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西の魔女商店ー大地の紋ー  作者: 月瀬ハルヒ
第三章 消えた指輪 ―Amissio―
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第2話 ケースの中

母から突然言われた言葉に、莉央(りお)は目を丸くした。

昨日のことを思い出す。

昨日の夜、恒一(こういち)が帰宅したあと家族4人で夕食を囲んだ。

そのあと、一旦美咲(みさき)も莉央も自室へと戻った。

莉央は提出間近のレポートの為に、机へと向かう。

しばらくすると、莉央は階下の母親が美咲を呼ぶ声が聞こえ、美咲が返事をして降りていく。


「うーん、やっぱり参考書借りなきゃダメかぁ」


机に向かっていた莉央は伸びをすると、ドアを開けて美咲と母がいるだろうリビングへと向かう。

だが、リビングにはお茶を飲みながら、テレビを見ている母親の姿しかない。


「あれ?お姉ちゃんは?」


きょろきょろと見まわして言う莉央に、母親が答える。


「お風呂。莉央、レポートやらなくちゃって言ってたから、お姉ちゃんに先に入って貰ったわよ」

「そっかー。お姉ちゃんに参考書を借りたかったんだけどな」

「今日は恒一君も来て、緊張しただろうからゆっくり入ってきなさいって言ったから、上がるのはもう少しかかると思うわよ」

「そっか。ちょっと部屋に入って借りてもいいかな。あとで借りたって言えばいいか」


そう呟くと、莉央は再び階段を上ると、美咲の部屋のドアを開けた。

美咲の部屋のドアを開け、目的の参考書を本棚から取り出した。

あとで「借りたよ」と一言いえば、美咲は笑顔で頷いてくれる、そう思っていた。


「あー、良かった。これでレポート終わる……」


参考書を胸に抱いて本棚から離れようとしたとき、ふとドレッサーの上にあるオフホワイトのリングケースが目に入った。

莉央の頭の中に、つい数時間前の美咲の幸せそうな笑顔が浮かぶ。


「……お姉ちゃん、キラキラしてたな……」


恒一と顔を見合わせ、幸せそうに笑う美咲の薬指に収まる指輪。

まるで美咲の為に誂えたように、とても似合っていたなぁと莉央は思う。

自然と参考書を小脇に挟んだ莉央の右手がリングケースへと伸びる。

が、莉央は少しだけ迷う。


「……ちょっとだけ」


そう呟くとゆっくりとケースを開けた。

リングケースを開けると、あるはずの婚約指輪がないことに莉央の顔から血の気が引く。

自分は何もしていない。

それでも、婚約指輪がなくなったことを知ってしまった。


「どうしよう……」


そう呟くと莉央は慌ててケースを閉じ、一瞬迷ったあと元の場所にケースを置くと誰かに見つかる前に部屋を出た。

そして今。

莉央はその時のことを思い出しながら、少し強張った表情で頷いた。


「うん。レポートの資料借りようと思って」


提出期限が迫っていたため、今朝、莉央が美咲に参考書があるか確認したところ、美咲からあると言われていたものだ。

美咲も朝の莉央との会話を思い出す。


「ああ……そういえば言ってたね」

「その時、莉央。お姉ちゃんの婚約指輪見なかった?」


莉央の表情が固まり、きゅっと口元に力を入れたあと、息を吐くように呟く。


「……ケースは見た」


莉央の言葉に、美咲の視線がゆっくりと莉央へと向く。

その視線を受け、莉央は慌てる。


「でも、取ってないよ!」


その言葉の早さに、美咲の胸に小さな痛みが走る。

確かに莉央は、リングケースは手に取って開けた。

だけど、そこにあの婚約指輪はなかった。

指輪がなくなったことで、自分の行動を疑われるのだと莉央は気づいた。

さっきとっさに「ケースは見た」と言ってしまった。

本当はケースを開けたのに、それを言えなかった。

けれど、本当のことを話そうとすると、リングケースを開けたことを言わなければいけなくなる。

美咲になぜ?と問われれば素直に


「お姉ちゃんが幸せそうだったから、もう一回見たかった」


と言えばいいのかもしれない。

でもさっきの小さな嘘を今度は「見ただけと言ったのに」と責められてしまうかもしれない。

見ただけと言ったのが、ケースを開けたに変われば余計に怪しまれる気がすると莉央は思い、黙ってしまう。


「見たけれど、取ってはいない」


莉央の言葉に、美咲はぎゅっと胸の前で手を握り締めた。








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