第6話:焦燥の勇者と、配信中の仲間割れ
翌日。
動画配信サイト『ダンジョン・チューブ』のランキング欄には、異常な事態が発生していた。
1位:【神回】伝説のフェンリルと朝食を食べてみた【スローライフ】(配信者:ジン)
2位:【検証】謎のおっさんの魔法、解析班がサジを投げる【切り抜き】
3位:【悲報】勇者パーティ、同接1万人割れ【オワコン】
かつての王者『シャイニング・ブレイバーズ』のチャンネルは、見るも無残な有様だった。
だが、勇者ライオネルは諦めていなかった。いや、諦めるわけにはいかなかった。
「いいか、今日の配信で挽回するぞ! 昨日のコメントにあった『地味』とか『下手』とかいう声を黙らせる、ド派手な連携を見せてやるんだ!」
ライオネルは血走った目で、メンバーに檄を飛ばした。
場所は『雷鳴の洞窟』。帯電したモンスターが出現する、難易度の高いダンジョンだ。
「ルル! お前は俺の合図に合わせて最大火力の魔法を撃て! カメラのブレなんか気にするな、とにかく迫力だ!」
「わ、わかったわよぉ……」
ルルは不満げに答える。昨日の炎上で彼女のSNSにもアンチコメントが殺到しており、メンタルは限界近かった。
配信開始。
タイトルは【復活!最強勇者の本気、見せます】。
「みんな待たせたな! 前回はちょっと調子が悪かったが、今日は完璧な『シャイニング・ブレイバーズ』を見せてやるぜ!」
ライオネルが空元気で叫ぶが、コメント欄の流れは遅い。
残っているのは、惰性で見ている古参ファンか、炎上を期待する野次馬だけだ。
『復活?』
『あのおっさんの配信見た後だと、なんかショボく見えるな』
『画質ガビガビで草』
ライオネルはコメントを見ないふりをして、現れた『サンダー・リザード』に向かって突っ込んだ。
「はぁぁぁっ! 食らえ、ライトニング・スラッシュ!」
勇者の剣が光を帯びる。
だが――リザードは素早く身を翻し、壁を駆け上がって天井へと逃げた。
ライオネルの剣はまたも空を切る。
「なっ!? ちっ、ちょこまかと!」
以前なら、裏方の重力魔法がリザードの身体を重くし、壁走りを封じていた場面だ。
ライオネルはその「見えないアシスト」がない戦闘に、苛立ちを募らせる。
「ルル、撃て! 天井ごと吹き飛ばせ!」
「えっ、でも天井崩れたら危ないんじゃ……」
「いいから撃てぇ!」
「もう、知らないから! エクスプロージョン!」
ドゴォォォォン!!
爆炎が天井を直撃し、巨大な岩石がバラバラと降り注ぐ。
それは敵のリザードだけでなく、ライオネルたちの頭上にも。
「うわっ!? 馬鹿野郎、俺たちの上に落としてどうすんだ!」
「あんたが撃てって言ったんでしょ!?」
「誘導しろよ! 魔法使いなら落下地点の計算くらいできるだろ!」
「あたしは火力特化なの! そんな細かい制御、あのおっさん以外できるわけないでしょ!」
落石を避けながら、二人はギャーギャーと言い争いを始めた。
カメラはその無様な様子――埃まみれになり、お互いを罵倒し合う勇者と美少女――を克明に捉えていた。
『うわぁ……』
『仲間割れキター』
『配信中だぞお前ら』
『「ジン以外できるわけない」って認めてて草』
『やっぱあのおっさんが本体だったんじゃん』
決定的なコメントが流れる。
自分たちの口で「ジンがいなければ何もできない」と証明してしまったのだ。
「ぐっ……ふざけんな! 俺は勇者だぞ! こんなトカゲ一匹に!」
ライオネルは激昂し、デタラメに剣を振り回した。
だが、冷静さを欠いた攻撃が当たるはずもない。
逆にリザードの電撃を浴び、痺れて無様に転倒する。
「あーあ、見てらんないわ」
ルルが吐き捨てるように言った。その声もしっかりマイクに拾われている。
「ねえライオネル、もう止めない? あたし、こんな泥臭いことするためにパーティ入ったんじゃないんだけど」
「あ? 誰のせいでこうなってると思ってんだ!」
「あんたが弱くなったからでしょ! 前のカメラマン呼び戻せばいいじゃん!」
「黙れ! あんな地味な奴、二度と呼ぶか!」
――プツン。
そこで配信は唐突に途切れた。
あまりの醜態に、運営側が「不適切なコンテンツ」としてBAN(配信停止)したのか、あるいは機材が壊れたのか。
確かなことは一つ。
『シャイニング・ブレイバーズ』のブランドは、この日をもって完全に地に落ちたということだ。
◇◇◇
一方その頃。辺境の廃棄ダンジョン。
「ん~、いい湯だ」
俺は魔法で作った即席の露天風呂に、肩まで浸かっていた。
地面をくり抜き、水魔法で満たし、火魔法で適温に。仕上げに重力魔法で周囲の空気を遮断すれば、誰にも邪魔されない完全なプライベート空間の出来上がりだ。
ふと横を見ると、手ぬぐいを頭に乗せたシロ(フェンリル)も、目を細めて気持ちよさそうに浸かっている。
「極楽だな、シロ」
「ワフゥ……」
湯船のふちに置いたタブレットには、勇者たちの配信停止画面が表示されていた。
まあ、なんかトラブったみたいだが、今の俺には関係ないことだ。俺は興味なさげに画面を伏せた。
「さて、風呂上がりに冷えたフルーツ牛乳でも飲むか」
遠く離れた元仲間の悲鳴なんて、ここには届かない。
俺にあるのは、ただ目の前の充実したスローライフだけだ。




