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攻撃力0の【救済者】〜魔物を殺さず『元の姿』に戻してたら、いつの間にか伝説級メンバーのリーダーになっていた件〜  作者: おとしごと


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019話 月姫の一振り ――チェイスが目撃した光景

□019話


 日中、しつこい尋問を受けた僕は、なかなか眠りにつけず、外で響く素振りの音に気付いた。


 庭を覗くと、ブン、ブンと木剣で素振りをする影。


 庭に出て近づいてみると、上半身裸で木剣を振るチェイスの姿が見えてきた。


 表情は真剣そのもの。一振り一振りが空気を切り裂くように鋭く振り下ろされている。


 時折、剣を払ったり、何かを避けるような動作も取り入れている。僕からは見えないが、チェイスの目には目標としている相手の姿がはっきり見えていて、さながら模擬戦をしているかのようだった。


 更に近づいていったところで、チェイスはこちらに気付き、木剣を地面に突き刺した。


「あぁ、悪い。起こしちまったか、キリト」


 溢れ出た汗は全身から湯気の如く立ち上がっていた。チェイスは無造作に首に巻いていた布きれで汗を拭き取る。


「いえ、素振りの音は関係が無いです。今晩はなかなか寝付けなくて……」


 チェイス宅の庭は広く、背の高い庭用の照明が3カ所設置されている。


 魔鉱石で駆動している照明は、時々魔力の補充が必要なものの、夜の間もオレンジ色の煌々と光を放ち続けている。


 ヒラヒラと舞う煌びやかな色をした蛾が、光を中心に近づいたり遠ざかったりを繰り返している。


「オレとミーナの育成学校時代の話を聞いたっていってたもんな。どう聞いたか分からないが、俺も時々思い出して、寝付けなくなることがある」


「えぇ」


 チェイスは空を見上げる。


「俺の口からも少し話しておこう」


 腰にぶら下げていた皮の水袋の栓を外し、チェイスはゴクゴクと豪快に水を飲む。 


「育成学校は『冒険者に必要な知識と経験を身につける』ための育成機関だ。今のギルマスが設立したそうだ」


「大抵、見習い冒険者として日銭を稼ぎながら通ったり、親や支援者の金で通うんだ。俺は後者で、親の金で通っていた。だが、俺達の代に授業料免除の特待生ミーナがいた。どんな奴か思えば、どこにでもいる普通の女だったから、毛嫌いしちまったさ。だが、卒業試験、あの夜の、あの光景は今でも俺の目に焼き付いているんだ」


「それって、オークが襲ってきたという……」


「そう、『月姫ミーナ』の戦う姿だ。」


 チェイスは木剣を手に取り、ゆっくりと身構えた。


「あの夜、俺たちの目の前にオークが現れたんだ。ただでさえ、目の利かない夜間、しかも俺達は冒険者みならいの十五歳のガキだった。ミーナと他の二人もただ抱き合って震えていたんだ。でも、ただ震えて死ぬなんて馬鹿みたいだろう。俺は剣を手に必死に戦ってみたさ」


 右に左にステップを踏み出し、木剣で切り上げたり、後方に跳躍後に距離を詰めて斬りかかるなどの動作を繰り返すチェイス。


「奴の持っていた棍棒は、一度でも食らえば致命傷だ。暗くて碌に見えやしないから、距離を取って戦ったが、奴の振り回す棍棒が辺りの木をなぎ倒し、その破片やら何やらが身体に突き刺さって、血だらけになって、最後は意識が朦朧として俺は倒れちまったんだ」


 再び剣を地面に突き刺し、両手で万歳のポーズ。


「それまでの間に木の破片が飛んで言ってたんだろうな。テントの天幕が吹き飛ばされて無くなっていて、中にいたミーナ達が露わになっていた。何とか立ち上がった俺が見たのは、満月を見上げて、全身を金色の淡い光に包まれたミーナだった」


 それはきっと、隔世遺伝で獣人種の特徴を色濃く受け継いだ彼女特有のスキルか何かなんだろう。


「オークはそこででっかい咆哮を放って、ミーナ達の方に突進を始めた。俺も全力で走ったんだが――」


 チェイスは何か強烈な光から目を守るようなポーズ取った。


「たった一度だ。たった一度、左腕を斜め上に振り上げたら、金色の眩しい光がまっすぐにオークの方に向かっていき、オークを飲み込んで消しちまった。しかも、その光はそこで勢い止まらず、その後方の木々や、近くの山の一部を削って、夜空に消えていったんだ」


「すごい光景だった。昔話で語られる英雄でも、勇者でも見劣りしちまう。俺も、他の全員も、その後はその場で呆然と座り込んでいた。ギルドの職員が遅れて駆けつけてくれて、その日の野営は中止になって、町に帰還したんだ」


「町に戻ってから、俺の見た光景をギルドで説明したんだが、夢でも見てたんじゃないかって誰も信じやしなかった。同じテントにいた残りの二人は、家族総出でどこかの町に引っ越しちまったから、あれは現実だったんだって確信しているよ」


ここで。チェイスの真剣な眼差しが僕をまっすぐ見据えた。


「俺は『男は弱い奴を守る』という信念で生きてきた。そんな俺が、守ろうとした奴に守られちまった。あのとき以来、ミーナは背中を預けられる戦友だ。恋だとか愛だとか、そんな感情は欠片もない。」


 僕が言葉を選んでいる間に、チェイスは頭を掻きながら続けた。


「その、あれだ。お前がミーナやリージュをどう思おうとお前の勝手だし、後悔の無いようにすれば良いさ。それに俺にはフィアンセが――おっと、忘れてくれ」


 チェイスお得意のウィンクが飛んできて、話はお開きとなった。だが――フィアンセだって? そんな話は一度も聞いたことがなかった。


 戦友と言い切っていたがミーナはこれを知っているのか?


 チェイスと血の繋がった弟妹であるベックやリージュもこれを知っているのだろうか?


 照明の周りをヒラヒラと飛んでいた蛾が、ふと闇夜に消えていった。


 夜風が僕の身体を一吹きし、僕は少しだけ寒さを感じたのであった。

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