第45話:将来の夢は「魔法少女」です!
フタバがキャベツから生まれて数ヶ月。外見年齢は7歳ほどになった。
この頃、俺は一つの厳格なルールを設けていた。
『フタバの動画配信禁止』
ガストロンには「もし隠し撮りしたら、カメラごと埋める」と釘を刺してある。
フタバの力が規格外すぎることもあるが、何より普通の女の子として、静かな環境で育ってほしかったからだ。
世界中の視聴者に晒されるのは、もっと大人になって、本人が望んでからでいい。
だが、親の心子知らず。
フタバは今、人生の岐路に立っていた。
リビングのテーブルを囲み、緊急家族会議が開かれていた。議題は「フタバの将来の進路」についてだ。
「フタバちゃん! やはり『女王』になるべきですわ!」
アイリスが小さな王冠(純金製)を差し出す。
「あなたにはカリスマがあります。将来は、大陸を統べる女王になるのです!」
「いいえ、この魔力……『魔王』一択ですわ!」
ローズが漆黒のマントを広げる。
「闇の軍勢を率いて、世界を恐怖と暴力で支配する……素敵でしょう?」
「もー、二人とも古いなぁ。フタバちゃんは『女神』だよ!」
ルミナが神々しい杖を振る。
「神界で私と一緒に、下界を見下ろしながらポテチ食べて暮らそうよ!」
三者三様の勧誘合戦。
俺は静かに茶を啜り、最後に自分のクワを置いた。
「フタバ。パパは強制しない。だが、農業はいいぞ。食いっぱぐれがないし、土は裏切らない」
さあ、選べ。
権力か、暴力か、神性か、安定(農業)か。
フタバは真剣な顔で、大人たちの顔を順番に見渡した。
そして、立ち上がった。
「パパ、ママたち。フタバ、なりたいものある!」
おお、ついに決めたか。
俺たちが身を乗り出すと、フタバはルミナの方を見てニカッと笑った。
「ルミナママに見せてもらった『アニメ』のやつ!」
「……え?」
俺がルミナを睨むと、女神様が冷や汗を流して目を逸らした。
おい、また変な知識を吹き込んだな?
フタバは胸の前で拳を握りしめ、高らかに宣言した。
「フタバ、『魔法少女』になる!」
シーン……。
リビングに沈黙が落ちた。
「ま、魔法少女……?」
アイリスが首を傾げる。
「なんですのそれは? 宮廷魔導師とは違いますの?」
「ちがうよ! ヒラヒラしたお洋服きて、悪いやつを『ズババババーン!』ってして、みんなを笑顔にするの!」
フタバが目を輝かせて説明する。
どうやら「正義の味方」と「アイドル」を足して、火力で割ったような存在らしい。
「変身するね! 見てて!」
フタバがポケットから何かを取り出した。
以前、おつかいで拾ってきた『オリハルコンの棒きれ』だ。彼女はそれに、リボンやビーズ(国宝級宝石)を飾り付けて「魔法のステッキ」に改造していた。
「マジカル・農耕・パワー! メイクアップ!」
フタバがステッキを掲げ、叫んだ。
ドォォォォォォォォンッ!!!!!
家が揺れた。
ピンク色の光……に見せかけた圧縮魔力が爆発的に膨れ上がる。
視界がホワイトアウトし、衝撃波でアイリスの王冠とローズのマントが吹き飛んだ。
「きゃあぁぁっ!?」
「変身の演出が過剰ですわ!?」
「魔力光が致死量ですよ!?」
光が収まると、そこには――
フリフリのピンクのドレス(魔界製・物理魔法耐性100%)に身を包み、背中には天使の翼(光の翼)と悪魔の翼(闇の翼)を片方ずつ生やし、手にはステッキ……ではなく、ピンク色に塗装されたクワを持ったフタバが立っていた。
「愛と勇気と野菜の使者! マジカル・フタバ! 畑を荒らす悪い子は、土に還しちゃうぞ☆」
ビシッ! とポーズを決める。
背後でドカーン! と謎の爆発エフェクト(幻影)が上がった。
「……」
「……」
あまりの情報量の多さに、俺たちは言葉を失った。
可愛い。確かに可愛いのだが……。
「……あの武器、クワですわよね?」
「翼が、神と魔王のハブリッド……」
「コンセプトが渋滞してる……」
だが、フタバ本人は満足げだ。
くるりとターンをして、スカートをひらめかせる。
「どう? パパ、かわいい?」
金色の瞳で期待に満ちた眼差しを向けられる。
俺に拒否権などあるわけがなかった。
「……ああ。すげえ可愛いぞ」
「わーい!」
俺が頭を撫でると、フタバは嬉しそうに抱きついてきた。
その拍子に、背中の翼がバサッと広がり、花瓶を割った。
「でもな、フタバ」
俺は優しく諭した。
「魔法少女ってのは、正義の味方なんだろ?」
「うん!」
「なら、まずは『人助け』からだ。明日から、村の人たちの困りごとを解決してきなさい。……その格好で」
「はーい!」
こうして、聖域に謎のヒーローが爆誕した。
翌日から、近隣の村(アイリスの国の辺境)では、奇妙な噂が流れることになる。
『ピンクのドレスを着て、クワを持った幼女が、魔物を瞬殺して去っていく』
『去り際にトマトを置いていく』
『「魔法少女です!」と名乗るが、やってることはベルセルク(狂戦士)』
彼女が真の伝説になるまで、あと少し。
……まあ、農家を継がないと言いつつ、武器がクワなあたり、俺の英才教育は無駄じゃなかったらしい。




