第35話:畑からとんでもない副産物が収穫された件
それは、よく晴れた収穫の朝のことだった。
「ん? なんだこれ」
俺はいつものように、愛用のクワを片手に畑を見回っていた。
ルミナ(神様)が住み着いて数カ月後。彼女が垂れ流す「神気」と、ローズ(魔王令嬢)が散布する「魔力肥料」、そしてクロ(古竜)が寝息で撒き散らす「竜脈エネルギー」のおかげで、この聖域の土壌は常識外れな進化を遂げていた。
大根が樹木サイズになるのは日常茶飯事だ。
だが、これは流石に予想外だった。
畑の中央、一番日当たりの良い特級区画に、そいつは鎮座していた。
直径2メートルはある、巨大なキャベツだ。
いや、ただデカいだけじゃない。
黄金色に発光し、神々しいオーラを放ち、時折「ぷるん」と脈打っている。
「……新種か?」
「ジン殿! これはとんでもない反応ですぞ!」
一緒に農作業をしていたガストロンが、スカウターのような魔道具を覗いて泡を吹いている。
「測定不能!? 魔力値がカンストしています! このキャベツ一つで、国が3回くらい滅びるエネルギー量です!」
「物騒な野菜だな。爆発する前に収穫するか」
俺は腰を落とし、巨大キャベツの根元に手をかけた。
「よい、しょっと!」
ズズズズズズンッ……!!
大地が揺れる。まるで巨木を引き抜くような手応え。
俺が少し重力魔法でアシストすると、ポンッ! という小気味良い音と共に、キャベツが抜け――
――パカッ。
キャベツが、桃のように割れた。
「「は?」」
俺とガストロンの声が重なった。
中から出てきたのは、種でも果肉でもない。
「あうー?」
透き通るような白い肌。
新緑のように鮮やかな緑色の髪。
そして、宝石のような金色の瞳を持った、人間の赤ん坊(女の子)だった。
「……」
「……」
赤ん坊は俺の顔を見ると、ニパァッと花が咲くように笑い、小さな手を伸ばしてきた。
「パパー!」
ドォォォォォォォンッ!!!!!
その一言(衝撃波)で、背後のログハウスの窓ガラスが全部割れ、ガストロンが吹き飛んで星になった。
凄まじい音圧だ。ドラゴンの一撃より重い。
「……えーっと」
俺は衝撃波でボサボサになった髪を手櫛で直しながら、目の前の野菜(?)を見下ろした。
「ジンさーん! 何事ですかー! 敵襲ですかー!」
「おじ様! 凄い音がしましたわよ!?」
騒ぎを聞きつけたルミナ、ローズ、アイリスが、武器を構えて駆けつけてきた。
そして、割れたキャベツの中にいる赤ん坊を見て、全員が凍りついた。
「「「えっ」」」
赤ん坊は彼女たちを見ると、再び無邪気に笑った。
「ママ?」
瞬間、ヒロインたちの目の色が「狩人の目」に変わった。
「か、可愛いですわぁぁぁッ!! 何ですのこの天使!?」
「神気を感じます! これ間違いなく私の眷属……いえ、隠し子ですね!?」
「……間違いなくおじ様の子だわ! いつの間に!?」
三人が猛ダッシュで赤ん坊に群がる。
取り合いが始まる寸前、俺は赤ん坊の首根っこ(服)を摘んでひょいと持ち上げた。
「落ち着け。これはただのキャベツだ」
「キャベツなわけありますか! どう見ても人間ですわ!」
「いや、俺の畑で獲れたんだから農作物だ。出荷するにはまだ小さいが」
「出荷しないでください!!!」
ルミナが赤ん坊を奪い取り、頬ずりする。
「ああん、もちもちです! ジンさん、この子どうするんですか!?」
どうするもこうも。
たしかにこんな核兵器みたいな農作物を外に出したら、世界が終わる。
それに……俺の服の袖を掴んで離さないこの小さな手は、不思議と温かかった。
「……はぁ。仕方ない」
俺は諦めて、頭をガシガシとかいた。
「ウチの畑産なら、責任は俺が持つ。育てるぞ」
「「「はいっ!!(パパ確定!!)」」」
ヒロインたちが歓喜の声を上げる。
こうして、俺のスローライフ計画は「子育て」という新たなハードモードへ突入することになった。
「まずは名前を決めないとな。キャベツだから……キャベ子でいいか」
「絶対却下ですわよ!!」




