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神世界のエスカトロジー  作者: 蒸しエビ
第一章・欠片
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四欠片目『傀儡の屍・前編』

 異形鬼を倒した蒼龍とノアは村を探していた。

 

「蒼龍ぅ腹減ったよー、村はまだ見つかんないのか?」

 

「この近くのはずなんだけど」

 

 手長達との死闘後、橋の上で野宿することになった。

 昨日だけで鬼と二度の連戦を繰り広げノアと蒼龍は気力も体力も限界であった。

 手長達を殺(たお)した後、案の定ノアは反動で動けず。蒼龍もまた雷鳴撃の反動で右足が麻痺していた。

 主に後者が原因なのだが。日が昇り足に違和感はあるものの動けるようになり、近くに村がある事を思い出しノアと一緒に探していた。

 

「あっ、ノアあったよ村だ」

「おぉぉ早く行こ!早く!」

 

 先程までぐったりしていたのが嘘のように、途端に元気にはしゃぐ。こうして見れば見た目相応の子供なのだが。 

 村につくと村人がぞろぞろ集まってきた。

 

「旅の人かい?珍しいね」


「………そうですね」

 

 少し間を置き蒼龍が答える。その声は穏やかであったが、どこか冷たさが滲んでいた。

 

「蒼龍、腹減ったよ」

 

 昨夜から食事を取っていなかったためノアは我慢の限界であった。

 

「あんらぁ、子供がおなすかせちゃいけないからねぇ」

「さぁさぁ、来なせ、食いなせ、食事を用意するから」

「ほんとか、ありがとう!じいちゃん、ばあちゃん」

 

 早く行こうと手を引くノアに「そうだね行こうか」と笑顔で答える蒼龍は一瞬、凄く暗い顔で何かを睨んでいるような気がした。

 

       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 その晩、ノアと蒼龍は村人の好意で泊めてもらう事になった。

 長年、人が住んでいない空き家らしく、好きに使っていいとのことだった。

 食事をご馳走になり、お腹が膨れたノアはお腹をポンポンと鳴らし寝転がっていた。

 

「腹も膨れたし昨日の橋の続きでもするか蒼龍!!」

 

 昨晩、橋でただ転がってるのも暇だったので蒼龍はノアに漢字を教える事にした。

 最初に教えたのは「龍」と「竜」の違いについてだ。「ソウリューにも角があるのか」と勘違いしていたからだ。いきなり難易度が高いと思うが意味をしっかり理解していた方が会話をするにも助かるから。と、言うのが建前であり本音は自分の名前を最初に教えたいという可愛らしい理由だった。 

 そのおかげでソーリュー呼びだったのが蒼龍に変わった。

 元々、言葉を文字では無く音で認識していたのもあり教える際に

「リュー(・)だろ?」

「リュウ(・)だよ」

「??」

「リュー」

「リュウ」

「???」

 と「ウ」が理解できず苦戦していたが、なんとか覚えた。

 そして今日もやる気は十分のようで文字を覚えようと「ふんす!ふんす!」と意気込んでいた。

 その様子が微笑ましく、蒼龍の強張っていた表情が和らぐ。

 

「おー!やっと笑った」

 

 ノアの一言に「え?」と戸惑いと驚きが漏れる。

 

「蒼龍ここ来てからずっと怖い顔してたぞ」

 

 戦闘において表情は情報であり微かな変化が一戦を左右する。そのため表情管理は徹底しており、普段から余裕を感じさせる強者の笑みを作っている。蒼龍自身も完璧であると自負していたため、まさかノアにバレるとは思っていなかった。

 

「心配させたみたいだね。ありがとう、大丈夫だよ」

 

 その言葉に安心したのかノアはニパッと笑みを浮かべた。

 その後しばらく勉強を続けているとノアがふと今日の事を振り返る。

 

「村の皆んなニコニコしてて楽しそうだったな」

「そうだね、生き生きとした“死体”だったね」

 

 その一言にノアが固まる。

 

「え…死体?どうゆう事だ蒼龍?」

 

 ノアの問いかけに「ん?あぁ、言ってなかったね」とでも言いたげな様子で蒼龍は話し始めた。

 

「いいかいノア、今この村に生きてる人間は一人もいないんだよ。生者特有の電磁波が無かったからね。皆んな死体だよ」

 

 蒼龍から放たれた衝撃的な事実にノアに困惑が襲う。

 手をバタつかせオロオロしていると蒼龍が一言。

 

「じゃあ勉強に戻ろうか」 

「いや、無理だろ」

 

 きょとん、と首を傾げる蒼龍。当然の反応だろう。生き生きとした死体と聞かされ、勉強に戻れる者など薄情でも無関心でも無く犯人だけだ。 

 ノアに一から説明するよう詰め寄られる。「落ち着いてお茶でも」とコップを差し出す蒼龍に「ヘラヘラするな!!」とキレる。差し出されたお茶をパシッと奪うように受け取り一気に飲み干し「おいしい!!」と叫び落ち着く。

 結局、落ち着く事になった。 

 ノアの息が整った事を確認し蒼龍は語り出す。

 

「まず、俺達がこの村に来てからいくつか違和感があった」


「違和感?さっきのデンジハ?とかいうやつか?」

 

「それもあるけど、この村って若い人が一人もいないんだ」

 

「どゆこと?」

 

「この村には若くとも六十代程の人しかいないにも関わらず所々に子供がいる…いや、いたであろう痕跡が残っていた」

 

「ほう?」

 

「他にも人が住んでいるにも関わらず家には埃がたまっていた。人が住んでおらず、それまで使(・)わ(・)れ(・)て(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)この掃除の行き届いた空き家と違って」

 

 蒼龍の言葉に背筋を冷やつかせる。思い返してみれば食事の時もノアの箸が子供用であり、寝間着として渡された服も十歳程のものであった。

 

「いくつかの家には子供用の靴もあった。使い古されたものでは無く新しく編んだものだ。藁で編んだ靴なんてどこの村でも作れるし、商品なら大人向けの方が採算が取れる。街に行けば革や布製の靴が主流で買い手はいない」

 

「え、あー。あ!ん?……うん、なるほど!分からん!!」

 

「一言で言えば、あるはずの無いものがあって、それがおかしいって事だよ」

 

「なるほど!分かった!!」

 

 時には細かく理論立てて説明するよりも雰囲気だけ伝えた方が理解できる事もあるのだとノアを通して学んだ。

 

「じゃあ、けっきょく子どもはどこにいるんだ?」

「多分だけど、この村を操ってる鬼の腹の中だね」

「また鬼なのか!?」

 

「ここ大和で何か起きるとしたら鬼か妖(・)怪(・)の仕業だよ」

 

 この国、大和は別名「鬼の国」と呼ばれており鬼や妖怪といった魑魅魍魎が跳梁跋扈している。もちろん、そんな事を知る由もないノアは「ヤマト?ヨウカイ?」と疑問符を浮かべている。

 

「大和は俺達がいる国の名前で、妖怪は鬼が死後変化したものだよ」

 

「へー、ん?もしかして昨日倒した鬼もヨウカイになるのか?」

「いや、ならないよ。と言うかなれない」

「なんでだ?」

 

「条件があってね。死んだ後、鬼火が生命力を摂取する必要がある」


「オニビ?」


「鬼火は鬼が死ぬと肉体を燃料として魂が外側にでてきたもので、要は幽霊だね」

 

「なるほど!おばけか!!」

 

 ノアへの教え方を掴み始め、要点だけを説明し細かい原理は省き例えにした事で先程までよりも会話がスムーズになった。

 

「話を戻すと鬼火状態では食べ続けないといけなくて必要以上に食べると余分なエネルギーが魂をそのまま肉体として再構築するんだ」

 

 かなり噛み砕いて説明したがやはり元が理論派なため少し説明調になってしまい、またしてもノアが分かるような分からないような?状態へとなる。

 一生懸命「うーん」と唸りながら思考する。

 

「つまり、いっぱい食べて大きくなったってこと?」

「なるほど…そういう解釈もできるのか」


「蒼龍?」

「うん?あぁ、その認識で合ってるよ」

 

ノアにも伝わるよう内容を整理し改めて説明を再開する。

 

「昨日ノアと最初にあった鬼魃(きばつ)、あそこは生命が枯れ果てた土地だって説明したよね」

 

「うん、あ!」

「分かったかい?」

 

「うん!なんもないから食べれなくて大きくなれない」

 

 随分、大雑把な回答だが間違ってはいない。要は生命が存在しないためエネルギーを摂取できず自然消滅するという事。

 

「そう。俺たちは倒してすぐに離れたからあの鬼はあのまま死んだはずだよ」

 

「手長と足長は?」

 

「あいつらは異形鬼だからね元々、肉体が妖怪同様魂をベースに作ってるから鬼火にはなれないんだ。なんとなく分かった?」

 

「なんとなく分かった!!」

 

 なんとなくだがノアに伝えられた事への謎の達成感を噛み締めていると、いきなりコンコンと扉を叩く音が鳴りノアがビクッと肩を震わせた。

 ゆっくりと扉が開き現れたのは村長?であった。

 

「夜分遅くにすみません」

「いえ、どうかしましたか」

 

「ここを治める方が貴方達をお呼びになっていまして」


「ここは、あなたが長(おさ)では無いんですか?」

 

「いえいえ儂は確かに村長ですがお会いしたいのはこの地(・)を治める方なのです」

 

 どうやら見た目通り村長だったらしい。蒼龍だけではなくノアも思っていたようで小声で「やっぱ村長なんだな」と呟いていた。

 村長の言う“この地を治める方”については鬼なのだろうと察しがつく。だが蒼龍にはもう一人、思い当たる人物がいた。もっとも考えていても始まらないので村長について行く事にした。


       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 移動中、草むらのほうで音が鳴るたびにビクッと反応するノアに笑いを堪える蒼龍。落ち着くタイミングを見計らってから村長はいきなり村語りを始めた。

 

「この村には死(・)者(・)蘇(・)生(・)の伝説がありましてな」

 

「シシャソセイってなんだ蒼龍?」


「死者蘇生っていうのは死んだ人が蘇ることだよ」


「生き返んのか!?」

 

「クカ…ほほほ、この村では昔から童が長く生きられんでなぁ。じゃから産まれた子は村総出で育てるんじゃ」

 

 どの家にも子供の道具があった理由はそれかと納得する。

 

「じゃが、やはり子を失うのは辛いんじゃろうて。蘇ったと言う者は子を失った母親じゃった」

 

「因みになんですが、ここ十年で子供は生まれましたか?」

 

「うん?いや、産まれとらんよ見ての通り爺婆しかおらんのでなぁ」

 

 この一言でで蒼龍の推測はほぼ確信へと変わった。

 爺婆しかいない。つまり十年前にはすでに若者が居なかったと言う事。

 初めは若者が他所へ移った可能性も考慮していたが今の発言でその可能性は消えた。

 それならば辻褄が合わない。

 生まれるはずの無い子どものために新品の靴を編んだ事になる。

 つまり、子供は十年前には居なかったのではない。

 十年前に、居なくなった。

 

「喰ったな」

 

 蒼龍が呟いた言葉に、村長の口元が一瞬だけ緩んでいた。

 その後もしばらく駄弁りながら歩いていると、目の前に目的地であろう屋敷が見えた。 

 

「立派なお屋敷ですね」

「そうでしょう。特に障子なんて」

「えぇ、とても気色が悪いですね。人間の皮膚で作ってあって」

 

 興奮気味に語る村長に被せるように蒼龍が悪寒が走るような一言を放つ。顔を歪める村長に構うことなく、蒼龍は畳み掛ける。

 

「そろそろ村長越しではなく直に出てきてはどうだ。屍童子(かばねどうじ)」

 

 その言葉に村長…いや屍童子は愉快とばかりに笑う。

 

「クァッカッカ、気づいておったか小僧!!」

 

 次の瞬間、村長の体が四散する。血飛沫をまき散らしながら出てきたのはノアと同じくらいの子供。

 

「クカカ、勢い余って爆散させてもうたわ」


「コイツが鬼なのか?角が生えてないぞ」

 

「ん?小僧と違い童の方は屍(・)童(・)子(・)を知らんのか?」

 

 屍童子のこの発言は一見、自身が有名であるかのように聞こえるが違う。

 元来、鬼の多くは固有の名前を持たず手長や足長、屍童子も名では無く一種の分類である。

 蒼龍が鬼に詳しいのも文献など数多く残されているためであった。

 

「ノア、目の前の体も村長同様に死体だよ。ただ他と違うのは中身が屍童子本体である事」

 

「クカカ、やはり小僧の方は知っているな。せっかくだ小僧!童に説明する時間をやる」

 

 屍童子の予想外の提案に警戒を強める。蒼龍の訝しむ視線にやれやれと首を揺らす。

 

「そう、勘ぐるな。理由は単純、その方がより強く恐怖を与えられるからじゃ。儂はな飢えを満たし安眠を与え歓喜したところで絶望に落とすのが好きなんじゃ。その方が魂が恐怖で満たされサッパリとした味わいになる」

 

 まるで家畜の育て方のように淡々と喜色の表情を浮かべながら話す屍童子に蒼龍は嫌悪と侮蔑の籠もった視線を向ける。

 

「お言葉に甘えるとするよ」


「クカカ、嫌悪しながらも切り替えが出来る所は評価に値するぞ」


「蒼龍はおまえから褒められても嬉しくないと思うぞ」

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