七欠片目『山駆ける彗星』
「え?え?どゆこと?」
「ヤ…ハハ……ガキぃ…コレは陰キャの仕業だ…楽しめよ」
▲△▲△▲
「ヤシシ…やっと、うるさい馬鹿を殺せた」
僕の名はチギリ、顎と書いて顎。
あっちの大声だけが取り柄のくせにアギトなんて名乗ってる馬鹿と違って正真正銘の狩人さ!!
虎挟みなんて僕と被る使い方してるくせに馬鹿正直に真正面から戦闘するなんて流石は陽キャ、頭脳が低いよ!!
真のハンターは獲物を捕るために自ら駆け回ったりはしない。罠を張り巡らせ獲物を待つ。
そう、僕のように!! 僕のように!!
大事な事なので三回言うよ、僕のよう——
▲△▲△▲
「………死んだのか?」
「………まだ……」
「とどめさそうか?」
「ガキぃ……鬼畜って言われないか?」
人の心を置いてきたのか、はたまた情けからなのかは不明だが、少なくとも「楽しめよ」とかっこつけた相手に言う台詞ではない。
そして、ノアの提案に魔人は薄れゆく意識の中で頬を引きつらせながら逝った。
「死んだか。ぬぬぬ、どうしよう? 神楽いないし、インキャ?もみえない」
ぬー、と唸り声を上げながら魔人の死体の周りをぐるぐると歩き始める。その姿は端から見ると何らかの儀式にしか見えない。
五分程周り続けた頃、流石に目が回ったのか足元がぐらつく。いや、地面が盛り上がった——
「うわっ!?」
▲△▲△▲
「え? え? なに? なにしてるの、あの子?
死体の周りをぐるぐると…意味がわからないよ…
分からなすぎて怖いよ……」
「はっ、まさか御神楽!?」
「観察してたけど、一帯の影を犠牲にしなきゃ防げないあの頭の悪い攻撃…あれは連発可能みたいだし…あれが御神楽で強化、もしくは上位の技として放たれたら僕に勝ち目はない……」
「殺さなきゃ…悠長に待ってる場合じゃない。
アレは兎ではなく獅子なんだから…そして僕は獅子をも喰らう狩人だ」
「『月湖』浸された影に咬まれるといい」
やばい、今の僕めっちゃ雰囲気あってかっこよかった!!
え、やっぱウェイウェイ、うるさい陽キャよりも静かに敵を倒す僕みたいの方が絶対かっこいいって間違いないって!!
ちょっとポーズとってみようかな〜なんて…へっへへ
▲△▲△▲
「なんか、ぐにぐにするぞ? ………………。えいっ!!」
ぐにぐにとした弾力に盛り上がった影に、何を思ったのかノアは思いっ切り踏みつける。
その瞬間、影は虎挟みの様に口を広げ——
__________バチンッ__________
足を挟み切った。
「イっ——ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙………あし…あぁ゙しが……」
足を抑え痛みに悶える。苦しむノアを追い込むように、顔の前の影が盛り上がり始める。
だが、足に意識が集中しており危険に気付かない。
「ふすぅ……ふすぅ……また…あし…なくなるなんて…うゔ…」
膨れた影が口を広げる。そして、ノアへと咬み付——
『睡蓮!!』
突如として影が発火すると同時に現れたのは…
「ノア無事か!?」
「か…ぐら?」
「大丈夫かノア?足押さえてるが怪我でもしたのか?」
「だ…だいじょぶ……いま、なおったから」
「そうか、ならいい。今の攻撃からして相手は陰キャか?面倒くさいが扱いやすくはあるな」
(てか、横に魔人の死体あるがノアがやったのか?
なんで魔人顔引きつってんだ?痙攣でもしてたのか?)
足を生やしたノアは神楽に状況を説明しようとする。だが、初めからノアの説明に期待していないので早々に現場整理で事態を把握した。
▲△▲△▲
「は…え?なに…が……え?」
僕は確かに足を咬み切った……なのになんで……
「はっ、そうだ足は!?切断された足は——」
無い。………一体何なんだアレは…。獅子どころじゃない…。
そもそも再生するってなんなんだ…
例え異能だとしても再生時に何かしら変化があるはずだ……
瞬きする間に元に戻るなんてあってたまるか……
なによりあの子は月湖の上に居るんだ。
一秒に満たなかったとしても、再生時に何かしら感じ取る。
だけど……
あんないきなり現れるなんて…あり得ない……ある筈がない……
例え、妖怪だろうと…妖だろうと魔神だろうと…神だろうと……。
「逃げるのも手か……。僕の攻撃を邪魔した炎、アレは鳳炎家の者だろうし光で影が消されるのも厄介だ。
うん。逃げよう。逃げるが勝ちという事もある!!
僕は頭にドングリの詰まった陽キャ共とは違って狩人であり陰キャだからね!!」
▲△▲——
「ほーん、インテリねぇ」
「………へ?……あ、え…あ、あの……ど、どこから…」
「ドングリの詰まったステゴロのとこからだな。」
(ガッツリ聞かれてる!!! だめだ………終わった……ちょうどイキったところを聞かれるとか……はぁ…終わった……)
「んなこと置いといて、お前『月湖』使ってるし上級だよな?いくら夜でもここまで範囲広いと中級じゃ無理だろ?」
「え…あ、はい…まぁ……」
(どうしよう…どうしよう……
どうにか、どうにか聞き間違いって事にしなきゃ…そ、そうしないと僕は…
僕は後で『思いだ死』することになる……)
神楽の問いなど眼中になく。ただひたすらに自身の行動に対する後悔と羞恥、自意識過剰による嫌悪に身を焼かれ悶え苦しむ未来の自分を想像し頭を抱えていた。
「こ………きゃ」
「あ?なんだって?」
『月湖・虎挟み・面』
「ッ——『蜀紅蓮』」
【月湖——名の通り湖が如くに地面を覆い、歩く度に波紋を広げる魔人のフィールド】
そして今まさに、月湖を埋める程に出現した虎挟みは神楽の退路を断つ。だが、すぐに顎の意図に気づき蜀紅蓮で影を消し去る。
魔人が本来操れるのは自身の影であり、夜になると周囲の影との境が無くなるために操ることが出来る。
だが、本来存在しないものであるために自身の影と違い光に弱く、炎などで照らされれば意味をなさない。
故に神楽の行動は完璧な模範解答であった。
そう、模範解答だった——
『齶掌』
「ッ——ぶっね…」
「………」
「まさか、陰キャが近距離でくるとはな」
(地面の影で俺の行動を誘導し、その隙に自分の影で攻撃……かなり柔軟なタイプだな)
「殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ」
(僕の歴史に黒いページは要らない。これ以上増やさないためにもここで殺す。その為ならアギトの技でも使ってやる)
「ふぅ…あんま派手に燃やすと山火事になるが明かり自体は欲しい。となれば」
(そういえばコイツはどうやってここまで来た?月湖に気づかれずにどうやって………まさか——)
「ここに来る時、気づかれると厄介だったんで木を跳んで来たんだ。流石に普段の状態で跳ぶには距離があったんでこいつを使った。『炎武』」
【炎武——鳳炎家に伝わる一家相伝の技術であり、基礎的な強化術。体の一部に炎を纏わせ身体能力を向上させる】
(発動者本人にしか影響の無い炎……周囲に燃え移る心配無しに使えるうえ光源も手に入れる……厄介すぎる……。
こいつの魔力量がどのくらいかわからないけど、流石に夜明け前には尽きるはず…長期戦に持ち込めば僕の勝ちだ)
__________ピチャン___________
「あっ……」
『一等星!!』
『鰐嚙』
「くっそー!!ふせがれた!!」
(???????この子どうやって来た!?!?!?
たった今まで、アギトの死体の横に居たはず……
あそこからここまで150メートルはあるんだぞ!?
月湖で完全に把握してたんだ間違いない、なのに……
ひとっ跳びで直進したとしても無理だ!!
この子が更地にした範囲は目測で直径50メートル……25メートルまでなら問題ないかも知れないが6メートル以降は木々が邪魔するはずだ……)
「やっぱり!!ガイコツのときはイシたんなかったはずなのになんかつかえるようになってる!!やったぞ神楽!!」
「お、おう!!なんだか分かんねぇが、良かったな!!」
(僕は一体…何を相手にしてるんだ……
………いや、どうでもいいか……僕はただ、鳳炎を殺して逃げ切れさえすればいい。そうすればイキリ散らかした恥よりも、獲物を始末して去っていく孤高の狩人として上塗りできるはず!!)
「ヤ、ヤシ……ヤシシ…ヤシュ」
「神楽、あいつなんかキモチわるい笑いかたしてるぞ」
「陰キャってみんなあの笑いかたすんだよなぁ」
「グハッ——」
カッコいいハンターの自分を想像し思わず笑みが溢れるが、すぐさまノアに気持ち悪いと現実に引き戻される。それどころか恥の上塗りで生気を感じない青白い肌があっと言う間に健康色へと早変わりする。
「………死ね。『齶掌・蟒蛇』」
『掌底菊——』
『鰐嚙』
『火達磨!!ッグ——』
チギリの一瞬の切り替えは凄まじく、赤面する陰キャから一瞬でハンターとしてその猛威を振るう。
チギリの齶掌はアギトとのものと同じく、掌に影を纏い巨大化させたうえで大きなトラバサミの様な口で咬み付くシンプルな攻撃だった。
だが、あろう事かチギリは陽キャの技である齶掌を改良し大蛇の様にうねらせ、神楽に向けて伸ばした。
すぐさま反応し菊一で防ごうとするが、足元の影からノアの攻撃を防いだものと同じ…いや、本来の使いである丸呑みを仕掛けてくる。
神楽は優先すべきは下だと判断し火達磨による全方位に向けた光源で影を消し去る。が、しかし…蟒蛇を防ぐことが出来ず、木々を背に押し込まれて行く。
「神楽ァ!!」
(「人の事を気にしてる場合かい?」
「ッ——」
「僕の縄張りで自由に出来ると思わないことだね」とか言いたいけど途中で噛んだら死ぬ!!絶対に言えない!!でも、すっごい言いたい。だってかっこいいから!!)
『蛇蝎・囓み狂』
「うわっ!?『原始——』」
「あっ、まず——」
『星』
__________ドゴォォン__________
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「イッテテ……あいつは?」
「ノアーー!!どこだー!!」
「神楽!!」
「ノア!!大丈夫かっ…て愚問だよな」
更地となった周囲を見渡し呟く。ノアの一撃は、再び森林破壊を引き起こしていた。
「あいつは死んだのか?」
「分かんねぇ。なんせこの有り様だからな、消し飛んだのか吹っ飛んだのか」
▲△▲△▲
「はぁ…はぁ…生きてる……」
奇跡だ……絶対死んだと思った……
それに、防がなくてよかったぁ……
自影を切ってまで外影で盾を作って守ったところでアギトと同じ末路を辿るだけだった…
防御を捨てたおかげで自影は残ってる……これなら逃げる事も出来——
「あっ……あ…あぁぁぁぁ!!!殺さなきゃ、殺さなきゃ、僕の恥が生き続けてしまう……僕はまだまだ……このままじゃ楽しめない……」
幸い月は雲で隠れてる。もう一度月湖を広げて今度こそ咬み殺してみせる。
ヤシシ、遠距離こそ狩人の戦場だ。
『月湖・囓み地獄』
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「とりあえずこっから離れようぜ。もし陰キャが生きてたら、ぜってぇ俺を殺しに来る。なんか聞いちゃいけねぇこと聞いたみたいだからな」
「なに聞いたんだ?」
「なんかドングリがどうとか言ってたがよく分からん。陰キャは知られたくない事が多いくせに独り言も多いから全部丸聞こえなんだよ」
「ほーん、そうな——神楽ァ!!!」
『炎海・蜀紅蓮』
ノアの咄嗟の呼び掛けに咄嗟に反応し、最大威力の蜀紅蓮を放つ。間一髪、炎が広がると同時に完全に影に包囲される。
そしてそのまま噴き上がるように虎挟みやら鰐嚙やらが飛びだし迫りくる。
「消えねぇ゙ぇ゙、アイツ地獄使ってやがんなぁあ」
(ノアが言わなきゃ危なかった……それに、咄嗟に神気で放ってよかった。この影神気使ってやがっから魔力じゃ突破されてたぞ!?)
「神楽、これどのくらいもつ?」
「くっ……うぅ、そうだな……五分ぐらいじゃねぇかな…。
俺、神気そんなねぇし…この技燃費わりぃからな」
「そうか……神楽、あいつたおしたらコレ消えるか?」
「あ?あぁ…まぁ消えるが……ってまさか!?」
「ちょっといってくる」
風の流れが変わる、渦を描く様にノアへと集束する。
ノアの周囲が発光し始める。白銀の光は淡い薄群青へと変わりパチパチと光り舞う星屑は光と溶け込みノアを覆う。
『彗星』
▲△▲△▲
これで終わりだ……え? なんだ…あの青い揺らめき?
いや…そもそもなんだ、この移動速度は?感知するより先に、距離が進んでいるぞ!?
まさか…あの子なのか!?囓み地獄に耐えきれないから僕を直接潰しに来たのか!!
いや、そもそもどうやって囓み地獄を抜けた!!?
「考えてるのは後だ、足止めが先だ!!」
クソっ!!速すぎて間に合わない!!
予測して前に出してるが…口を閉じる前に抜けられる……
それにあの光…アレはあの子から発せられているみたいだが速すぎて尾を引いている…まるで彗星の様な……
「はっ…まずい逃げなけれ——」
「みぃつっけた〜」
▲△▲△▲
「なぁ、魔人。お前が確かに優れた狩人だ。
だがよ、掴めねぇだろ?『星』はよ!!」
「来るな来るな来るな来るなぁぁぁぁぁ」
「決めろ、ノア!!」
「嫌だ、死にたくない!!僕はまだ——」
『彗星斬!!』
あぁ……嫌だ…
嫌だ嫌だ…
嫌だ嫌だ嫌だ……
「嫌だ……」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ僕は……まだ…
“殺し足りない”
『日蝕』
こんにちは。蒸しエビです。
次回より第二章は後半へと入ります。
今回含め前半は内容を考えていなかったのでアドリブでしたがなんとか書きたいとこまで繋げることが出来ました。
ですが残念な事に、諸事情により来週の更新が間に合わない可能性があります。
早めに完成させるつもりではございますが、ブックマークを付けて更新をお待ちいただけると嬉しいです。
それでは、また次回。シースー。




