第10話:逆ギレした勇者、全財産をはたいて「フェイク暴き」に来る
王都の安宿。
粉々になったスマホの残骸の前で、勇者ライオネルは血走った目で仲間たちを見回した。
「いいか、よく聞け。あの配信は『トリック』だ」
ライオネルは、何かに取り憑かれたように早口でまくし立てた。
「フェンリル? ドラゴン? そんなものが都合よく一箇所に集まるわけがない。あれはジンの野郎が、大金を払って幻影魔法の使い手を雇ったか、あるいは精巧なゴーレムを使っているに決まっている!」
「えぇ……? でも、ギルドの鑑定結果は……」
剣士が弱々しく反論しようとするが、ライオネルは聞く耳を持たない。
「ギルドもグルなんだよ! あいつら、俺たち『シャイニング・ブレイバーズ』の影響力が大きくなりすぎるのを恐れてたんだ。だからジンを担ぎ上げて、俺たちを潰そうとしてるんだ!」
陰謀論。
人は追い詰められると、自分のプライドを守るために世界の方を歪めて解釈する。今のライオネルはまさにそれだった。
「逆転のチャンスだ。俺たちが現地に行って、あの化け物たちが『ハリボテ』であることを暴く。そして、詐欺師のジンを成敗するんだ! そうすれば俺たちは、悪を討った英雄として返り咲ける!」
「なるほど! それなら勝てるわね!」
ルルもまた、現実逃避を選んだ。彼女にとって「自分が捨てた男が世界一すごい」という現実は、受け入れがたいものだったからだ。
「よし、行くぞ! なけなしの貯金をはたいて『転移スクロール』を買う! 今すぐ辺境へ飛んで、奴の化けの皮を剥いでやる!」
◇◇◇
――数時間後。辺境、廃棄ダンジョンの入り口付近。
空間が歪み、ライオネルたち三人が姿を現した。
王都から馬車で数日の距離を、高価なスクロールで一瞬で移動してきたのだ。財布の中身はもう空っぽだが、これから配信で稼ぐ予定なので問題ない(と彼らは思っている)。
「ここか……ふん、ゴミ溜めがお似合いだな」
ライオネルは鼻を鳴らし、茂みに身を隠した。
そして、新しいスマホ(ルルに借金して買った)を取り出し、配信を開始した。
タイトルは、【緊急突撃】謎のおっさんの「やらせ」を暴く!【正義執行】。
「みんな、待たせたな! 勇者ライオネルだ! 今日はネットを騒がせている詐欺師の現場を押さえるために、ここまで来たぜ!」
野次馬根性たくましい視聴者たちが、すぐに集まってくる。
『うわ、本当に来たのか』
『懲りないなこいつら』
『やらせって……あれガチだぞ?』
『死にに来たのかな?』
『遺書は書いたか?』
コメント欄の警告を、ライオネルは「信者によるアンチコメ」だと解釈して無視した。
「よし、カメラを向けるぞ。あそこを見ろ!」
ルルがカメラをズームする。
そこには、ダンジョンの入り口広場で作業をするジン(俺)の姿があった。
そして、その背後には――
巨大な黒竜と、銀色の巨獣が寝そべっている。
「ひっ……!」
剣士が小さく悲鳴を上げる。遠目に見ても、その圧倒的な存在感は生物としての本能的な恐怖を呼び起こす。
だが、ライオネルは勝ち誇ったように笑った。
「見ろ! 動かないだろ!」
確かに、クロとシロは微動だにせず、ただ寝ているように見える。
「SランクやSSランクの魔獣が、人間の気配を感じて無警戒に寝ているはずがない。あれはやっぱり作り物だ! よく出来た人形だな!」
「さっすがライオネル! 見破っちゃうなんて!」
ルルがお追従を言う。
二人は恐怖を「これは偽物だ」という思い込みで塗りつぶし、ジン(俺)の元へ近づいてくる。
一方、俺は何をしているのか。
俺は右手に鍬を持ち、畑のような区画に向き合っていた。
「グラビティ・プラウ」
ブォン!!
俺が杖を振ると、地面の土が一斉に空中に浮き上がり、雑草と小石が弾き出され、ふかふかの土壌となって着地した。
数時間かかる耕作作業が、わずか一秒で完了する。
「よし、いい土だ。これならダンジョン芋がよく育つぞ」
俺は額の汗を拭った。
そして、後ろで寝ているクロに声をかける。
「おーいクロ、水やり頼むわ」
「グ……(むにゃむにゃ……)」
クロは寝ぼけ眼を開けもせず、鼻先から「プシュッ」と霧状の水ブレスを吐き出した。
それは完璧な散水となって、畑を潤した。
「サンキュー。シロ、カラス除け頼むな」
「ワン(zzz……)」
シロは尻尾をパタンと一度振って、返事をした。
その光景を見て、茂みの陰のライオネルは確信した。
「見たか!? あのドラゴン、水しか出さなかったぞ! 火を吐く機構を作る予算がなかったんだな!」
「あはは! ショボいギミックね!」
「よし、今こそ突撃だ! あのインチキ舞台を破壊して、俺たちの正しさを証明するぞ!」
ライオネルが剣を抜き、ルルが杖を構える。
彼らは飛び出した。
破滅へのレッドカーペットへ、自らの足で。
『あーあ』
『行っちゃった』
『ドラゴンを「水しか出せない」って解釈するの天才かよ』
『そりゃ畑に火は吐かないだろwww』
『おっさん、後ろ後ろ!』
『【速報】勇者パーティ、最後の突撃を開始』
コメント欄が「wktk」と「南無」で埋め尽くされる中、ついに直接対決の火蓋が切って落とされた。




