一欠片目『神楽』
皆さんこんにちは。作者の蒸しエビです。
今回から第二章が始まり、今までとは一味違った冒険やキャラクター達が登場します!
ぜひ楽しんでいってください。
それでは本編へ、どうぞ!!
………ザァ…………………ザァ…………ザザァ………
…………(ナミの音?)………ザザァ…………ザァ………
………ザザァ…………ザザァ…………ノ………………ア…
………(なんか…聞こえる?)………おき……ろ………
移ろう意識の中、波の音が響く……遮るように雑音のように何かが聞こえる……。
…………ザザァ………ノ……ア………ザザァ…………
………ザザァ………起き…………ザァ…………ろ………
——「起きろ、ノア!!」——
「はっ!!、ゴホっ…ごぼぉ…ゲホッ……蒼龍?」
焦点が合わず揺れる視界、薄っすらと人影のような物が動くのが分かった。
「気が付いたか!? ゆっくりだ、ゆっくり呼吸しろ、海水が肺にまだ残ってるかも知れない」
「ふぅ…ふぅ…あ…ありがとう…………」
指示に従いゆっくりと呼吸する。だんだんと呼吸が落ち着き、視界も見え始める。
「…………だれ?」
視界に移る人物は——紅い髪に金の瞳。青年と呼ぶ程の歳であろう男が立っていた。
「ん?あぁ、俺か?俺はただの通りすがりだ。そんで、浜辺に打ち上げられてたお前さんを助けた男」
「………蒼龍は?」
「連れが居るのか?俺が来た時点では、倒れていたのはお前さんだけだ」
(蒼龍?どこに……いるん…だ…)
そこで再び意識が途絶える。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…………バチッ…………パキッ……………
(なんか…聞こえる?)
…………パキッ…………薪足すか……バチッ………
「ん゙ん゙……」
「おっ、起きたか。」
目が覚めると先程の青年が火に枝を焚べていた。
「……ここは?」
「ん?ここか?ここは見た通り浜辺だ。体が冷えてたからな、取り敢えず波が来ない場所に移動したんだ」
「そっか……ありがとう………だれ?」
「ん?俺はただの通りすが——」
「おれを助けてくれたんだろ?そこは覚えてるぞ」
ぼやぼやとした意識ではあったが一応は覚えていた。
それよりもノアが今知りたいのはただ一つ。
「なまえを教えてくれ」
「名前?別にいいが…連れがいたんじゃないのか?そっちの事とか聞くことあると思うんだが…」
「蒼龍ならきっとだいじょぶだ。それより、なまえを教えてくれ」
それより、と流していいような事ではないが、ノアの視線は真っ直ぐに青年の瞳を捉えている。
目覚めたばかりによる思考不足や混乱ではなく、ノアの瞳からは真剣さが伺えた。
「俺は神楽…鳳炎神楽だ」
「ッ!おれはノアだ!!よろしくカグラ!!」
「おぉ、よろしくノア」
青年改め鳳炎 神楽。ノアは忘れているようだが、その家名は以前、蒼龍が『簡潔』に説明していた護神家の一つであり、デストを殺した神に仕えし者の集まりである。神楽…彼が味方となるか敵となるか……。ノアにはそれ以上に重要な事が他にあった。
「ところでカグラってどう書くんだ?」
「ん?あぁ、神が楽するって書いて神楽——って、文字分かるか?見た所、ここらの人間じゃなさそうだがどっから来たんだ?」
「へ?あぁー、ヤマトから来たぞ!!」
「大和か、それなら文字は通じるな。……ん?大和?え?大和から来たのか?」
神楽の驚きっぷりからノアは少し嫌な予感を感じ取る。
「え?うん。そうだぞ、蒼龍がロキア?にいくってガケがあるとこ行ってよ、なんかおっかないガイコツにやられて気づいたらこうなってた!!」
「骸骨?は、よく分かんねぇけど…ロキア?は、ロキシアのことか? でも…そしたらなんで、ロキシアじゃなくて春雨に居るんだ?」
「へ?」
…………ザァ………バチッ………ザザァ…………パキッ……
波と焚き火の音だけがその沈黙の場に響いた。
「スゥ…うん…。神は分かるけどラクってどんな字だ?」
話題を変える…ノアは現実逃避を選んだ。
「え、あ、あぁ…えっと、こう書いてこうだ」
地面に書かれた文字をまじまじと眺めるノア。
『神』は知っているのに『楽』は分からないと言うノアに神楽は逆にどんな字なら知っているのか好奇心が生まれる。
「因みに、ノアが知ってる漢字は何がある?」
「うーんと、破壊・破滅・消滅・消失・崩壊・滅亡・壊滅、あとは——」
「おい、ちょっと待て」
不穏な言葉の羅列に思わず止めに入る。
「いや…うん。………おかしいだろ?楽が分かんないのに滅亡が書けるのは……違うだろ?」
一言一句その通りであるが、ノアには神楽が何に驚いているのか理解できず首を傾げる。
「ま、まぁいい…他にはあるか?」
「えっと、十字星・五芒星・星雲・星座・双子座、それから——」
「だからおかしいだろ!! 振り幅どうなってんだよ…。散々破壊だの物騒なの並べたと思ったら、今度は夜空!? しかも当て字じゃねぇか!」
蒼龍と違い、思っている事を全てぶつけてくれるのでツッコミ不在が解消されている。
その後も漢字について話しているとノアのお腹が鳴った。
「腹減ってんのか?生憎今あんのは懐に忍ばせておいた餃子の皮だけだ」
「ジョン?がなにか分かんねぇけど、ぜったいもちあるくもんじゃないだろ」
神楽はちょっと待ってろと言い少し離れた茂みへと向かう。数分後、なにやら動物と草を握りしめ、帰ってきた。
「神楽、それなんだ?」
「ん?これか?これは猪と韮だ。餃子の材料なんだが、本来なら帆立とか蝦とかも具にするんだか今回はさっさと作ろうと思ってな。他にも白菜とか——」
全く聞き覚えのない単語にノアは置いてけぼりを食らう。
餃子にかなりこだわりがあるのか語り口が止まらない。
だが、それと同時に手も動いているので、取り敢えずやろうとも切り出せずにいた。
だが、そんな餃子講座も突如として終わりを迎える。
突然の訪問者によって。
次の瞬間——
勢い良く砂柱を立てそれは現れた、漆黒の髪に漆黒の瞳、全身漆黒で埋め尽くされた服装の真黒な見るからに怪しいやつがその場に現れた。魔人の襲来である。
「ヤハハ!! お前か!最近、魔人を殺し回っている奴は!!」
神楽は魔人の方へと顔を向ける。作業する手は止めず、むしろ加速していた。
「だったらなんだ? あいにくこれから飯なんでな後にしろ」
「ヤハハ!! 飯など後でもよいだろう!!」
「駄目だ、こっちには腹減ってるやつがいんだよ。それに約束も無しにいきなり訪問なんて迷惑だろ。午後に出直せ」
全く状況に付いて行けずノアは諦めて砂の城を立て始める。たまたまヤドカリが歩いてきたので頂上に乗せ、その出来栄えに目を輝かせている。
「ん?そうなのか?人間はそういうものなのか?なぁ、わっぱ」
「え?なんだ?おれか?なんもきいてなかったぞ」
清々しい程の態度に神楽は一周回って関心しており、魔人は爆笑していた。
「ヤハハ!!そうか、聞いておらなんだか!ヤハハハハ!!まぁいい、人間の文化はよく分からんが取り敢えず、死合おう!!」
人の形をしていても、やはり鬼と同じだ。
いや、食事が目的じゃない分、余計たちが悪い。
「神楽、シアオウ?ってなんだ」
「殺し合うって意味だ」
今すぐにでも戦闘が始まりそうな空気であるにも関わらず安定のノアの「なにそれ?どゆこと?」により緩和されている。
「おい魔人…血気盛んなのはいいが、本当に飯時に来んな」
「ヤハハ、なぜそうも飯に拘る?後でも食えるだろう?生きてればだが。
ここ最近、2年程か?昼夜問わず魔人を殺し回っているのは、お前だろう?是非とも遊びたくなったのだ」
「最近って言葉をお前ら長命種のスパンで考えんなや」
こちらの事情などお構いなしと聞いてもいないのに、勝手に戦闘理由を話し始める魔人。
午後に来いと言っておきながら神楽自身、昼夜問わずに殴り込みをかけているのかと思うとどっちもどっちな気がしてくる。
「それに飯ならば、そこに蜥蜴がいるではないか?」
「あ?いや、蜥蜴食うにしても調理…」
「姿焼きうまいよな!!」
興奮気味にノアが割って入る。先程まで話を聞いていなかった者とは思えぬ程の食いつきに神楽は呆然と立ち尽くすしかなかった。
「ヤハハ!!わっぱのクセに分かるじゃねぇか!!ほれ、干物が一本あるからやるぞ」
「いいのか!ありがとう!!」
ごそごそと懐から蜥蜴の干物を取り出しノアへ手渡す。ノアはそのまま満面の笑みを浮かべ、きちんとお辞儀をする。その緊張感の無さに神楽は呆れを通り越し、作業に戻っている。
「ほれ、これでわっぱの腹は満たされた。さぁ、死合おうぞ!!殴って、潰して、捻って、砕いて、千切って、壊して、壊して、壊し合おう!!」
「うるせぇ!!なんでお前ら魔人の性格はそう両極端なんだよ!!喋るか黙るかしかねぇのか!?」
「ヤハハ、何を言う!!黙っとる奴らは皆、陰キャのコミュ症だ!!俺のような陽キャと違うのは、あたりめぇよ」
「底無し沼みたいな闇色の瞳して何言ってんだ……」
次の瞬間、地面に映る魔人の影だけが揺れ始め、そのまま影が剥がれるように魔人の腕にと巻き付き、大きな手を形成した。
『掌悪!!』
「チッ、だからお前ら陽キャは嫌なんだよ…好戦的すぎる」
「ヤハハハハ!!試してみようぜ?どちらか先に、ミンチになるか!!」
いざ戦闘開始——
「ヨウキャってなんだ?」
「「え?」」
ノアの空気の読めない発言に魔人は思考停止に……神楽は呆れを通り越し絶句している……。
「どした?」
「いや…どうしたって…お前、これから戦闘開始って流れだったろ」
「え?だめなのか?蒼龍はきいてなくても説明してたぞ?」
「いや、別にだめって訳じゃ………陽キャっていうのはな、魔人の分類の事だ」
別に蒼龍は説明していたから神楽もして当然と言う訳では無いのだが……ノアの表情からは純粋に分からないから質問しただけだと書いてあるので渋々ながらも諦めた様に神楽は説明を始めた。
「好戦的で近接戦を好む陽キャと内弁慶で遠距離戦を好む陰キャの二種類がいて見ての通りコイツは前者だ」
「か……簡潔な説明…だと!?」
「え?なに、馬鹿にしてる?」
神楽の真の簡潔な説明にノアは目を輝かせる。あまりの感動に拍手喝采で神楽を褒める。
その様子に神楽は馬鹿にされてるのかと思ったが、ノアの表情からは悪意どころか感謝が伝わってくる。
純粋に褒められているのだと分かったが、それはそれで複雑な気分になる…。
「ハッ、俺はなにを!?」
そうこうしていると、思考停止していた魔人が目を覚ます。
「そうだ!!火の坊主と死合を……何してんだ?」
「俺が聞きたい……」
「かんどうしてた!!」
「よく分からんが、死合うぞ!!」
右では簡潔に感動、左では片方は猛烈に戦闘。両方から騒がれ、神楽はとうとう噴き上がる。
「うるせぇ!!黙れお前ら!!」
「おぉ!!殺る気になった——ブヘッ!!」
『掌底菊一!!』
魔人に向け、神楽の渾身の掌底を食らわせる。
その一撃は当たる寸前に菊の花の様な火花を咲かせ、直撃と共に魔人の腹に菊の花を焼き入れた。
「カハッ……ヤハハ、お前の掌が触れる前に火花散らなかったか?炸裂した感じだったぞ」
「よく気づいたな、その通りだ………そんな事より立てよ、望み通りシバいてやるから——ツラかせや!!」
「おぉ…なんか神楽おこってるな?」
まさに怒髪天の如くに怒る神楽に対し、ノアは怒らせた原因を考える。一方で魔人はやっとやる気になった事が嬉しく腹を抑えつつもその目は完全にキマっていた……。
「あちち……そういや、坊主の名前を聞いてなかったな」
「毎回聞かれるが…魔人にとって、そんな重要なことなのか?」
「あたりめぇよ!俺達、魔人は自分で名を付ける。自分が自分である証明であり象徴だからだ!!」
意外にも種族的な理由に、神楽は少し驚く。てっきりもっと野蛮な——墓標に刻む名を教えろ的な理由だと思っていた。
「なるほど……神楽だ、鳳炎神楽」
「鳳炎?坊主、護神家の人間か!!ヤハハ、そうかそうか!!火を使うのだから鳳炎家なのは当たり前だわな、ヤハハハハ!!」
「で、お前の名前は?」
「ん?おぉそうだな!!俺の名は潰すと書いて潰だ!!」
………やはり野蛮だったようで、これ見よがしに『掌悪』で作った手をニギニギとしている。
神楽は「はぁ……」と深い溜息を吐き面倒くさそうに質問しようとしたその時——
「握り——」
「にぎり潰すからニギリか?」
「おぉ!!そうだぞ、よく分かったなわっぱ!!」
ノアに先を越され、別に感じなくともよかったはずの敗北感を味わう羽目になった……。
ご覧いただきありがとうございます。
『神世界のエスカトロジー』第二章・第一話、楽しんでいただけたでしょうか?
今回は会話が多く、珍しく戦闘に入らない回となりましたが、第二章開始ということで今回は二話同時投稿となっております!
それでは、引き続き第二章・第二話をお楽しみください!!




