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神世界のエスカトロジー  作者: 蒸しエビ
第二章・魔人
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四欠片目『夢は記憶で出来ている』

「名前は誇りって言ってた割に全然名乗らなかったな。まぁ、陰キャだから喋んねぇとは思ったが」

 

「ゴニョゴニョ言っててききとれなかったぞ。

 あと、ユミってどんな字だったんだろうな。まえの魔人はあて字だったんだろ?」

 

「あー、そういやそうだったな。漢字聞いとけばよかったな。岩陰の隅に居たし、隅で隅(ユミ)だったんじゃねぇか?」 


 魔人の名前に盛り上がる中、神楽はふと思い出したようにノアへと尋ねる。


「そういやノア、俺の名前聞くの拘ってたが、なんかあんのか?」

 

「ん? あー!うん! むかしデストが言ってたんだ」

 

 ●●●

 

「ノア、いつかお前が返さなくちゃいけねぇと思う程の恩を受けた時、この言葉を思い出せ。」

 

『受けた恩には名を刻め。

道分かつ日が来ようとも、初対の想いに偽りは無し。』


「どゆいみだ?」

  

「敵になる事があったとしても、初めからそうでは無かったと覚えておけよって意味だ」

 

 ●●●


「思ってた数倍ちゃんとした理由なんだな」 

(まぁ絶対、助けてもらったから名前聞こうぐらいにしか分かってねぇだろうけど)


「ていうか、ノア。デストって確か一緒に暮らしてた人だよな?大和では蒼龍と旅してたって言ってたが、デストは森に残ったのか?」

 

「ん?デストは死んだぞ」

「ヹッ」

 

「いきなり神がきてデストを殺したんだ」

 

 相変わらず清々しいほどに過ぎた事実として語るが、初見の神楽には淡々と話すにしては濃すぎる内容に、頬を引きつらせている。


「神が直接出張って来るって、デストなにもんだよ!?」


「わからん!! だけど、デストもなんか神にクロバラ?とか呼ばれてたぞ」

  

(そっちもネームドなのかよ……)

 

       ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

       【実りの町・湯飯(クッパ)】


「「はらへった〜」」


 二人が町につく頃にはすっかり日が落ちており、揃って腹の虫を鳴らしていた。

 

「腹減ってるが、取り敢えずは宿を探さねぇとな」


 宿は無いかと30分程辺りを散策するが、宿以前に店が一つも開いてない。

 それどころか移動中、人を一切見かけなかった。

 あまりにも不自然な空気に二人は顔を見合わせる。


「なんか、ジメジメした感じだな」

「ジメジメっつうか…おどろおどろしいって感じがすんぞ」


 普段であれば大通りに露店が立ち並び、あちこちで店主達が自家製の果物や野菜を試食させて客を呼び込んだりと、賑わいを見せている。

 だが今は、視界に映る限りお世辞にも栄えているようには見えない。

 無論、建物は綺麗だが、あまりの人気の無さに…廃墟のような暗く冷たい空気が漂っている。


「ノア、もしかしたらヤバい状況になってっかもしんねぇ」

「ヤバい?」

「あぁ、今すぐ離れた方がいいぐら——」

 

 神楽が呟いた、その瞬間——視界が揺れだす……。


「ぅ゙っ……あぁ……」

「神楽!?」

「やっぱ魘(えん)か……わりぃ、ちょっと寝る…わ…」


 そこで神楽の意識は深く深くへ誘われた……。


        ●〇◉◉◉◉◉〇●


「ん…ここは?鳳炎家か?なんで……いや、たしか——」


「兄さん!!」


 背後からの声に思わず振り返る。

 その先に立っていたのは——


「火鈴(かりん)……」

 

 朱色の髪を横に一つ結んだおさげの少女。

 俺の……死んだ筈の妹が、そこには居た。

 

「もぉー、兄さんってば聞いてるの?」


 頬を膨らませ可愛らしく怒りを表明する。

 とても懐かしいその仕草に、胸の奥から熱い感情が込み上げてくる。

 視界が滲む…。涙が止め処無く溢れてくる。

 仕方ねぇだろ……

 この目に、耳に、残って離れねぇんだよ…。

 風鈴の様に透き通った声も、沈む夕日のように淡い黄金色(こがねいろ)の瞳に、冷め始めた鋼の様に鈍い光を帯びた瞳孔も。

 動く度に音を奏でる、髪留めに付けた二つの鈴も。

 何もかも…忘れらんねぇ、大事な記憶。

 俺がこの世で最も愛して守りたかった、何よりも大事だった俺の宝……。

 妹(火鈴)が…目の前に立って居るのだから。

 

「え?え?なんで泣いてるの!?どこか痛いの?大丈夫?」

「あぁ、大丈——」

「ちょっと待ってて!!お水取ってくるから!!」


 止める間もなく、駆け足で部屋を出ていった。

 水は要らねんだけどなぁ…。

 

「ふぅ、よし。一旦、整理しよう」

 

 見たところ、ここは鳳炎家の屋敷見てぇだが俺は何のためにここに居んだ?

 直前までの記憶を辿れ。

 確か火鈴に呼ばれて部屋に……ん?呼ばれた?何言ってんだ?俺は——

 

「あ゙ー、魘(えん)の夢の中かぁぁ」


 そうだ、俺は湯飯で宿を探してたんだ。

 そんで明らかにいつもと違げぇとおもったら、眠気に襲われた、と。

 

「まじぃな…。魘の夢ってこたぁ、早く出ねぇと夢と現実が区別つかなくなる。てか、今日何日だ?」

 

 魘は悪夢を見せる物怪(もののけ)だ。

 つまり俺にとっての悪夢(あの日)を再現するにちげぇねぇ。

 

「兄さん!!お水持ってきたよ!」 

「あぁ、わるいな、ありがとう」


 取り敢えずは、これからやるべき事の整理だな。

 まずは日付の確認。次に突破口の確認。その次は火鈴と街に出かけて、そんで……はっ!?

 やべぇ、予想より侵食が早い。さっさと行動したほうが良さそうだ。


「なぁ、火鈴。今は何年の何月何日だ?」

「え?今は統神暦、3816年、伏月(ふくげつ)の21だよ。どうしたの日付なんか聞いて?」


 伏月の21……ん?21?

 誕生日じゃねぇか!?

 なるほどな、あの日から丁度一年前か。


「兄さん?」

「ん?あぁ、えぇと。ゴホン、火鈴、今日はお前の誕生日だ!!」

「え?あっ!本当だ!!」


 本当だ、って……。

 そうだったな、この頃にはもう誕生日を忘れるぐらい……。

 

「なぁ、火鈴。今日、一緒に街に行かないか?

 せっかく誕生日なんだ、露店とか回って買い物でもしよう」


「えっ!いいの!? あっ……でも…お務めが…」

 

「そんなん気にすんな。誕生日なんだから、な?」

 

「うん…行く!!」


 不知火家の血を濃く引いた火輪は感情に合わせて瞳の色が変わる。

 喜びに満ちた瞳は金山慈姑(アマリリス)の様に鮮やかで、混じり気のない赤に染まっている。

 俺の好きな色の一つだったな。


「よし、じゃあ準備し——」

「だめだ」


 チッ、来やがったな。

 乱雑な音を立てて襖が開けられ、偉そうに顎をしゃくり上げながらほざく、灰を被ったような白髪にメッキの剥がれた金食器の様な瞳の高圧的なジジイ。


「今日は魔人討伐遠征がある。火鈴…お前に遊ぶ暇などない…務めを果たせ。」

  

 鳳炎家元当主、鳳炎赤羽(あかばね)。

 俺の宝をくすませた要因の一つ……

   

「壁に耳あり障子に目ありとはよく言ったもんだぜ」

 

「神楽、お前もこんな所で油を売っている暇など無いだろう。さっさと稽古に戻れ」 

 

 本来ならここでジジイに逆らえず、火鈴は務めを、俺は鍛練をする事になった。

 だがよ、ここは夢の中だ。あの日みてぇに、はいそうですかと従ってやる義理はね゙ぇ゙。

 実際、今の俺ならジジイぐれぇならボコせるしな。


「分かり……まし——」

「黙れやジジイ」


「兄さん!?」

「神楽、お前今なんと言った?」

 

「難聴か爺さん?黙れつったんだよ!!」


「お前、誰に口を!!」

 

「生憎、俺はこれから火鈴デートなんだ。

 アンタの小言に付き合う暇はねぇ。

 火葬時期が早まる前にさっさと部屋に帰れ」


 気持ちぃ……。ジジイに啖呵きんの滅茶苦茶スッキリするわぁ。

 あっ、やべ、火鈴の瞳が白み掛かって固まっちまってる。

 そりゃそうか。

 火鈴の前ってか、叔母さんと修行するまで、俺口悪くなかったからな。

 まぁ、叔母さんの口調が移ろうが、そうでなかろうが、遅かれ早かれジジイに文句言ってただろうし構わねぇか。

 

「神楽、お前は確かに優れている。だが、まだ未熟だ。この家では火力こそが全て。

 強火になれる資質を持っただけの中火が…この儂に黙れだと!!

 図に乗るなよ塵(ごみ)が!!」


「耄碌してんじゃねぇよ爺さん!!

 この家では火力が全て?だったらアンタ。

 いつまで俺より火力が高い気でいんだよ!!」


「ほざくな゙ぁ゙!!『爆——』」

『白底菊一』


 ジジイに向けた俺の渾身の掌底(一撃)。

 当たる寸前に白菊の花を模した白炎が火花を咲かせ、そのままジジイの腹に炸裂させた!!

 

「がっはぁ!!……百花……繚乱…?」


 爆風で風鈴が風情も糞もねぇ音を奏でる。

 直撃を受けたジジイは襖を突き破って縁側で白目剥きながら蛙みてぇに伸びている。

 

「圧勝にして完勝にして優勝。圧倒的に完全に優劣がついたな爺さん!!

 俺の勝ちだ。年取ってからの根性焼きはキツイだろ。こちとら反抗期なんだ夜露死苦!!」

 

「に、兄さん?」

「あっ、やべ」


 調子乗りすぎたな…。火鈴の瞳が灰色掛かってる。めっちゃ引いてんなこれ。なんとか誤魔化しを——


「だっはっはっは!!やんじゃねぇか神楽!!」


 この豪快で耳を突く声はまさか……


「えっ、鶴(かく)叔母さま!?」


 やっぱり…。

 

「よぉ!火鈴!!

 久々に戻って来たらおもしれぇ事になってんじゃねぇかよ!!

 おい神楽!!さっきの、圧勝にして完勝にして優勝。圧倒的に完全に優劣がってやつ、ありゃ俺の真似か?いいセンスしてんじゃねぇか!!」


 相変わらず——いや、正確には過去だから懐かしいが正しいのか?

 どっちにしろ、叔母さんには恩があるし嫌いじゃねぇが、修行がキツすぎて思い出すと若干怖ぇんだよなぁ。

 滅茶苦茶スパルタで何度か死にかけたし。

 おかげでジジイをワンパン出来たが、それはそれ、これはこれ、すぎんだよ。

 

「ざまぁねぇなジジイ!!

 威張り散らした挙句、孫に伸されるなんざプライドの塊なアンタには我慢ならねぇだろ。

 まぁ、安心しろや。その無様、誰の目にも晒されねぇように棺桶に入れて火葬してやっからよぉ」


 相変わらず勢いが風みてぇな人だなぁ。 

 まぁいいや、ジジイは叔母さんがなんとかしてくれるみてぇだし。

 今のうちにとんずらこくか。

 にしても介護するみてぇな言い方で介錯しようとすんのは流石、叔母さんって感じだ。


「じゃあ、叔母さん後頼むわ。俺は火鈴と出かけてくる」

 

「えっ、ちょ、兄さん!?」


「おぉ!!楽しんでこい!!」


        ◆◇◆◇◆◇◆◇◆


       【春雨の首都・純豆腐(スンドゥブ)】

 

「よし着いたぞ。 火鈴、どこから回りたい?」


「………兄さん、本当に大丈夫かな?後で怒られない?」


「ジジイ殴った事か?」


 火鈴の事だから自分じゃなく、俺の心配でもしてんだろうな。


 ジジイが俺に伸された以上、俺にとやかく言ってくるやつは居ねぇだろうから問題は——

 あ゙ーいや、一人いたわ。思い出したら苛ついてきた。


「火鈴が気に病む事じゃねぇから安心しろ。

 それよりも色々見て回ろうぜ、な?」

 

「うん。兄さん、私あそこから見たい!!」

  

「よっしゃ!!さっそく行くか!!」


 笑ってくれて良かっ——あっ。

 あぁぁぁぁ!!これ夢だったじゃねぇか。

 完全に過去に来た気分だった…。

 ていうか、ジジイ殴ったのに夢から覚めねぇぞ?

 事実と矛盾すっから破綻するかと思ったんだが。

 ん?矛盾?…………いや……待て…待て待て待て……なんで…叔母さんがいた?


「兄さん早くー!!」


 この日、叔母さんは来てないぞ……なのに何で…俺は受け入れた?


「兄さん?」

 

 夢は記憶で出来ている。

 記憶は常に歪み湾曲しながら整合性を保つ。

 この夢は記憶を組み換え違和感を消してやがる。

 俺の記憶が…書き換わってる……。


「か、火鈴——」

 

「兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん」















「楽しいね」

ご覧いただきありがとうございます。

『神世界のエスカトロジー』第二章・第四話、楽しんでいただけたでしょうか?

今回は神楽の記憶をもとに、夢と現実が混じり合う展開となりました。

皆様の記憶は、本当に事実だけなのでしょうか。それとも神楽のように……。

今後、夢について説明しない部分も多くなると思いますので、近いうちに番外編で解説するかと思います。

作中で説明できるようであれば書いていきたいと思いますので、次回も楽しみにしてくださると嬉しいです。

それでは、また次回。お会いしましょう。シースー!

追伸:予約投稿してたんですが気に入らなかったんで書き直しました♪

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