第54話:配信中に暗殺者がやってきた
伝説の初配信から一日が経った。
俺のチャンネル『ジン』のコメント欄は、配信していない間も熱狂の渦に包まれていた。
『昨日のあれ、マジで何だったんだ?』
『特撮映画の新作? それとも国家プロジェクト?』
『あのピンクの幼女(破壊神)、おっさんの隠し子説』
『次はいつだ!? 全裸待機なう』
世界中が「マジカル・フタバ」の次なる活躍を待ち望んでいる。
そんな期待に応えるべく(というか、フタバがやりたがるので)、今日も第2回配信を行うことになった。
「レオンお兄ちゃん、カメラじゅんびOK?」
「は、はい! アングル調整よし、手ブレ補正魔法展開! いつでもいけます、師匠!」
フタバがピンクのドレス姿でポーズを取り、弟子兼カメラマンのレオンハルトが緊張の面持ちで水晶玉を構える。
俺はというと、縁側でスイカを食べながらプロデューサーという名目のサボりを決め込んでいた。
「よし、配信スタートだ」
ブォン……。
水晶玉が光り、映像が世界中へ送信される。
『うおおおお! 来たああああ!』
『待ってました!』
『今日の企画はなんだ!?』
同接数は開始数秒で300万人を突破。
フタバがカメラに向かって満面の笑みで手を振る。
「みんなー! こんにちは! マジカル・フタバだよ! きょうはね、必殺技のれんしゅうをするの!」
『かわいい!』
『必殺技』
『今日はどの山が消えるんだ?』
平和な滑り出しだ。
だが、その配信の裏で、招かれざる客たちが聖域に侵入しようとしていた。
聖域の森、深部。
黒い装束に身を包んだ集団が、音もなく木々を飛び移っていた。
裏社会でその名を知らぬ者はいない、大陸最強の暗殺ギルド『闇の牙』の精鋭部隊だ。
「……ターゲット確認。ピンクの服を着たガキだ」
「ふん、あんな子供が『聖域の支配者』の一人だと? 笑わせる」
リーダーの男、ザルバードが冷酷に呟く。
彼らは闇ギルドからの依頼で、「聖域の戦力削減」のためにフタバを狙っていた。配信のことなど知る由もない。
「いいか、油断するな。一瞬で仕留め、首を持ち帰るぞ」
「御意」
ザルバードの合図と共に、十数人の暗殺者たちが一斉に飛び出した。
彼らの殺気は研ぎ澄まされ、その刃には致死毒が塗られている。
本来なら、気づく間もなく命を刈り取るプロの仕事。
だが、相手が悪すぎた。
「――そこだっ!」
ザルバードが茂みから飛び出し、フタバの背後を取った。
毒塗りの短剣が、無防備な小さな背中に迫る。
その瞬間。
クルッ。
フタバが振り返り、カメラに向かって叫んだ。
「あ! みんな見て! こんしゅうの『わるもの』さんがきたよ!」
ガキンッ!!!
ザルバードの短剣が、フタバの周囲に展開された見えない壁――常時発動型の『重力障壁』に弾かれた。
「なっ……!?」
ザルバードの手首が痺れる。
カメラマンのレオンハルトが、すかさずカメラを向けた。
「おぉっと! ここで突然のゲスト登場だー! 黒ずくめの怪しい集団! タイミングが完璧すぎます!」
配信画面には、呆気にとられる暗殺者たちの顔がドアップで映し出される。
『え? 誰?』
『ゲスト来たwww』
『全身タイツ? 悪役の衣装凝ってるなー』
『不審者乱入イベントきたこれ』
視聴者たちは、これを演出だと思い込んだ。
「き、貴様ら何だ!? 何を見ている!?」
ザルバードがカメラに気づいて怒鳴る。
しかし、フタバにとっては遊び相手が来た喜びにしかならない。
「いくよー! マジカル・バトル・スタート!」
フタバがステッキ(クワ)を構える。
暗殺者たちはプロの矜持にかけて、一斉攻撃を仕掛けた。
「殺せ! 影縫いの術!」
「毒霧散布!」
「死の舞踏!」
多彩な殺人技がフタバを襲う。
だが、フタバはキャッキャと笑いながら、それらを《《あそび》》として処理していく。
「わーい! かくれんぼ? みーつけた!」
ドォン!
隠れていた暗殺者を、デコピンの衝撃波で吹き飛ばす。
「毒の霧だー! ふーっ!」
ゴォォォッ!
フタバが息を吹きかけると、暴風が発生して毒霧が逆流し、暗殺者たちが「ゲホッ、ゲホッ!」と自爆する。
「おどるの? じゃあフタバも!」
フタバが高速回転すると、発生した竜巻に巻き込まれて、暗殺者たちが空中でキリモミ回転を始めた。
「あ、ありえん……! なんだこのデタラメな強さは!?」
ザルバードが悲鳴を上げる。
一方、コメント欄は大盛りあがりだ。
『すげぇぇぇぇ!』
『このスタントマンたち、動きのキレが半端ないぞ』
『やられ役のプロだな』
『毒霧のCGとかリアルすぎ』
『リーダーの「ありえん!」って演技、迫真すぎて草』
世界中が、彼らの「死闘」を「コント」として消費していく。
「くそっ、撤退だ! こんな化け物相手にできるか!」
ザルバードが煙玉を投げ、逃走を図ろうとした。
だが、魔法少女番組に敵の逃亡は許されない。
「逃がさないよ! ひっさつ!」
フタバがクワを高く掲げた。
膨大な魔力がピンク色の光となって収束する。
「マジカル・農耕・ホームラン!!!」
ブォンッ!!!!!
フタバがフルスイングした。
直接殴ったわけではない。スイングによって生じた「指向性重力砲」が、逃げる暗殺者集団を背後から直撃したのだ。
「「「ぎゃあああああああああああっ!!!!」」」
キラーン☆
十数人の暗殺者たちは、一塊になって空の彼方へとかっ飛び、星になった。
まるでアニメのエンディングのように美しい放物線を描いて。
『飛んだwwwww』
『ホームランwww』
『「やな感じー!」って聞こえてきそう』
『ワイヤーアクションすげぇ』
『今週のゲスト、体張りすぎだろ』
『神回』
フタバは空に向かって手を振り、カメラ目線でVサインを決めた。
「悪者は成敗したよ! えへへ、見てくれた?」
縁側で見ていた俺は、食べ終わったスイカの皮を置きながら呟いた。
「……あいつら、生きてるかな」
「大丈夫ですわ。ローズ様の結界に弾かれて、隣国の『ゴミ処理場』に着地するように調整しておきましたから」
アイリスが涼しい顔で紅茶を飲んでいる。
後日。
隣国のゴミ捨て場で発見された暗殺者ギルドの面々は、全身打撲で発見されたが、なぜか世界中から「あの動画の芸人さんだ!」「サインください!」と囲まれる有名人になってしまっていた。
彼らはプライドを砕かれ、二度と裏社会には戻れず、本当に「リアクション芸人一座」として再出発することになったという。
だが、この配信の盛り上がりが、次なる「問題」を引き起こそうとしていた。
『最高だった! 感動した!』
『投げ銭したい! 金を受け取れ!』
『なぜ課金ボタンがないんだ!? バグか!?』
視聴者たちの「貢ぎたい欲求」が、限界を超えようとしていたのだ。




