023話 ダンジョンへの道のり
□023話
結局僕らは「残影の外套」の「収納」能力を最大限に活用し、十二分な物資を準備した。
また、食料やポーション類はチェイス達の持っていたマジックバッグにも分けて収納し、パーティが二手に分かれてしまったケースにも備えている。
南門を経由して、ロゼッタへと向かう街道を進む。
リージュは周囲を観察しながら、ぽつりと呟く。
「行商人の行き来が随分少ないですね」
「街道沿いにダンジョンが発見されたんだから、当然と言えば当然ね」
「ナレフはロゼッタ方面からの物流が要ですから、早急な解決が必要ですね」
リージュとミーナが何やら小難しい話をしている。
一方、僕の隣を歩くニーナはシャドーボクシングのような動きをしながら、
「アタシはさ、今回大活躍してかっこいい二つ名を手に入れてやるんだ」
などと張り切っているが、果たしてどうなることやら。
しばらく進んだところで、前方を歩くチェイスが大きな声を上げる。
「なんだありゃ!?」
遠目にもはっきりと分かる巨大なテントが見えてきた。
「こんにちは」
「キリト、ご苦労」
テントで僕らを出迎えたのは、ギルマスの秘書カレンと英雄ザインだった。
「これは一体どういうことですか?」
「私は、あなたたちがモフ吉をダンジョンに連れて行くのが心配で、か……監視に来ました」
頬を赤く染め、伏し目がちに話すカレン。
「カレン! モフ吉と私は離れたらいけない運命なの!」
「あなたねぇ、モフ吉のことを考えるなら、危険なところに連れて行くべきではないのよ」
どうやら、二人の話し合いが始まってしまったようだ。
一方のザインは――。
「ロゼッタ街道の安全を確保する依頼を受けた」
とのことだった。
「それにしても、この巨大なテントは……」
僕は思わず尋ねる。
「ギルマスの支援だ。お前達のための物資も持ってきている。それにしてもお前達……荷物が少ないな。今日は様子見か?」
「僕たちにはマジックバッグもありますから、それなりの備えはしてきたつもりです」
「そうか。お前達の考えがあるんだろう。適宜ここに戻ってくると良い」
「ありがとうございます。ザインさん」
などと話していると、カレンが満面の笑みでモフ吉を抱きしめていた。そして、その隣で不貞腐れ顔のミーナ。
「ダンジョンの入り口はどこなの?」
一刻も早くモフ吉を取り返したいのか、ミーナはダンジョン攻略へと気持ちを切り替えたようだ。
まだカレンと距離感が遠いリージュは控えめに、
「街道沿いと聞いていたのですが……」
と質問する。
「説明が足りませんでしたね。このテントのすぐ後ろです」
「すぐ後ろ……ですか?」
「あまりに街道に近かったため、出入口を魔道具で緊急封鎖しています。何十日も持つものでもありませんが……」
僕たちは裏手に回ると、如何にも洞窟の入り口という岩場が鎮座していた。
そして、その傍らで焚かれているお香。
「このお香が出入口を封鎖しているんですか?」
「いえ、そちらは私の趣味です。魔道具はこちらです」
カレンの指さす方を見ると、一見すると招き猫の置物があった。
「これって……招き猫でしょうか?」
「招き猫ってなんですか? この猫の像は魔法都市アルカナ製の最新モデル。この右手でパンチを繰り出して『魔を退ける』と言われています」
「へぇ……」
カレンはなによりこのデザインを気に入っている様子。本来のデザインの真偽は分からないけれど、何らかの魔法が施されていると見て良さそうだ。
「魔物が出てくる心配は当面ありません。それに、仮に出てきたとしてもザインさんに討伐されるでしょう」
確かに、その点は心強い。
「僕らは出入りできるんですか?」
「人は出入りできますよ。この猫の像を侮らないで下さい」
「すみません。失礼しました」
僕はミーナに声を掛ける。
「ミーナさん、外套にモフ吉を収納することってできないでしょうか? 収納できれば安全に連れて行けると思いまして……」
「命あるものを収納することはできないわ。そればかりは如何に『残影の外套』と言っても無理だと思うけれど」
「ちょっと試してみましょう」
僕はモフ吉に意識を集中して収納を試みる。しかし、モフ吉が収納されることはなかった。
「やっぱり無理みたいです」
「キリト君、ありがとう。私は大丈夫よ。モフ吉のために帰ってこなければならなくなったから」
そうか。そういう考え方もあるのか。ミーナのポジティブな考え方を見習おう。
「さて、いよいよダンジョンに入ってみるとしよう」
チェイスが皆の顔を見渡す。僕は外套の内側から、各自の武器と防具を取り出して手渡しする。
「まずは、様子見よ。無理はしないこと。特にニーナ」
ミーナが皆に釘を刺す。
「分かってるよ。お姉ちゃん」
ニーナの気の抜けた返事。果たして分かっているんだか、いないんだか。
チェイスを先頭にダンジョンに踏み入る。
招き猫の横を通り抜けた瞬間、ひんやりとした空気が周囲を包み込む。湿り気を帯びた洞窟内は、少し重たい空気だ。
リージュが杖を前にかざし、詠唱を始めた。
「――光よ、私たちの進むべき道を明るく照らしたまえ。白光」
詠唱を終えるなり、リージュの足元を起点に四方に光の帯がスッと伸びていった。
「さて、これで視界は確保できました。慎重に探索を進めていきましょう。キリトさん」




