第四話 活動内容
翌日
朝食を食べ終わって自室でくつろいでいると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
「伊織、下に降りてきて欲しいんだけどいいかな?」
「わかりました。すぐ行きます」
借りたズボンの裾が長いので、転ばないように気をつけながらリビングへ行く。浬も呼ばれたのか後ろから着いてくる。
部屋に入ると、二人を呼んだ人はキッチンで棚を漁っていた。
「二人とも、ダイニングの方に座って。みんなでお話タイムだよ! 飲み物は何がいい? えっと、今はコーヒーと紅茶に……お! この前抽選会のハズレでもらったセンブリ茶もあるよ! 二人ともいかが?」
「コーヒー」
「紅茶でお願いします」
「そっか……」
センブリ茶といえば、テレビ番組で罰ゲームとして出てくる印象が強い。この世で最も苦いと言われるほど強烈と聞くが、そもそも抽選会でセンブリ茶があるのも謎だ。
鷲見がトレイに飲み物を乗せてやってくる。
伊織と浬の前に飲み物と個包装の小さなクッキーを置くと、横並びになっている二人の向かいに座った。
鷲見のマグカップの中にはコーヒーが入っている。センブリ茶を人に勧めておきながら、自分は飲まないようだ。
コーヒーにミルクを入れて、マドラーで混ぜながら鷲見が話し始める。
「話すことが山積みだね。まずは伊織の質問に答えるよ」
聞きたいことは山程あるが、とりあえず自分のこの先の生活について聞かなければならない。
「鷲見さんが昨日言ってた『代わりにやってもらいたいこと』ってなんですか」
どう見ても必要以上に混ぜていた手を止めて、鷲見はテーブルに両肘をつき手を組んだ。
「伊織には、僕たちがやっている『みんな仲良くなろうの会』に入って欲しいんだ」
「みんな仲良くなろうの会……?」
真面目な顔をして、小学生のようなネーミングセンスを披露してきた。
「この人の冗談を真に受けるな。『鷲見洞観者支援チーム』だ。ちゃんと正式名称がある」
「冗談? 僕はいたって真面目だよ!」
鷲見が胸に手を当てて訴えているが、浬は一切構わずコーヒーを飲んでいる。
その正式名称の方なら見覚えがある。この家の玄関にあった小さな看板だ。
「えっと……その洞観者支援ってどういう事でしょうか」
「そうだよね。僕たちの活動を説明するよ」
騒いでいた鷲見の雰囲気が変わった。どこか遠くを見据えているような、真剣な眼差し。
「伊織は、洞観者の心が不安定になった時、最悪の場合どうなるか知ってるかな」
「暴走状態に陥ります」
洞観者の暴走についてはニュースでよく取り上げられているので、少しだけ知っている。
「そうだね。洞観者の能力は、本人の心の状態に影響される。心が不安定だったら、能力の不意発動は増える。そして一番危険なのは、能力が暴走することだ。感情感知は感情麻痺、真意読取は自己喪失、記憶採取は忘却。長時間暴走し続けた洞観者やその周りに居続けた人は、これらの影響を受けてしまう。この種類については、洞観者でも知らない人は多いね。そこですましている人も、実は最近覚えたんだよ」
鷲見は一瞬表情を崩して、ニヤニヤと浬の方を見る。
「余計な事言わないでください」
「はーい」
浬をいじるのをやめると、鷲見は再び真面目な顔に戻った。
「不安定な状態の洞観者のことは『気揺人』って言うんだけど、僕たちはその気揺人から依頼を受けて、話を聞きに行っているんだ。暴走を防ぐために、能力を安定させる。能力を安定させるために、洞観者の心を安定させる」
「気揺人っていうのは、そんなに多いんですか」
「実は、洞観者のほとんどが気揺人なんだ。伊織も今そうじゃないかな」
確かに昨日、不意発動を起こしたばかりだ。そしてそれは、久しぶりというわけでもなかった。
「もちろん気揺人ではない洞観者もいるよ。でも、ほとんどが能力を悪用している。ただ悪用するのは犯罪者だからどうしようもないけど、この中には否観者に道を外された人が多いんだ。否観者の偏見が、せっかくの安定した洞観者を台無しにしてしまっている」
(……気揺人の話を聞くことが、俺にやってもらいたいこと)
伊織は長い間一人で生きてきた。自ら避けていた人のために何かをする。果たしてそんなことが出来るのだろうか。それに今、気揺人だと言われたばかりだ。
「不安かもしれないけど大丈夫。僕たちは、みんな仲良くなろうの会だよ? その『みんな』にはここにいる三人も含まれている。チームとして全員で活動するんだ。もちろん、依頼を受けながら伊織のことも支えていく。気揺人から抜け出せるようにね」
「……ありがとうございます」
つまり、一人で全てを担う必要などないということだ。話を聞きながら段々と力が入っていた体が、鷲見の言葉のおかげで楽になった。
「本当にその名前はおふざけじゃないんですね」
「もちろん。みんな仲良くするんだ」
「藍川が来たことで能力も三種類揃った」
浬が小さいクッキーを四つに割りながら会話に混ざってきた。そんなに細かくするとボロボロになって、クッキーがクッキーでなくなってしまう気がする。
「そうだね! それぞれの能力を理解できる人がいるのはいいことだ」
「揃ったって、じゃあ鷲見さんは記憶採取なんですか?」
「うん。ごめん言ってなかったね」
「京斗さんは基礎能力使わないから、頭になかったんだろうな」
基礎能力、伊織の知らない言葉が出てきた。
「えっと、基礎能力ってなんでしょうか」
「あ、そうだよね。ちょうどいい、この流れで昨日の伊織の疑問を解消しようか」
そう言うと、鷲見は立ち上がって後ろに下がり、そのまま右手を左の腰あたりに持っていく。すると、何かをかたどるように光が現れた。
「これって……!」




