第十三話 隊長
(似ている)
鷲見とよく似た髪色に、露草色の目。
「一颯……?」
「やあ京斗、久しぶりだね」
鷲見が一颯と呼んだ男は、ニコッと笑ってこちらに手を振っている。
何故だろう。話し方や表情は鷲見のように穏やかだが、どこか不気味にも感じる。底知れない人物だ。
この人が何者なのか聞こうと横にいる鷲見を見た瞬間、伊織は息を詰まらす。鷲見はいつにも増して険しい顔をしていた。
「昔は依頼の場に毎回来ていたのに、どこへ行っていた」
「うーん。忙しいというか、色々と手が回らなくてね」
一颯は刀をしまうと、涼寧を襲った男の腕を容赦なく捻って拘束する。
「やっと姿を現したと思えば、これはどういう風の吹き回し? いつも気揺人を襲っていたくせに」
「たまには工程を飛ばしてもいいかなと思って。急いでいたんだ」
「ちゃんと答えて。何を言っているか分からない」
鷲見とは反対に、にこにこと笑う表情を崩さない一颯。
「とにかく、もう用はないから僕はこの辺で失礼するよ。勿論こいつも連れていくから安心して。勝手なことをしてくれたからね。こっちで処分を決める」
「待て! 何故ここが分かった!」
「こいつが情報を盗んだって言ったでしょう? それを基に来ただけ。もう一人の幹部は何も悪くないよ」
そう言うと、一颯は「またね」と言って奥の道に消えていった。
鷲見はそれを追いかける様子はない。それよりも涼寧を気にして、そちらに駆け寄っていった。
安心させるためか、先程までの表情を消し去って穏やかに声をかける。
「天谷さん、すみません。お怪我はありませんか」
「大丈夫です。あの方が守ってくださったので」
「……そうですか。あなたが良ければですが、ご自宅まで付き添います。また襲われてはいけないので」
「ありがとうございます」
涼寧が了承したので、その後は周りを警戒しながら彼女を自宅まで送った。そして三人は再び駐車場まで歩いていく。
「鷲見さん、さっきの人って」
「一颯のことかな。あの人は僕の兄だよ」
二人が似ているように見えたのは、間違いではなかったようだ。
それにしても、気になることが多すぎる。
「お兄さん? 相手は鷹機関なのになんで——」
「うん、鷹機関だね」
「……そう、ですよね」
鷲見があまりに食い気味に答えるので、伊織はその雰囲気に気圧されて先を聞くことが出来なかった。
伊織は浬と目を合わせる。何か相当の事情があるのだろうか。これは無理に聞かない方がいいのかもしれない。先月、浬とそういう話をしたばかりだ。
一颯は鷲見の兄で、鷹機関。そして隊長と呼ばれていた。これまで気揺人を襲っていたのに、今回涼寧を助けた理由も分からない。
それに、あの人が庇ったもう一人の幹部というのも気になる。鷹機関について伊織が知らないことは、まだ沢山あるようだ。
***
その後何事もなく駐車場に辿り着いた三人は、鷲見の運転で帰路に就いた。
伊織は車に揺られながら二回の依頼を振り返り、実際に経験してみて感じたことを、助手席から鷲見に話してみる。
「依頼って、意外とあっさり終わらせてしまいますよね。これでいいんでしょうか」
「うん。みんな仲良くなろうの会の活動は、あくまでも話を聞くことだからね。助言はしても、提案はしない。依頼人にとっては難しいことだと分かっているけど、どうするかを最終的に決めるのは本人であるべきだ。僕たちがやるのは、最大でも影響を与えるまで。将来を決める権利は、誰にもないから」
鷲見は目の前の景色を見据えて語る。その目はとても真っすぐだ。決して運転しているからではない。
「人は『出会い』で変わることもあるからね。僕はいつも、その相手になれたらいいなくらいの気持ちで話している」
「……就職とか進学とか、やっぱり気揺人にとって難関なんですね。職種によっては、洞観者の能力って重宝されそうな気もしますけど」
「そうだね。でも、安定していて尚且つ能力を悪用しない一部の人たちは、洞観者であることを隠して生活していることがほとんどだよ。洞観者の能力が仕事に活かせるかどうかより、否観者は自分を守ることを優先する。『仕事第一!』なんて人は少ないからね。固定観念って厄介だよ。今の社会では、洞観者は肩身の狭い思いをするしかないんだ」
鷲見の表情が曇る。伊織にはそれが、どこか悲しんでいるように見えた。この人が何故こんなにも洞観者や気揺人のことを気にかけているのかは分からないが、単なる同情や自己満足なんてものだとは思えない。
(この人のことを、もっと知りたい)
かつて人を嫌い独りを求めた伊織は、鷲見との出会いでそう思えるほど変わった。
一颯や鷹機関との関係もだが、何を経験すればこのような考え方が出来るようになるのか。
この時、伊織は決める。ただ命を助けられたからではなく、彼に出会って救われた一人の気揺人として鷲見について行くことを。




