表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした  作者: 希羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/57

第34話:聖域、ついに「神域」に昇格する

 創造神ルミナが「ここに住む!」と宣言してから数日。

 俺の拠点――『聖域』は、劇的な変化を遂げていた。


 まず、環境がバグった。


 ルミナが常時垂れ流す「神気」の影響で、畑の作物が一晩で収穫期を迎えるようになった。ダンジョン芋はカボチャサイズになり、トマトは宝石のように輝いている。


 枯れていた木々には花が咲き乱れ、聖域内だけ常春のような気候になった。


「すごい……! これが神の祝福……!」

「作物が育ちすぎて、収穫が追いつきませんわ!」


 エルフたちとローズ(魔王令嬢)が嬉しい悲鳴を上げている。

 そして、防犯面も完璧になった。

 ルミナが展開した『絶対不可侵神聖結界(ゴッド・フィールド)』により、邪な心を持つ者は、聖域の敷居を跨ごうとした瞬間に天罰(雷)が落ちる仕様になった。


 おかげで、しつこかったスパイや盗賊団は寄り付かなくなった。

 名実ともに、ここは人が住む場所を超えた『神域』となっていた。


「平和だなぁ」


 俺は縁側で、神気がたっぷり詰まった極上のトマトを齧りながら呟いた。

 隣では神様が「このトマト最高! 天界に輸出しよう!」とはしゃぎ、反対側では魔王の娘と王女が「おじ様の隣は私ですわ!」と定位置争いをしている。


 騒がしいが、まあ、悪くない日常だ。

 ――そんな時だった。


「お、おーい! ジン! いるかー……っ!」


 結界の外から、悲痛な叫び声が聞こえた。

 声の主は、ボロボロの鎧とマントを羽織った男たち。

 見覚えがある。いや、見間違えるはずもない。


「……勇者ライオネル?」


 かつて俺を追放した元パーティメンバーたちだ。

 リーダーのライオネルを筆頭に、魔導師のルル、剣士や聖女、全員が揃っている。


 だが、その姿は以前の栄光とは程遠かった。鎧は傷だらけ、服は薄汚れ、顔には疲労と絶望の色が濃く滲んでいる。完全に浮浪者のそれだ。


「な、なんだここは……!? 結界? 入れないぞ!?」

「おいジン! 俺たちだ! 仲間だろ! 中に入れてくれよ!」


 ライオネルが結界をバンバンと叩くが、透明な壁に阻まれて一歩も進めない。

 彼らの心に「邪な下心(ジンを利用してやろうという魂胆)」があるからだ。


「……誰ですか、あの汚い人たちは?」


 ルミナがトマトを食べる手を止めて、冷ややかに尋ねた。


「ああ、昔の知り合いだよ。俺をクビにした元上司だ」

「へぇ……」


 ルミナの目がスッと細められた。神の威圧プレッシャーが発動する。


「つまり、ジンさんを傷つけたアンチですね? 消します?」


 神様が指をパチンと鳴らそうとする。

 結界の外で、ライオネルたちの頭上に暗雲が立ち込め、雷鳴が轟いた。


「ひぃぃぃッ!? か、神様!?」

「それに魔王の娘まで!?」

「……ここはどうなってるんだ!?」


 勇者たちはパニックに陥り、腰を抜かした。

 世界の頂点に立つ存在が、なぜかジンの家の縁側でトマトを食っているのだ。理解が追いつかないだろう。


「……まあ待てルミナ。話くらいは聞いてやる」


 俺は立ち上がり、結界の際まで歩いていった。

 ライオネルたちは、俺を見るなり、プライドも何もかも捨てて地面に額を擦り付けた。


「ジン! いや、ジン様! 頼む! 助けてくれ!」


 ライオネルが涙ながらに訴えた。


「あの後、散々だったんだ! 飯は不味いし、野宿じゃ疲れが取れないし、荷物は重いし……。それに、国からの支援も打ち切られて、個人的に受けた依頼も失敗続きで……もう食うにも困ってるんだ!」


 自業自得だ。

 俺は冷たい目で彼らを見下ろした。そして、ふと疑問を口にする。


「……お前ら、あのあと解散したんじゃなかったのか? 森で仲間割れしてただろ」


 俺の指摘に、ライオネルが顔を歪める。


「行く当てがなかったんだよ! 世間の風当たりが強すぎて、結局こいつらと身を寄せ合うしかなかったんだ!」


 後ろに控えるルルが、気まずそうに目を逸らした。かつて俺を罵倒した彼女だが、今はボロボロのローブを纏い、痩せこけている。


「……悔しいけど、一人じゃ野垂れ死ぬし……」


 要するに、プライドよりも食欲と生存本能が勝ったわけか。

 一度は喧嘩別れしたが、貧困という現実の前に、嫌々ながらも再結成(腐れ縁)してここへ来たらしい。


 落ちぶれるところまで落ちたな。


「頼む! 俺たちを……俺たちをここで雇ってくれ! 畑仕事でも雑用でもなんでもする! だから、飯と寝床を恵んでくれぇぇぇッ!」


 かつて世界を救うと豪語していた勇者パーティが、土下座して「農作業員」への再就職を願う姿。


 これ以上の「ざまぁ」はないだろう。

 俺は少し考えた。

 こいつらを助ける義理はない。だが、畑が拡大して人手不足なのは事実だ。エルフたちは建築専門だし、ローズや王女は戦力外だ。


 腐っても元Sランク冒険者。体力と単純な戦闘力だけはある。こき使うには丁度いいか。


「……はぁ。分かったよ」


 俺はため息をつき、結界の通過権限を一時的に許可した。


「雇ってやる。ただし、条件がある」


 俺は指を三本立てた。


「一つ、給料は現物支給、三食の飯と寝床のみ。二つ、俺やここの住人の命令には絶対服従。三つ、過去の栄光は捨てろ。お前らは今日からただの『下っ端農民』だ」


 屈辱的な条件だ。だが、彼らに選択肢はない。


「あ、ありがとうございます! 一生ついていきます!」


 ライオネルたちは涙を流して感謝した。


「よし、早速仕事だ。そこの畑の開墾、今日中に終わらせろ。できなきゃ晩飯抜きだ」

「は、はいっ! 喜んで!」


 元勇者たちは、ボロボロの剣をクワに持ち替え、泥だらけになりながら畑を耕し始めた。


 その様子を見ながら、ルミナが満足げにトマトを齧った。


「ふふっ。アンチがファンに変わる瞬間ですね。ジンさん、さすがです!」


 こうして、俺の聖域に新たな労働力(元勇者)が加わった。

 神、魔王、王族、エルフ、そして勇者。

 世界中の重要人物が、一つの畑に集結してしまった。


「……本当に、ただのスローライフがしたいだけなんだけどな」


 俺のぼやきは、賑やかな喧騒にかき消された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ