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攻撃力0の【救済者】〜魔物を殺さず『元の姿』に戻してたら、いつの間にか伝説級メンバーのリーダーになっていた件〜  作者: おとしごと


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024話 ダンジョン初戦

 リージュの魔法で視界が確保できているが、チェイスを先頭、ベックを殿に、周囲を警戒しながら歩みを進める。


 最初の一階層は一本道で、魔獣や魔物には遭遇することなく、二階層への下り道に到達した。


「一旦、ここで軽く休憩するぞ」


 先頭を警戒しながら進んできたチェイスの表情から僅かに疲労感が伝わってくる。


「チェイスさん、大丈夫ですか?」


 チェイスはリージュから受け取った水袋をゴクゴクと飲み込んでいる。


「あぁ、大丈夫。だが、この先にどうも何か嫌な予感がしていてな。全く気を抜けやしない」


「嫌な予感……ですか」


(ナビさん、何か察知できてる?)


<<この先にAランクの魔物が数体、その先は索敵できません>>


「チェイスさん。この先にAランクの魔物が数体いるようです」


「「Aランクの魔物が数体!?」」


 チェイスとミーナの声が重なる。


 表情が一段と険しくなったチェイスは、僕の両肩を強く揺さぶる。


「キリト、お前……正気でそれを言っているのか?」


 その表情や行動とは裏腹に、僕とミーナの二人にだけ聞こえる程度に声を押し殺していた。ベックとリージュ、ニーナには聞かせたくないようだ。


 ミーナも声のボリュームを落とす。


「Aランクの魔物が複数なら、Sランクのパーティが動員されるレベルよ。私たちが出る幕じゃないわ」


「ダンジョンの外に出られでもしたら、近隣の町や城が間違いなく落ちる……災厄だ」


 三人の間を沈黙が支配する。少し離れた場所、ベックの近くで休憩中のリージュとニーナはまだこのことを知らない。


「事実だとしたら、俺達の手に負えない。一旦撤退すべきだと思う。ミーナはどう思う?」


「私も同意ね。私たちより上位のパーティだっているし、ザインもいる」


「でも、僕らがMPダメージで討伐するのと、他のパーティが討伐するのは意味合いが違いますよね」


「それはそうだが……」


 チェイスが口ごもる。僕はナビさんにも質問を重ねる。


(僕が戦う意味はあるよね?)


<<他パーティに討伐された魂は、別のダンジョンで新たな身体を得ます。キリトに浄化されれば再度出現することはありません>>


(ナビさん、補足ありがとう。ちなみに、僕らは勝てるかな?)


<<キリトなら苦にならないかと。Aランクの魔物は物理防御特化型です。MPダメージで昇華できるはずです>>


 ナビさんの一言に背を押された僕は、チェイスとミーナを説得にかかる。


「勝てる可能性はあると思います」


 二人の目を交互に、じっと見据える。


「少なくとも、今分かっているAランクの魔物は物理防御型。魔力はほとんどありません。魔力の少ない相手は僕とは相性が良いハズです」


「……亡霊騎士戦と同じってことか」


「それだけじゃありません。ギルマスとの模擬試合出得た経験、それに、この外套もあります」


「だが、Aランクが複数なのよ?」


「そうです。だから、何とか一体ずつおびき寄せられませんか?」


 僕はナビさんから得た魔物の位置、ダンジョンの構造に関する情報をチェイスとミーナに共有する。


「キリト君、このダンジョンに入ったのは初めてのハズだけど、あなたにはここまで正確に把握できているの?」


 ミーナは信じがたいという表情でこちらをみる。


「これも僕に与えられた能力の一つです」


 こんな説明で納得してもらえるか分からなかったが、一先ずの回答をミーナに回答。すると、チェイスが興奮した様子で


「凄いぞこりゃ!!」 


 と騒いでいた。


「これだけダンジョンの様子が分かるなら……例えば――」



 ■  □  ■  □



 ――しばらくの作戦会議の後、方針が決まった。


 ダンジョン入り口に設置していた『魔除けのネコの像』をダンジョン二階層に持ってきて道を封鎖するという作戦だ。


 幸いにも一階層は一本道。二階層に入ってすぐ道が二手に分かれるが、その一方を塞げば魔物一体を孤立させられる算段だ。


 ダンジョン入り口まで一度戻る手間は生じたが、僕らはカレンを引き連れ、『魔除けのネコの像』を活用することで魔物を一体孤立させることに成功。


 そして、現在は物陰に身を潜めて、遠目から魔物の様子をうかがっている状況だ。


「あれは、動く石像でしょうか」


 人の身長の2~3倍はあろうかという石像が、ダンジョンを闊歩している。


 石像が一歩踏み出す度に、地響きがなり、空気も震えている。


「確かに、動くタイプの石像だな。あのタイプは魔力が殆どなく、動きもそれほど速くないはずだ。キリトにとって相性の良い相手ではあると思うが……あんなのとやり合うなんて想像したくもないな」


「さて、どうするの? 魔法を使わないとは言え、Aランク。私たちが簡単に戦えるような相手じゃないわ。無鉄砲に正面から戦うのだとしたら、さすがに止めるわよ」


 僕はギルマスとの模擬試合の後、MPダメージの範囲拡大のトレーニングを続けてきた。


(この範囲拡大が行き着く先は……)


<<良く気付きました、キリト。MPダメージ攻撃は工夫次第で遠方まで飛ばせます>>


(みんなをこれ以上危険な目に合わせたくない。ここで一歩踏み出さなきゃ)


 僕は岩陰から踏み出した。石像との間に遮蔽物はなく、僕の体が石像に認識された。


「きっ、キリト君!? 待って!」


 ミーナの声が届くが、それより早く石像もこちらへの突進を開始していた。


 石像の動きはゆっくりだったが、その巨体と地響きは着実にターゲットとなったものに恐怖を感じさせるものだろう。


 ズシィィン……! ズシィィン……!


 石像が地面を踏みつける度に、大地震のそれと変わらない振動が足元を伝わってくる。


 防御特化型と聞いていたが、あの石像の圧倒的な質量の拳は例え重厚な鎧に身を包んでいても、防具ごと体を粉砕してしまうだろう。鎧を纏っていない僕は……。


 いや、弱気な事を考えている場合ではない。


「皆さん、岩陰から出ないでください」


 僕は右手を石像の方に向けて静かに突き出す。


 これまでの特訓の集大成。遠隔MP攻撃。体を巡る魔力(?)を掌に集中。球状にまとめ上げる。


「目の前に白い光が集まった!?」


 ニーナにも見えるのか。まだ改善の余地があるみたいだけど、この状況だと一気に放つしかない。


「行っけぇぇぇぇ!!」


 その瞬間、僕の掌から白光球が放たれ、一直線に石像の巨体を貫く。


<<MPダメージ確認。MPゼロ確認>>


(石像に縛られた魂さん、痛かったらごめんね。その石の体にもう縛られる必要はないよ……)


「なっ……光って、消えていく!?」


 瞳を大きく見開いたまま、石像の方を凝視したままのカレン。


 石像の巨体に光の筋が無数に走り、次の瞬間――バァァァン!

と大きな音を立てて、Aランクの魔物だった石像は「崩壊」した。


(ナビさん、魂は旅立って行ったかな?)


<<魔力による束縛から解き放たれたことを確認しました>>


「……終わりました」


 僕がそう告げると、カレンは放心した様子で、

 

「……ありえない。Aランクの物理特化の魔物を……遠距離から一撃……? 魔法の詠唱も無かった……」


 と震える声で呟いた。


「おいおい……キリト。お前、いつの間にそんな技を身につけたんだ?」


 僕の肩をバシバシ叩いてくるチェイスは、自分のことのように喜んでいた。


「ギルマスとの模擬試合で……コツを掴んだと言うか、なんと言うか……」


 僕はただ、頭をかいて、その場をやり過ごすのであった。

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