第43話:娘が「精霊」を生み出して、自分の国を作り始めた
ある晴れた休日。
俺はいつものように裏の畑を耕していた。
隣では、麦わら帽子をかぶったフタバ(推定5歳)が、見よう見まねで小さなスコップを動かしている。
「パパ、見ててね! フタバも畑つくる!」
「おお、感心だな。だが無理はするなよ」
俺は微笑ましく見守っていた。
子供が泥遊びで小さなお山やトンネルを作る。よくある光景だ。
……そう、普通なら。
「よいしょ、よいしょ」
フタバが湿った土を捏ねて、小さな人形のような形を作り始めた。
泥団子かな? と思った瞬間。
「……ふぅーっ!」
フタバがその泥人形に、金色の息を吹きかけた。
瞬間、強烈な神気と魔力が奔流となって土塊に注ぎ込まれた。
ポンッ!
軽快な音と共に、泥人形が発光し、プルプルと動き出した。
「「えっ?」」
俺と、近くで草むしりをしていたルミナ(神様)の声が重なった。
光が収まると、そこにはつぶらな瞳をした、二頭身の小さな土の妖精が立っていた。
「ピ! ピ!」
「わーい! できた!」
フタバが喜ぶと、妖精もピョンピョンと飛び跳ねる。
ルミナが顔面蒼白で駆け寄ってきた。
「ちょっとフタバちゃん!? 今なにしました!? それ『大地の精霊』ですよ!? しかも最上位個体!」
「え? お友達つくったの」
フタバはキョトンとして、次は近くの水たまりに指を入れた。
「お水さんも、出ておいでー!」
「待ってストップ! 神の権能を使わないで!」
ルミナの制止も虚しく、水たまりからポコンッ! と水の精霊が飛び出した。
さらに焚き火の跡からは火の精霊が、そよ風からは風の精霊が次々と誕生していく。
「ポンッ! ポンッ! ポポポンッ!」
まるでポップコーンを作るような気軽さで、フタバは高位精霊を量産し始めた。
あっという間に、畑の一角が精霊で埋め尽くされる。
精霊たちはフタバの前に整列すると、一斉に平伏した。
「「「女王様!!」」」
「えへへ、フタバ、女王様だって!」
「笑い事じゃありませんよぉぉぉッ!」
ルミナが頭を抱えて絶叫した。
彼女曰く、これは魔法ではなく『天地創造』の初期段階らしい。無から有を生み出し、生命を与える。神の中でも上位の神しか許されない御業だ。
「さあみんな! おうちつくろー!」
フタバが号令をかけると、精霊たちが一斉に働き始めた。
ノームが石を積み上げ、ウンディーネが堀を作り、サラマンダーが鉄を溶接し、シルフが運搬する。
その作業速度は異常だった。
見る見るうちに、畑のど真ん中に、精巧な石造りの「城」が出来上がっていく。
「ふ、フタバ城……完成!」
高さ2メートルほどの、子供が入れるサイズの城だ。しかし素材はオリハルコンと金剛石。防御力は王都の城壁より高い。
フタバは城のテラス(踏み台)に立つと、精霊たちに向かって手を振った。
「ここは『フタバ王国』だよ! パパの国とは同盟くんであげる!」
「独立宣言しないでください!」
ルミナがツッコミを入れるが、精霊たちは「万歳! フタバ陛下万歳!」と盛り上がっている。
そこへ。
「……おい」
ドス黒い影が差した。
俺だ。
「パ、パパ?」
「フタバ。パパは言ったよな。『畑を作る』のは感心だと」
俺は仁王立ちで城を見下ろした。
「だがな、誰が『畑の真ん中に違法建築しろ』と言った?」
「あ……」
「そこはトマトを植える予定地だ。即時撤去しなさい」
俺が重力で威圧すると、精霊たちが「ヒィィッ!?」と震え上がり、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「うぅ……ごめんなさい。お城、かっこいいのに……」
フタバがシュンとして涙目になる。
……まあ、作った才能自体はすごいと思うし、壊すのも可哀想か。
「……はぁ。分かった。撤去はしなくていい」
「ほんと!?」
「ただし、場所を移動するぞ。畑の邪魔にならない庭の隅っこだ」
俺は「フタバ城」を重力魔法でひょいと持ち上げ、ログハウスの横の空き地へと移動させた。
ここなら邪魔にならないし、フタバの秘密基地として丁度いいだろう。
「わーい! パパありがとう!」
「その代わり、精霊たちには畑の手伝いをさせろよ。水やりとか草むしりとか」
「うん! みんな、パパのお手伝いだよ!」
『御意!!』
こうして、フタバが生み出した精霊軍団は、我が家の「農作業部隊・第二班」として再就職することになった。
ルミナだけが遠い目をしていた。
「高位精霊を農奴にするなんて……」




