ほど打たない。轟剛士ほど飛ばさない。鷹野隼人のような身体能力もない。黒崎大雅のような剛速球もない。

九条が言った。

「今までとは違うタイプみたいだな」

「そうだな」

「怜司が集めてる奴って、どっか一個おかしい奴ばっかだっただろ」

神代が九条を見る。

「どういう意味だ?」

「褒めてるんだよ」

「そうは聞こえないけどな」

朝倉が笑った。

神代はもう一度画面を見る。

何をやらせても高水準だが、その代わり一目で分かる武器がない。

「面白いな」

神代が呟く。

九条が笑った。

「結局それ言うんだな」


数日後。

三人は都内の野球グラウンドに来ていた。

藤堂からのメールへ返信すると、

『こちらから東京へ行きます』

と返事が来たからだ。

九条が時計を見る。

「本当に来るのかあいつは?」

「来るだろ」

「中学生が一人で北海道から東京だぞ、危なくねえか」

「一応親の許可は取ってるらしい」

「ふーん。行動力あるな」


その時だった。

「神代くんですか?」

三人が振り返ると大柄な少年が立っていた。

身長は184センチほど。肩幅も広い。だが、轟のような威圧感はない。

少年は軽く頭を下げた。

「僕は藤堂岳と申します。今日はお時間を作っていただいてありがとうございます」

「俺が神代怜司だ」

「はい。もちろん知っています」

藤堂は朝倉を見る。

「そちらはキャッチャーの朝倉蓮くん」

「で、そちらの方はショートの九条颯真くんですよね」

九条が少し驚いた。

「俺たちのことまで知ってるのか?」

「はい。少しですけど調べました」

神代が聞く。

「少し?」

藤堂が笑う。

「その話も含めて、座って話しませんか?」

神代は藤堂を見る。

落ち着いている。少なくとも勢いだけで北海道から来たわけではなさそうだった。


それから四人は球場のベンチに座った。

「最初に聞いてもいいか?」

神代が言う。

「もちろんです」

「どうやって俺たちのことを知った?」

「最初は高校のスカウトからです」

「スカウト?」

「はい。僕もいくつか声をかけてもらっているので」

藤堂は続ける。

「その中の一人が、最近変わった中学生がいると言っていたんです」

九条が笑う。

「やっぱり変わった中学生なのね」

神代が見る。

「何だ?」

「いや、合ってるなって」

藤堂も少し笑った。

「中学最後の大会にも出ず、全国を回って同年代の選手を集めている。最初は僕も冗談だと思いました」

「普通そうだよね」

朝倉が言う。

「でも僕は気になって、それで調べました」

神代が聞く。

「黒崎と御堂のことまでか?」

「そこは直接確認できました」

「どうやって?」

「それは企業秘密です」

九条が笑う。

「そこは隠すんだ」

「情報源は守る主義なので」

「もはや中学生の会話じゃないな」

藤堂は続ける。

「ただ、それだけではありません」

「何が?」

「あと一人という話です」

神代の目が少し細くなる。

「そうだったな。聞こうか」

藤堂は姿勢を直した。

「まず、蒼凛学園の一期生野球部推薦枠は十一人」

「調べたの?」

朝倉が聞く。

「学校に電話して直接確認しました」

九条が呟く。

「普通そこまでやるか?」

藤堂は気にせず続ける。

「十一人のうち、神代くん、朝倉くん、九条くんで三人」

「そして残る枠は八人です」

神代は黙って聞いている。

「その後、あなたたち三人らしい中学生が地方大会で目撃された地域を調べました」

藤堂が指を折る。

「大阪」「静岡」「長野」「福岡」「愛知」「宮城」「広島」それら七県。

九条と朝倉が藤堂を見る。

藤堂は続けた。

「もちろん、そこに行ったからといって必ず選手を勧誘したとは限りません」

「まして全員が承諾した保証もありません」

「でも、黒崎くんと御堂くんはほぼ確定でした」

「そして白石くんが東京の新設校へ行くらしいという話も出ていました」

神代の目が僅かに細くなる。

藤堂はそれに気づいた。

「今ので答え合わせできました」

「何が?」

「広島の轟くんも決めたんですね」

九条が神代を見る。

「こいつ怖くない?」

朝倉も頷く。

「ちょっとね」

藤堂は話を戻した。

「さて、三人に七人、そうすると合計十人になります」

少し間を置く。

「だから、あと一人になりますよね」

神代は藤堂を見る。

「そこまで調べたのか?」

「せっかく北海道から来るので」

「それだけの理由で?」

「はい?」

「北海道から東京へ来る前から調べてたんだろ」

藤堂が少し笑った。

「まあ、そうですね」

神代はノートを開いた。そして何かを書き込む。

藤堂がノートへ視線を向ける。

「何を書いたんですか?」

「まだ見せない」

「評価ですか?」

「どうかな」

九条が言う。

「もう評価されてるぞきっと」

藤堂は少しだけ楽しそうに笑った。

「それで、なんで俺にメールしたんだ?」

藤堂は少し間を置く。

「その前に、一つ確認してもいいですか?」

「何?」

「甲子園五連覇の話は本気なんですよね?」

「つまり三年間、公式戦では一度も負けないと言うことですよね」

神代は藤堂の目を見る。

「俺はそのつもりで選手を集めてる」

数秒の間、藤堂は黙った。

そして少し笑った。

「それが聞けて安心しました」

九条が聞く。

「安心?」

「噂が大袈裟だったら、北海道から来た意味がないので」

神代が言う。

「じゃあ次は俺に質問させてもらう」

「どうぞ」

「なんで蒼凛に興味を持った?」

藤堂の表情から笑みが消える。

「僕も、その計画に入れてほしいと思ったからです」

朝倉と九条が藤堂を見る。神代は表情を変えない。

「どうして?」

「面白そうだからですよ」

「それだけで高校を決めるのか?」

「もちろん決めませんよ」

藤堂は即答した。

「だから今日まで来たんです」

「つまり?」

藤堂は真っ直ぐ神代を見る。

「神代くん本人を見極めたかったからです」

九条の表情が少し変わる。

「本当に選手を見る目があるのか、本当に五連覇できると考えているのか」

「そして」

少し間を置く。

「僕が三年間ついていく価値のある人なのかどうか」

朝倉が神代を見る。

これまでとは逆だった。

今まで神代は、選手を見るため全国を回った。

だが今回は相手も神代のことを見に来ている。

神代の口元がほんの少し動いた。

「いいよ」

藤堂が聞く。

「何がですか?」

「そういうの嫌いじゃない」

神代が立ち上がる。

「じゃあ、お互い見ればいい」

そう言うと、神代は準備を始めた。

これまで計算通りに進めてきたつもりだった神代の前に招かざる者がやってきた。

たまにはこういうのも悪くはない。

藤堂が最後のピースにふさわしい才を持つのか試してみたくなったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。