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攻撃力0の【救済者】〜魔物を殺さず『元の姿』に戻してたら、いつの間にか伝説級メンバーのリーダーになっていた件〜  作者: おとしごと


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021話 買い出しとハプニング

□021話


 この世界に春夏秋冬という概念があるのか分からないけれど、少なくとも今の季節のこの時間帯は、暑くも寒くもなくて過ごしやすい。


 ふと空を見上げると太陽が一番高い位置に昇り、足下に目を落とせば僕らの影は足下で縮こまっていた。


 ボーッとそんなことを考えていると、もう一つの影の主が話しかけてきた。


「ねぇ、キリトさん。買い出しに付き合ってくれてありがとうございます」


 長い髪が太陽の日差しを受けて、一際強く金色に輝く。まだあどけなさは残っているものの、その整った容姿でどうしても行き交う人々の注目を集めてしまうリージュ。僕は集まる視線に緊張しつつ、リージュの隣を歩いていた。


「いえいえ。見習い冒険者として、どこで何を買うのか覚えていかないといけませんので」


「勉強熱心なのは良いことです!! ですが、買い出しは基本私が担当しますので、覚えないでも大丈夫ですよ」


「買い出しはいつもリージュさんがやっていたのですか?」


「そうです。だって、頭を使うのが苦手なチェイス兄さんと、人前では静かになってしまうベック兄さんですよ?」


「確かに。それってすごく分かる気がします。ニーナにもお願いできませんね。見栄っ張りだから必要以上に買わされそうです」


 リージュがクスクスと笑う。


「ニーナが大量に買い込んで来て、兄さん達に叱られる様子が目に浮かびますね」


「なので、うちのパーティですと、ミーナさんか僕がサポートできたら良いんじゃないですかね」


「では、今後のことを考えて、買い出しについての授業を続けますね」


 上機嫌な様子のリージュ。


 僕らは既に水やら食料やら様々なものを購入しているが、息も上がらずにのんびり会話できるのは、マジックバッグのお陰だ。


 リージュの腰元にあるマジックバッグは魔道具の一つ。その見た目に反して、かなりの収納容量を備えているらしく、これまでに購入したものは全てマジックバッグに収納できてしまった。

 

 だから僕らはほぼ手ぶらで町中を歩いているだけ。本当に散歩しているだけなんじゃないかって錯覚に飲み込まれそうになる。


「リージュさん、変なことをお聞きしますが、マジックバッグって高いんですか?」


「マジックバッグですか? 非常に高価だと思いますよ。まず流通量自体がそもそも少ないですし、出回ったとしてもすぐに買い手がつきますからね。大抵、貴族や有力な商人が僅かに所有している程度でしょう」


「そうですか。僕も一つ持てれば皆の役に立てると思ったのですが……」


「冒険者が持っていること自体かなり珍しいですから気にしないで大丈夫ですよ。私たちの場合、商人を営む両親から譲り受けたものを使っていて、幸運だっただけです」


 リージュの口から発せられた「両親」の単語にドキリとする。チェイスとベックが両親の死を妹であるリージュに隠していることを、僕が知っているためだ。


 返事に躊躇していると、市場の角から子どもの叫び声が聞こえてきた。


「やめて! やめてくださいよ! この野菜がないと、うちは……」


 声のする方を振り返る。子どもが地面に散らばる野菜を必死に拾っていた。続いて聞こえてきたのは、男性の怒声だ。


「うるせえ! お前がぶつかって来たんだろう! こっちはケガしたんだ!」


 怒りに身を任せるガラの悪い男性。野菜を踏みつけようと足を下ろす――。


 僕は先日のレベルアップの恩恵を最大限活用して、最高速度で一気に距離を詰めて野菜を拾い上げる。


 男が踏みつけたのは、地面だ。


「何だ、てめえ!」


「やめるんだ。こんな小さい子に」


「てめえには関係ないだろう!」


「事情は分からないが、暴力を振るうのは見逃せない!」


 怒りに身を任せた男は、周囲の野菜を次々と踏みつけようと

立ち回る。


 僕はそれを既の所で阻止する。


「兄ちゃん! すげえぞ!」


「おっさん! ダセえぞ! そろそろ諦めろ!」


 気づけば周囲に人だかりが集まっていた。


 地面にはまだ野菜が転がっているが、僕の両手で抱えきれるのはもはや限界。


 (マジックバッグみたいに野菜を収納できたら――)


 頭の中でそんな事を考えていた。


 その時に通り抜けた風で外套が僕の体を包んだ瞬間――野菜の重みも、ゴツゴツとしたその手触りも、ふっと消えてしまった。


「あれ……。野菜は……?」


 野菜の消失に僕は呆然としていた。感覚的に外套の中に吸い込まれたような……。


 焦る僕を他所に、男は年貢の納め時とばかりに、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。


「てめえもこれ以上持てやしないだろう。残念だが、残りの野菜は全て踏みつぶしてやるよ!」


 だが、その時すでに僕の両手は自由を取り戻していた。僕は自由になった両手を駆使し、地面に散らばる野菜を全て回収した。


「て、てめえ!『収納』もちか? 騙しやがって! ええい、もうめんどくせえ!」


 男はくるりと反転すると、逃げ去って行った。


 人だかりが引いていき、ようやく少し落ち着いた様子の少年。


「兄ちゃん。助けてくれてありがとう。だけど、野菜はどこにいっちゃったの? 野菜がないと……」


 目に溜まるたっぷりの涙を何とか零さずにこちらを見据える少年。


「大丈夫。キリトさんがすぐに野菜を出してくれますから」


 地面にかがみ、少年と同じ目線で優しく語りかけるリージュ。


 そして、無くなった野菜の行方に混乱する僕。


 ――とある変わり者が営む店の店主が新しい二つ名の噂を聞きつけるのにそう時間はかからなかった。

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