016話 変わり者店主の店と新喜劇風のツッコミ
□016話
翌朝、僕は制圧すべき相手を睨みつけ、大斧を振り上げていた。
両手に力を込めギュッと斧を握りしめて、大斧の重量と僕の筋力の全てを同調させて、まっすぐ一直線に大斧を振り下ろす。
「はあぁぁぁl!!」
全ては一刀両断の元に葬り去るために――。
カツン。
大斧は薪に僅かに食い込んだところで完全に勢いを失い、僕の両手にその反動が――
「うっ!? うぅぅぅぅぅ!? いってて……」
隣に立つベックが僕から大斧を受け取り、小さな斧を手渡した。
「じゃあ、この小さな斧で無理に力を入れないでやってみろ」
今度はその小さな斧を振り上げ、薪にまっすぐ振り下ろす。筋力は斧が薪に垂直に落下するように補助する程度。斧の切れ味を活かすためだけに活用する――。
ストン。
小さな斧は薪を一刀両断した。
「それ! キリトはセンスが良い。チェイスには未だにできないのにな」
ベックが珍しく笑っている。そうか、チェイスは脳筋タイプなのか。
「自分の身体に合うものを選ぶ。その機能を活かしてあげる。それを忘れるな。オレの知る冒険者は大抵、武器や防具に振り回されてる……チェイスもだけどな」
ベックに装備品の選び方を聞きに来て正解だった。
「ベックさん、ありがとうございました。そろそろ準備を始めますね」
口元をニコリとしたベックさんは、いつものサムズアップで僕を送り出してくれた。
「キリト君、準備が出来たのね。早速出発しましょう。今日は武具の選び方の神髄を教えるわ」
「ダメダメ!! お姉ちゃんの助言は難しいし、凄く時間が掛かるんだから。今日はアタシがキリトの装備を選ぶの!! 身軽に動ける軽装に関しては、アタシが一番センスあるはず!! 見た目もかっこいいのを選んじゃうからね!!」
「いいえ、キリトさんは接近戦主体になります。鎧じゃないと危険です。キリトさんには無骨な鎧が似合うはずです」
ミーナ、ニーナ、リージュの三人娘が、僕の袖を引っ張り、言い争いをしている。
今日一日、着せ替え人形にされそうなそんな嫌な予感に、背筋に冷たいものを感じていた。
「キリト、何だか大変そうだな。オレはここで待ってるから……頑張るんだぞ」
チェイスが他人事で僕を送り出そうとしている。
戦闘経験に基づく助言を貰いたいが……ベックによるとチェイスは武具に振り回されている一般冒険者レベルみたいなんだよな……。装備品選びに脳筋ポンコツタイプの同行は……して貰わなくて良いか。
「分かりました、チェイスさん。頑張ってきますね」
「おい、キリト。今、なんか失礼なことを考えなかったか?」
「いえ、そんな失礼なことはしていないと思いますけれど」
「おい、何か失礼なことを……」
「「「さぁ、出発!!」」」
「おーい!!!!」
僕は三人娘に引きずられて、変わり者の店主の店へと出発したのであった。
以前、チェイスに町を案内して貰ったため、装備品の店が一つの区画に集まっていることを僕は知っている。
その理由は、この町が魔獣あるいは魔族と人類の境界線に位置しているためだ。魔獣のスタンピードなどの有事があった際に、装備品を円滑に提供して貰うため、一カ所に集まると税が優遇される仕組みが取られているのだ。
だが、今回はそのエリアを通過していく。
「あれ? 装備品の購入はこの辺りだと聞きましたけど」
「だ・か・ら、変わり者の店主の店なんだよ。」
「私は冗談だと思っていましたよ。兄さん達もあのお店には行ったことありませんし」
「普通の冒険者は門前払いされておしまいだから、そうなるのも仕方ないわ」
ミーナニーナ姉妹は馴染みの店らしい。チェイス兄妹はその店に入ったことが無いようだが――。
「もう少しだけ歩くよ-」
しばらく歩いていき、到着したのは衣服や宝飾を取り扱う店が集まるエリア。僕はこのエリアにまだ足を踏み入れていない。
「こんな所に武器や防具を取り扱うお店があるんですか?」
「あるのよ。ほら、あそこ」
ミーナの指さす先を見ると、店先、店の壁に多様な看板が掲げられていた。
【伝説の勇者、大歓迎!!】【魔術創造の大賢者、大歓迎!!】【竜殺しの大剣士、大歓迎!!」
「これって、だいぶ冒険者を歓迎していないですか?」
フフッと笑うミーナの横で、腕組みをするニーナ。
「良く見るのじゃ、キリトよ」
ニーナ先生のご指導の下で、再び看板を良く見る。そこには小さな文字が書かれていた。
「何々? ①二つ名持ちの冒険者には定価で武器防具を販売します。 ②二つ名を持たない冒険者には定価の10倍で販売します。 ③一度カウンターまで持ってきたら、必ずお買い上げしてもらいます。これって……」
「ここの店主さん、こだわりが強いのよ。そういう点で、店に並べる武器も防具もこの町では一番。でも、客選びにもこだわりが強くて、ちょっと敬遠されているの」
「アタシも一度やっちゃったからなー。『ナレフ一番の美少女・賢女・凄腕ニーナ』。アタシの二つ名をここの店主は知らなかったのは以外だったわ……。お姉ちゃんに助けて貰ったんだよね」
「そう。『月姫ミーナ』『ギルドの頭脳ミーナ』の二つ名のお陰で、3割引で購入できたわ」
ニーナはハハハと笑いながら話しているが、それは『自称』なのではないかと思う。
「でも、キリトさんは二つ名持ちですから大丈夫ですよ」
「そうそう。『英雄蹴りのキリト』『ドラゴンバスターキリト』『英雄を土下座させし者キリト』。ほらっ、たーっくさんあるよ?」
待て待て、新たに一つ聞き慣れない二つ名が増えていたぞ。
「あのー、最後の『英雄を土下座させしものキリト』って何?」
「あれ? 今朝、チェイスが仕入れてきたんだけど、これもキリトのことなんじゃないの?」
「キリト君のことで間違いないわ。隣で見ていたもの」
ミーナが人聞きの悪いことを……でも、クスクス笑う横顔を見てしまうと、強く否定する気になれない。
「はい、そうです。事実に間違いありません」
三つ目の二つ名の発覚に、涙目になりながら店に入る。
7分丈のオレンジのシャツの上に黒シャツを重ね着し、オレンジのモジャモジャヘアー、黒い丸縁のサングラスをしたファンキーなお兄さんが出迎えてくれたが――。
「へい、いらっしゃ……あっ、アンタは!! キリトさんじゃないですか!!」
「そうなの!! ア・タ・シの二つ名ハンターキリトさんがいらっしゃったのよ!!」
リージュのニーナへの冷たい視線が気になったが、ここでは無視しておこう。
「あんたは、『英雄蹴りのキリト』『ドラゴンバスターキリト』『英雄を土下座させし者キリト』『ギルマスの膝をつかせし者キリト』で有名な、二つ名ハンターキリトさんじゃないですか!!」
ため息をつき、ひとまずリアクションを取る。
「おーい、また新しい二つ名が増えているぞー。なんでやねーん。『ギルマスの膝をつかせし者キリト』ってどこから聞きつけたんだー。二つ名ハンターは合ってるんかーい」
「キリトさん、オイラの二つ名収集力を舐めて貰っちゃ困りますよ。オイラの『役割』なんですから。それに――」
店主さんの目元がキラリと光る。
「キリトさんのそれって、『吉本の喜劇的な奴』ですかい?」
――ハッ!? 僕もその言葉で理解した。
「『吉本の喜劇的な奴』のつもりでした。ご理解頂ける人に出会えて光栄です」
それ以上、この件について言葉を交わすことはしなかったが、僕と店主さんの間に猛烈な親近感が芽生えた瞬間であった。




