表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「君の魔法は地味で映えない」と人気ダンジョン配信パーティを追放された裏方魔導師。実は視聴数No.1の正体、俺の魔法でした  作者: 希羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/57

第21話:救国の英雄? いいえ、ただの散歩です。あと王女様、求婚されても困ります

「た、退却ぅーッ! 全軍退却ぅーッ!!」


 帝国軍3万が、蜘蛛の子を散らすように水平線の彼方へ消えていく。

 後に残ったのは、巻き上げられた土煙と、静寂だけだった。


「ふぅ、運動したな。帰るか」


 俺はサンダルをペタペタと鳴らしながら、きびすを返した。

 シロ(フェンリル)は砲弾を食べたせいか少し胸焼け気味で、クロ(古竜)は「走り足りない」と不満げに鼻を鳴らしている。

 拠点に戻ると、ガストロン大臣が地面に額を擦り付けて震えていた。


「じ、ジン殿ォ……! いや、ジン閣下ァ……!!」

「大臣、大袈裟ですよ。ただの犬の散歩です」

「これが散歩なわけありますかッ! 帝国の機甲師団ですよ!? それを『邪魔だ』の一言で追い払うなんて、神話の英雄でもやりませんぞ!」


 ガストロンは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、俺の手を握りしめた。


「貴方はこの国を救ったのです! ああ、なんと報告すればよいか……!」


 その時、アイリス王女が持っていた通信用の魔道具が、眩い光を放った。

 空中にホログラムが展開され、一人の威厳ある老人の姿が映し出された。

 この国の頂点、国王陛下その人だ。


『……見せてもらったぞ、ジンよ』


 国王の声は、微かに震えていた。

 どうやら、王女の配信(または軍の監視映像)を通して、一部始終を見ていたらしい。


「父上! ご覧になりましたか!? ジン様のあの勇姿! 戦車をデコピンみたいに弾き飛ばしましたのよ!」


 王女が興奮気味に報告するが、国王は青ざめた顔で頷くだけだ。


『ジン殿……いや、ジン様』


 国王の口調が、臣下に対するそれから、他国の元首に対する敬語へと変わった。


『我が国の危機を救ってくれたこと、心より感謝する。その功績に報い、貴殿には最高位の勲章である「救国英雄勲章」と、「公爵位」を授与したいと思うのだが』


 公爵。

 王族に次ぐ地位だ。広大な領地と莫大な年金、そして権力が約束される。

 普通の冒険者なら泣いて喜ぶ提案だろう。

 だが、俺は即答した。


「いりません」

『……へ?』


 国王が素っ頓狂な声を上げた。


「俺、そういうの面倒なんで。公爵とかになったら、毎日パーティだの会議だので忙しくなるでしょう? 俺はここで畑を耕して、シロたちと昼寝していたいだけなんです」

『し、しかし! それでは王家の面目が……!』

「じゃあ、このダンジョンの固定資産税を免除してください。それだけでいいです」


 俺の言葉に、配信を見ていた視聴者たちが沸いた。


『公爵位を断ったwww』

『固定資産税の免除で手を打つ英雄』

『無欲すぎる』

『王様、困惑してて草』

『まあ、この戦力なら国ひとつ作れるしな』


 国王が頭を抱えていると、それまで黙っていたアイリス王女が、突然一歩前に出た。


「父上! でしたら、こうしてはいかがでしょう!」


 王女は瞳をキラキラと輝かせ、俺の方をバッと振り返った。

 嫌な予感がする。

 彼女は俺の手を取り、その場に跪いた。

 まるで、騎士が姫に忠誠を誓うように。いや、逆か。


「ジン様! 地位も名誉もいらないという、その無欲で高潔なお姿……わたくし、我慢できませんわ!」


 王女の顔が真っ赤に染まる。


「わたくしを! 貴方のお嫁さんにしてくださいまし!!」


 ……は?


「わたくしが嫁げば、ここは実質王家の領地! 父上の面目も立ちますし、ジン様は王配殿下としてスローライフし放題! わたくしは毎日シロちゃんをモフり放題! Win-Winですわ!」

「いや、Winなのはあんただけだろ」


 俺は冷静にツッコミを入れた。

 王女との結婚? 一番遠ざけたい面倒ごとの極みじゃないか。


「お断りします」

「ええっ!? 即答!? 一国の王女ですのよ!? 結構カワイイって評判ですのよ!?」

「カワイイとか関係ないです。俺は静かに暮らしたいんです。王女様みたいな騒がしいのがいたら、シロが安眠できません」

「ワフッ(俺は別にいいけど)」

「お前は黙ってろ」


 シロが空気を読まずに尻尾を振ったので、俺はジロリと睨んだ。


「うぅ……っ! ふられましたわ……! 全世界への配信中で、盛大にふられましたわ……!」


 王女がガックリと項垂れる。

 その様子に、コメント欄は爆笑と「尊い」の嵐に包まれた。


『公開失恋www』

『姫様ドンマイ』

『「騒がしい」で切り捨てられる王族』

『おっさん、そこは貰っとけよwwww』


 ホログラムの向こうで、国王が長く、深いため息をついたのが聞こえた。


『……分かった。これ以上、其の方を既存の枠組みに当てはめようとするのは無理なようだ』


 国王は意を決したように顔を上げた。


『ジンよ。其の方の望み通り、静かな暮らしを保証しよう。その代わり――』


 国王の目が鋭く光る。


『その廃棄ダンジョンを中心とした一帯を、王国法が適用されない「独立特別自治区」……すなわち【聖域】として認定する。外交権も自治権も全て認める。だから頼むから、他国に行ったり、我が国に敵対したりしないでくれ。これが王としての精一杯の譲歩だ』


 事実上の「独立宣言」だった。

 俺は驚いたが、まあ、税金もかからず、国の干渉もなくなるなら悪くない条件だ。


「……分かりました。敵対するつもりはありませんよ。平和に暮らせるなら、隣人として仲良くやりましょう」


 俺が頷くと、国王は安堵のあまり椅子に崩れ落ちたようだった。

 こうして、俺の住む辺境の地は、正式に地図から消え――世界最強の生物と、世界一の配信者が住む、不可侵の『聖域』として生まれ変わることになった。


 平和なスローライフの始まりだ。

 ……と、思っていたのだが。


「師匠! 独立祝いに、村の拡張工事を始めますぞ!」

「ジン様! 失恋の傷を癒やすために、しばらくここに滞在しますわ!」

「ジン殿! 各国の王族から『聖地のレストランを予約したい』と問い合わせが殺到しております!」


 ……全然、静かになりそうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ