第44話:可愛いワンちゃんを拾ってきた
子供という生き物は、なぜか謎の生き物を家に持ち帰りたがる習性があるらしい。
ある雨上がりの午後。
泥だらけになって帰ってきたフタバが、玄関先でモジモジしていた。
「パパ……あのね」
「ん? どうした?」
フタバは背中に隠していた箱を、そっと俺の前に差し出した。
ボロボロの木箱だ。中からは「クゥ~ン……」という、いじらしい鳴き声が聞こえる。
「森でね、ワンちゃんが捨てられてたの。……飼ってもいい?」
上目遣いで訴えるフタバ。
俺は少し困った。ウチには既にシロ(フェンリル)とクロ(古竜)がいる。これ以上ペットを増やすのは……。
「うーん、ワンちゃんか。どんな子だ?」
俺が箱の中を覗き込むと、そこには黒い毛並みの、コロコロとした仔犬が入っていた。
つぶらな瞳。濡れた鼻先。
うん、可愛いな。
……頭が3つあることを除けば。
「「「ワン!」」」「「「キャン!」」」「「「クゥーン!」」」
3つの頭が、それぞれ別々の表情で俺を見上げて尻尾を振った。
「……フタバ」
「なに?」
「これ、ワンちゃんじゃない。地獄の番犬『ケルベロス』だ」
俺が冷静に突っ込むと、リビングからローズが飛んできた。
「あら! 懐かしい魔力だと思ったら、魔界原産のケルベロスですわ! しかも王族級の個体!」
「王族級て。またヤバいの拾ってきたな」
ローズ曰く、成獣になれば「地獄の門」を守るほどの災害指定魔獣になるらしい。
だが、今はまだ掌サイズの仔犬だ。真ん中の頭が俺の指を甘噛みし、右の頭があくびをし、左の頭が寝ている。
「ダメ? パパ、ダメ?」
フタバと、3つの仔犬の頭(計4ペアの瞳)が、うるうると俺を見つめる。
……卑怯だ。この攻撃に耐えられる父親はいない。
「……はぁ。シロとクロが許すなら、いいぞ」
俺が許可を出した瞬間。
「グルルルルッ……!!」
低い唸り声と共に、庭からシロ(フェンリル)が入ってきた。
その巨体からは、かつてないほどのピリピリとした対抗心が放たれている。
(……新入りだと? しかも犬キャラ被り……!)
シロの目が語っていた。
この家における「番犬」の地位は、シロのアイデンティティだ。それをポッと出の3つ首に奪われてなるものか、というプライドだ。
「キャン!(やんのかオラァ!)」
ケルベロスも負けていない。
フタバに守られているのをいいことに、3つの口から小さな火の玉を吐いて威嚇した。
一触即発。
世界最強の狼 vs 地獄の番犬。ファイッ!
シロがゆっくりと近づき、ケルベロスの鼻先数センチまで顔を近づけた。
そして。
「(……スゥ)」
シロが息を吸い込み、ほんの少しだけ「神獣の覇気」を漏らした。
物理的な圧力ではない。格の違いを見せつける、王者の風格だ。
ピタリ。
ケルベロスの3つの頭が同時に硬直した。
次の瞬間。
「「「キャイ~ン!!(参りました先輩!!)」」」
ケルベロスは即座にひっくり返り、お腹を見せて服従のポーズをとった。
3つの頭が揃って舌を出し、尻尾を高速で振っている。
早すぎる。秒殺だ。
「ワフッ(よし、分かればいい)」
シロは満足げに鼻を鳴らすと、ケルベロスの頭を(3つ順番に)ペロペロと舐めてやった。
どうやら「弟分」として認めてやったらしい。
「わーい! シロちゃん、ありがとー!」
フタバがシロに抱きつく。
シロは「ま、主の娘の頼みなら仕方ないな」というドヤ顔で尻尾を振っていた。
「決まりだな。名前はどうする?」
「えっとね、頭が3つだから……『ミツオ』?」
「……渋いな。他には?」
「うーん……じゃあ『ポチ』!」
結局、名前は『ポチ』になった。
地獄の王族級魔獣につける名前ではない気もするが、本人が嬉しそうに3つの頭で吠えているので良しとしよう。
翌日から、ポチの仕事が決まった。
「畑の害獣駆除」兼「焼き芋の火力担当」だ。
「ポチ! あそこにモグラさん!」
「ワンッ!(ラジャ!)」
ポチは3つの頭で死角なく畑を監視し、口から吐く地獄の炎で、掘り出した芋を絶妙な焼き加減に仕上げてくれる。
シロの背中に乗ったポチが、フタバの周りを走り回る光景は、もはや聖域の名物となっていた。
「……賑やかになったもんだ」
俺は焼き芋(ポチ製)を齧りながら、庭を眺めた。
娘、精霊、フェンリル、古竜、そしてケルベロス。
もはや「農家」というより「魔王軍の動物園」だが、まあ、平和ならそれでいいか。
だが、その平和も長くは続かなかった。
フタバの成長に伴い、ついにあの問題が浮上したのだ。
そう。将来の進路である。




