第55話:投げ銭機能がないので、物理的に供物が転送されてきた
暗殺者ギルドを芸人として撃退してから数日後。
マジカル・フタバの配信は、回を重ねるごとに熱狂の度合いを増していた。
「みんなー! 見て見て! きょうは『マジカル・クッキング』だよ!」
今日の企画は、フタバによるお料理配信だ。
エプロン姿のフタバが、魔界から取り寄せた『叫ぶマンドラゴラ』を、手刀で黙らせてからサラダにするというシュールな光景が流れている。
『かわいい!』
『マンドラゴラの悲鳴が一瞬で止まったwww』
『手際よすぎだろ』
同接数は500万人を超え、もはや国家的行事のレベルだ。
だが、この配信には一つだけ、視聴者たちにとって深刻な欠陥があった。
『おい運営! 投げ銭ボタンはどこだ!?』
『フタバちゃんに貢ぎたいのに、課金できないんだが!?』
『金を受け取れぇぇぇッ!!』
そう。この配信は、システム上の投げ銭機能がブロックされているのだ。
『俺の財布が火を吹きたがってるのに!』
『ただ見なんて申し訳なくてできねぇ!』
世界中の富豪、貴族、そして隠れファンの王族たちが、行き場のない課金欲求に身悶えしていた。
その時だった。
配信画面の隅に、禍々しい紫色の魔法陣が浮かび上がった。
『なんだ? 演出か?』
次の瞬間。
ドサササササッ……!!!
フタバの頭上から、金色の雨が降ってきた。
いや、雨ではない。
金貨だ。大量の、山のような金貨が、空間転移によって直接送り込まれてきたのだ。
「わっ!? おかね!?」
フタバが驚いて目を丸くする。
金貨の山には、一枚の豪奢なメッセージカードが添えられていた。
『フタバちゃんへ。じいじからのオヤツ代だ。システムなど知らん。直接送ればよかろうなのだァァァッ!! ――魔王ヴェルザードより』
『魔王wwwww』
『物理スパチャきちゃった』
『じいじ、豪快すぎるだろ』
『……待てよ? ということは……』
その光景を見た視聴者たち(特に金持ち)の脳裏に、電流が走った。
『直接送ればいいのか!』
『住所は特定できてる! 転移魔法だ!』
『デリバリー部隊、出動せよ!』
タガが外れた瞬間だった。
聖域の庭。
俺はハンモックで昼寝をしようとしていたのだが、空の様子がおかしいことに気づいた。
「……なんか、空が暗くないか?」
見上げると、聖域の上空を埋め尽くすほどの「転移魔法陣」と「輸送用ワイバーン」の大群が押し寄せていた。
「ジン様! 対空防御、間に合いませんわ!」
ローズが悲鳴を上げる。
次の瞬間、空から豪雨のような勢いで供物が降り注いだ。
ドスン! ガシャン! ボトボトボトッ!
「キャーッ! お空からお米が!」
「剣が! 名刀が降ってきましたわ!」
「おい誰だ! 生きた牛を落とした奴は!」
地獄絵図だ。
米俵、宝石箱、高級ドレス、美術品、魔法の武器、そして現金。
ありとあらゆる財宝が、物理的な質量兵器となって聖域を爆撃し始めた。
『【石油王】より、金塊1トンお届けしました!』
『【隣国の王子】より、王家のティアラを贈ります!』
『【ドワーフの鍛冶師】より、ミスリルの鎧だ!』
コメント欄が納品報告で埋め尽くされている。
「危ねえだろバカ野郎ッ!!」
俺の堪忍袋の緒が切れた。
目の前で、降ってきた「金の延べ棒」が、手塩にかけて育てたトマトの苗を直撃しそうになったからだ。
「俺の畑に! ゴミを! 捨てるなぁぁぁッ!!」
俺は左手を天に突き上げ、魔力を開放した。
「グラビティ・リバース!」
ブォンッ!!!!!
聖域全体を包み込むように、重力が逆流した。
降り注いでいた数万点の供物が、地面に落ちる寸前でピタリと静止し、そのまま空へと舞い戻っていく。
『えっ?』
『浮いた!?』
『おっさんがキレたぞ!』
俺は空中に浮かせた供物の山を、重力操作でひとまとめにし、巨大な球体に圧縮した。
そして、カメラに向かってドスの効いた声で言った。
「いいか、よく聞け視聴者ども! 気持ちは受け取るが、物理攻撃はやめろ! 次やったら、このゴミの塊を『送り主の家』に直接撃ち返すからな!」
俺が睨みをきかせると、コメント欄が一瞬静まり返り――そして爆発した。
『ヒィィッ! ごめんなさい!』
『パパ激おこwww』
『「ゴミ(国宝級)」扱いワロタ』
『財宝の雨を重力で止めるカメラマン、何者だよ』
『逆転の発想すぎる』
『投げ銭拒否勢(物理)』
「まったく……片付ける身にもなれ」
俺はため息をつき、空中の財宝ボールを、庭の隅(ポチの小屋の横)に「ズドン!」と着地させた。
山のような宝の山が出来上がった。
「わーい! 宝島だー!」
フタバとポチが、財宝の山によじ登って遊び始める。
王国の国家予算数年分はあるだろうその山を見て、アイリスが遠い目をしていた。
「……我が国の宝物庫より豪華ですわ」
「これ、どうしますの?」
「倉庫に入り切らん。……まあ、エルフたちの活動資金と、ポチの餌代にするか」
俺は適当に答えた。
こうして爆撃事件は幕を閉じた。
だが、この騒動で「聖域のパパ(カメラマン)は怒らせると怖い」という認識と共に、「あそこには世界中の富が集まる」という噂が広まることになった。
そして、次なる配信では、物理的なモノだけでなく、霊的なモノまでもが集まってくることになる。
「フタバ、次は歌を歌いたいの!」
無邪気な提案が、世界中の「彷徨える魂」を強制成仏させる、前代未聞のライブへと繋がっていく。




