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西の魔女商店ー大地の紋ー  作者: 月瀬ハルヒ
第二章 帰らない手紙 ―Via―
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第10話 それぞれの道

じっと写真を見ていた奈緒(なお)が、何かに気が付いたようにスマートフォンへと手を伸ばし、カメラアプリを立ち上げると写真の反射に気を付けながら写真を数枚撮る。


「叔母ちゃんなら何か知ってるかもしれない」


そう呟くと、通信アプリを立ち上げ慣れた手つきで文字を入力し、さっき撮った数枚の写真を叔母に送った。

たまたま叔母もスマートフォンを手にしていたのだろうか。

数分もしないうちに既読の文字が付く。


「あ、叔母ちゃん、既読ついた」


反応があった事で次の文章を打とうとしたところで、スマートフォンの電話が鳴った。

発信元の名前には叔母の名前が出ている。

奈緒は少し驚きながらも通話ボタンをタップし、そのまま通話をスピーカーにする。


『奈緒ちゃん、写真見たよ。懐かしいねぇ。お姉ちゃん、若い』


楽しそうな声で笑う叔母の声に、奈緒の表情も自然と柔らかくなる。


「ねえ、叔母ちゃん。その隣にいる人、知らない?」


奈緒の問いかけに、電話の向こうがしばらく静かになった。


『うーん……顔までは覚えてないなぁ。お姉ちゃんの友達まで全部知ってたわけじゃないから』

「そっか……」


叔母の記憶にもなかったことで、わずかに落胆した奈緒へ、叔母が続ける。


『でも、この写真……若葉荘(わかばそう)じゃない?』

「え?」

『ほら、後ろのアパート。ちょっと見えにくいけど壁に書いてあるでしょう?そこ、お姉ちゃんが県外で働いてた頃に住んでた会社の寮よ』


奈緒は送った写真を見返すと、その写真を裏返した。


――昭和五十一年 若葉荘にて。


「ここ、会社の寮だったの?」

『そうよ。学校を卒業してから三年くらいだったかな。県外の会社に就職してね。寮に入ってたの』


奈緒は写真の中の母を見る。

自分が生まれる前。

父と出会う前。

そこには、奈緒の知らない母がいた。

母になる前の母。

誰かの妻になる前の母。

ただ一人の若い女性として、自分の時間を生きていた頃の母だった。

写真の中の母は、楽しそうに笑っている。

その笑顔を見ていると、奈緒はなぜか少しだけ不思議な気持ちになった。


「そっか。……お母さんにも、こんな頃があったんだ。ねぇ、叔母ちゃん、『千鶴(ちづる)』って名前、お母さんから聞いたことない?」

『千鶴……』


叔母が記憶を探るように繰り返す。


『そういえば、千鶴ちゃんって子がいたような気がする。お姉ちゃん、仲のいい子がいるってよく話してたから』


奈緒の視線が写真の女性へ戻る。


「その人かな……」

『ごめんね、そこまでは覚えてないわ。もう四十年以上前だもの』

「じゃあ、お母さんはどうして三年で戻ってきたの?」

『お父さんが病気になったのよ』


叔母の答えは思ったよりあっさりしていた。

そういえば、と奈緒も思い出す。

祖母が口癖のように「お爺ちゃんは働き盛りの頃に大病をしたんだけどね、今じゃああんなにピンピンしてる」と笑っていた。


『帰ってこいって言われたわけじゃなかったと思う。お姉ちゃんが心配したんでしょうね』


叔母曰く、そこそこ大きな会社だったから、辞める必要はないと両親は言っていたが、母は地元へ帰ってきたという。

その会社での勤務経験もあったからか、母は地元へ戻って程なく、別の会社へ再就職したという。

そこで父と出会い、結婚した。

奈緒が知っているのは、母が地元の会社に勤めている時に父と出会い、結婚したことだけだった。


「千鶴さんのこと何か聞いてる?」

『お姉ちゃんから聞いた話だと確か、その子は外国へ行きたいって言ってたんじゃなかったかな』

「外国?」

『アメリカだったと思う。英語を勉強して、いつか向こうで働きたいって。当時にしたらすごい夢みたいな話だったから覚えてるのよね。寮に入ってたから、お金も貯めてたんじゃない?お姉ちゃんがこっちに戻ってしばらくしたら、アメリカへ行っちゃったみたい』


奈緒は二人が並んで笑う写真を見る。

一人は、家族のいる故郷へ。

一人は、夢見ていた海の向こうへ。

同じ若葉荘で暮らした二人は、それぞれ別の道を選んだ。


「なんで叔母ちゃん、知ってるの?」

『お姉ちゃん、外国から手紙が来たって言ってた覚えがあるもの。だからしばらくは手紙のやり取りしてたんじゃないかなぁ』

「そう、なんだ……」

『何かあったの?突然古い写真送ってきて』


叔母の問いに、奈緒は実家を片付けていたら、この写真が出てきたことを母の残した手紙のことには触れずに伝えた。


『ああ、そうなんだ。そっか、奈緒ちゃんは知らなかったんだね』

「うん」

『まあ、私もお姉ちゃんから県外にいた時の話はあまり聞いてなかったからなぁ。でもたまに話すときは楽しそうだったよ』


そのあと、実家の片づけのことを少し話し、電話を切ったあと、奈緒はしばらく動かなかった。

やがて、母の残した手紙の束を取り出す。

一番古い未投函の手紙。

それが書かれたのは、二人が若葉荘を離れてから何年も後。奈緒が生まれた頃だった。


「……じゃあ、それまでの間は?」


奈緒は写真と手紙を見比べる。


「二人、最初から音信不通だったわけじゃない……?」







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