第十四話 物が多い部屋
十一月
「鷲見さん、昼飯出来ましたよ。今日の昼当番は浬なので安心して下さい」
このシェアハウスでは、食事の用意は日曜日以外当番制だ。伊織は料理が絶望的に下手だが、住ませてもらって何もしないのは流石に気が引けるので一応当番に入っている。
とはいえ、料理と呼べそうにない手料理を二人に食べさせるわけにはいかないので、伊織が当番の日は冷凍食品にさせてもらっている。それは作るに含まれないと言われたら、ぐうの音も出ない。
もちろん、伊織も自分の料理は食べたくない。
(返事がない)
ドアをノックしても、部屋からは物音一つしない。伊織はそっとドアを開けてみる。中を覗くと、机に突っ伏して眠っている鷲見が見えた。今日の昼食はパスタだ。時間が経ったせいで、食べようにも塊を釣り上げてしまうという事態になる前に食べたほうがいい。鷲見を起こすために、部屋に入っていく。
(確かに物が多い)
前に鷲見が「散らかっているというより物が多い」と自室について言っていたが、なんとなく分かる気がした。ドアから入ると、両サイドが本棚になっている。本棚には大量の本とファイルが置いてあり、床にはプリントが散らかっている。
置いてある本は、全て洞観者について書かれているものだ。中には洞観者を批判するような内容のものもある。
(新聞?)
本棚にあったポケットファイルを手に取って開いてみると、大量の新聞の切り抜きが入っていた。一番古いものだともう何年も前だ。
ファイルをめくっていると、床に落ちているプリントが目に入る。こちらはネットニュースの記事を印刷した物のようだ。
能力を悪用する洞観者や、気揺人の暴走そして——
(鷹機関……)
鷹機関が働いたであろう数々の悪事。鷲見はこれらを調べて、何をするつもりなのだろうか。気揺人のケアをするのが、支援チームの活動のはず。
伊織は奥の机で眠っている鷲見を見る。この美しい寝顔の裏には一体何が隠されているのか。
(静かにしてたら、お兄さんに見えるんだけどな)
そろそろパスタの寿命が危ないので、後ろから鷲見の肩をポンポンと叩く。
「鷲見さん、起きてください」
「んん……マルチーズがいっぱい……もふもふ……」
数ある犬種から何故マルチーズ。
「鷲見さん、もふもふするのは後にしてください」
もう一度、今度は強めに揺らしてみる。
流石に目が覚めたようだ。
「あ、寝ちゃってたのか。お昼かな? ごめんね、すぐ行くよ」
そう言うと鷲見は伸びをしながら立ち上がり、部屋を出ていく。伊織もそれについて着いて行き、ダイニングに向かった。
(部屋見ちゃったけど、別に何も言わないんだな)
***
「夕飯リクエスト募集中!」
今日の夜当番は鷲見だ。
「昼飯食べてる時に聞かないでください」
「そんなこと言って、浬なら気持ち分かってくれるでしょ? このあと買い出しに行くのに、本気で困ってるから助けてよー」
「シチューとかどうですか。寒くなってきましたし、ちょうどいいのでは」
早いもので、もう十一月だ。そろそろ温かいメニューを登場させるのも悪くないと思う。
「えーやだ」
(聞いといてなんなんだ)
「……じゃあカレーで」
「それだ!」
結局、浬が提案したカレーライスになった。カレーは大体二日分はできるので、明日の夜当番が自分なのを考えて楽をしたに違いない。
昼食を食べ終わると、鷲見は買い出しに出かけた。
「おい、藍川」
「何?」
「鷲見さんはシチューが好きだけど苦手だから、覚えといたほうがいい」
「……何言ってんの?」
浬の言っていることは矛盾しているようにも聞こえる。
「カレーとほとんど具材変わんないよね?」
「俺も理由は分からん」
また鷲見のよく分からないところが増えてしまった。
***
チンッ。
「パン焼けました」
何度も言うが、パンは焼いていない。
「ちょっと待ってね。今いいところなんだ」
鷲見が何をしているかはお分かりだろう。こう言って人を待たせるのは、大体ゲームと決まっている。
「それスローライフゲームですよね。いつでもやめられると思うんですけど。連絡は早めに返した方がいいと思いますよ」
鷲見はゲーム機を見ていた顔を上げて、何故か決め顔でこちらを見る。
「あのね伊織くん、どんなゲームでもキリがいいタイミングというのが存在するんだよ」
「……そうですか」
その「キリがいいタイミング」まで待ったが、鷲見がゲームを中断したのはこの会話から三十分経ったころだった。




