第41話:貴族学校に「越境通学」したら、初日で裏番長になった
フタバがキャベツから生まれて数ヶ月。驚異的な成長で、外見は5歳児ほどになっていた。
そんなある日、アイリスから提案があった。
「ジン様、フタバちゃんを我が国の『王立初等学院』に通わせませんか?」
「学校? まだ早いんじゃないか?」
「いえ、社会性を育むには同年代のお友達が必要ですわ。この聖域には、魔物とゴーレムしかいませんもの」
確かに。このままではフタバの常識が魔界基準になってしまう。
聖域は独立した土地だが、教育機関はない。お隣(といっても物理距離はあるが)のアイリスの国の学校を借りるのが一番だ。
「……分かった。だが、通学はどうする? 馬車で数日はかかるぞ」
「問題ありませんわ。毎朝、ローズさんの転移魔法か、クロ(古竜)便で送迎しますから」
「VIP待遇すぎるだろ」
こうして、フタバの「超長距離・越境通学」が決まった。
翌朝。
フタバは紺色のブレザーに、竜革のランドセルを背負い、クロの背中に乗って登校した。
王立初等学院の校庭にドラゴンが着地すると、生徒たちは悲鳴を上げて逃げ惑ったが、フタバは気にせず教室へ入った。
教室では、早速「洗礼」が待っていた。
「君が、未開の地から来た留学生かい?」
話しかけてきたのは、金髪の少年マクシミリアン。宮廷魔導師長の息子だ。
彼らは聖域のことを「なんかヤバい魔境」程度にしか認識しておらず、そこに住む人間=野蛮人だと思っていた。
「僕はマクシミリアン。君みたいな田舎者が、このエリート校の授業についてこれるかな?」
「フタバだよ! パパは農家!」
「農家だって! プッ、泥臭そう!」
教室中が笑いに包まれる。
フタバはキョトンとしていた。農家はこの世で一番偉い(パパの職業)と思っているからだ。
1限目は『魔法実技』。校庭に鉄のゴーレムが並べられた。
「お手本を見せてあげるよ。ファイア・ボール!」
マクシミリアンが小さな火の玉を当て、少し煤をつけた。
「すごい! さすがマクシミリアン様!」
「じゃあ、次はフタバ君」
先生に促され、フタバが前に出た。
彼女はパパとの約束「学校では普通にする」を思い出し、杖を置いた。
代わりに、足元の石ころを拾った。
「えいっ!」
ズドンッッッ!!!!!
石は音速を超えてプラズマ化し、鉄のゴーレムを上半身ごと消滅させ、背後の校舎の壁を貫通し、遥か彼方の山に風穴を開けた。
シーン……。
「……て、てじなー! 今の、手品だよ!」
「「「んなわけあるかァァァッ!!!」」」
昼休み。
プライドを傷つけられたマクシミリアンは、フタバを裏庭の荒れ果てた花壇へ呼び出した。
「調子に乗るなよ! 罰として、この花壇を一人で整備しろ!」
「……土いじり?」
フタバの目が輝いた。
彼女はマイ・クワを取り出すと、聖域仕込みの「農耕スキル」を発動した。
「せいっ! はっ!」
神速のクワ捌きで雑草が消え、土が耕され、フタバの生命魔力によって枯れ木が一瞬で巨木へと成長した。
荒地だった裏庭は、数分で魔界植物園のようなジャングルに変貌した。
「ひぃっ……!」
マクシミリアンは腰を抜かした。
暴力ではない。圧倒的な「生命の格」の違いを見せつけられたのだ。
「あ、アネゴ……! 一生ついていきます!」
「「「アネゴ!!」」」
夕方。
俺がクロに乗って迎えに行くと、そこには生徒たちに傅かれるフタバの姿があった。
「パパ! お友達できたよ! みんな『こぶん』になってくれたの!」
「……はぁ。まあ、いじめられてないならいいか」
俺はため息をつき、娘をドラゴンに乗せて、一瞬で聖域へと帰宅した。
王国と聖域を股にかけた、フタバの伝説が始まった瞬間だった。




