第30話:重力魔法で「天の雷」を掴んで投げ返してみた
ゴォォォォォォォォォッ!!!
鼓膜が破れそうな轟音と共に、天から光の柱が突き刺さった。
『天の雷』とか言ったか。
超高密度の魔力光は、大気中の水分を一瞬で蒸発させ、触れるもの全てを原子レベルで分解するらしい。
「きゃあああああっ!!」
「おじ様ぁぁぁッ!!」
アイリスとローズが抱き合って悲鳴を上げている。
エルフたちは絶望して地面にひれ伏し、誰もが死を確信しているようだ。
……まったく。
せっかくのティータイムだというのに、騒々しいことこの上ない。
「……だから、眩しいって言ってるだろ」
俺は不機嫌さを隠そうともせず、轟音に向けて声を吐き捨てた。
そのまま、降り注ぐ破壊の光に向かって、無造作に右手を突き出す。
防御魔法なんて面倒なものは展開しない。
ただ、そこにあるモノを「掴む」。それだけだ。
「グラビティ・グラスプ」
ギチチチチチッ……!!!
異様な音が響いた。
空間そのものが軋み、悲鳴を上げている音だ。
俺の頭上数メートルで、光の柱がピタリと静止する。
いや、止まったのではない。
光という「エネルギーの奔流」を、俺の放った超重力によってその場に縫い留め、凝縮し、物理的な「質量」を持った棒のように固定したのだ。
手応えはずっしりと重い。だが、持てない重さじゃない。
「な、なんですの……!? 光が……掴まれてますの!?」
ローズが涙目で空を見上げている。
俺の手には今、直径数キロメートルの光の柱が、まるで巨大な槍のように握られていた。
さて、これをどうするか。
ここに置いておくわけにもいかないし、持ち主に返してやるのがマナーだろう。
「おい、教皇。こんな危ないもんをポイ捨てするな。リサイクルに出してこい」
俺は腰を捻り、大きく振りかぶった。
イメージするのは、子供の頃に遊んだ野球ボールのフォーム。
「グラビティ・スロー」
ドォンッ!!!
俺が腕を振り抜くと同時、固定されていた光の柱が、逆再生のように天へと舞い戻った。
だが、その速度は落ちてきた時の比ではない。
重力加速によって収束されたビームは、一本のレーザーとなって大気圏を突き破っていく。
――ズキュゥゥゥゥン!!
遥か上空、宇宙空間。
音は聞こえないが、魔力感知でわかった。
古代の衛星砲が、自らが放った光を数倍の威力で撃ち返され、直撃を受けたのだ。
音のない世界で、巨大な爆発の花が開く。
地上からは、それが真昼の星のように美しく輝いて見えた。
「……たーまやー」
俺は気の抜けた声を上げた。
空を覆っていた雲が綺麗に吹き飛び、そこには突き抜けるような青空と、パラパラと降り注ぐ衛星の破片(流れ星)だけが残った。
うん、いい天気だ。
「ふぅ。これで静かになったな」
俺は何事もなかったように席に戻り、冷めかけた紅茶を啜った。
少し渋くなっているが、まあ悪くない。
「「…………」」
その場にいた全員が、石像のように固まって俺を見ている。
ガストロンが回している配信のコメント欄だけが、狂ったような速度で流れていた。
『ファッ!?』
『投げ返した……』
『ビームって掴めるもんなの?』
『物理法則が仕事してない』
『「たーまやー」じゃないんよ』
『衛星破壊しやがった』
『人類最強(確定)』
しばらくして、アイリスが震える声で呟いた。
「あ、あの……ジン様? 今のは一体……?」
「ん? 光も重力の影響を受けるだろ? ブラックホールみたいなもんだよ。ギュッとしてポイッとしただけだ」
「説明が雑すぎますわ……!!」
事実なんだから仕方ないだろう。
俺は肩をすくめた。
――同時刻。聖教国、地下深部。
パリンッ……!!
教皇グレゴリウスの目の前で、古代兵器の制御石板が粉々に砕け散った。
「な、な、なんだとぉぉぉッ!?」
教皇は腰を抜かしてへたり込んだ。
制御不能になったのではない。
本体である衛星そのものが、消滅したのだ。
「バカな……ありえん……! 神の雷だぞ!? 人が抗えるはずのない、絶対の裁きだぞ!? それを……弾き返したと言うのか!?」
教皇のプライドは、石板と共に粉砕された。
もはや「異端者」などというレベルではない。あれは、教会の教義を根底から覆す「規格外」のバケモノだ。
「おのれ……おのれジン……ッ! 許さん、私の『最強』を壊しおって……!」
教皇の目は、恐怖を超えて狂気に染まっていく。
兵器が通じないなら、どうする?
もっと上位の存在。
そう、人間が絶対に勝てない存在を呼ぶしかない。
「こうなれば、禁忌を犯してでも……! 神ご自身に降臨していただくしかない!」
教皇は震える手で、さらに奥に封印されていた「神降ろしの儀式書」を掴み取った。
自らの破滅を招くとも知らずに。




