015話 ドゲザインとの邂逅
□015話
ギルマスのまっすぐな視線が僕に刺さっている。
そして、ギルマスの言葉が再び頭の中で再生される。
『お主、異世界から来たじゃろう』
ギルマスの言葉が頭の中で何度も何度も繰り返され、言葉を発しようにも、そもそもうまく考えられない。
「えっと……」
僕は言葉に詰まる。どの口でチェイスに演技が下手だなんて言っていたんだろう。僕も全然演技なんて出来ないじゃないか……。
ギルマスはカレンとミーナに「茶でも持ってきてくれんかの?」とお願いをし、人払いをした。
そして、僕の隣に大の字で倒れ込むと、一緒に天井を眺めながら口を開く。
「驚かんで良い。この世界には、時々異世界から人が迷い込んでくる」
「そう……なんですね」
「そうじゃ。そして、異世界から来た者には少し変わった役割が与えられる」
役割に従い生きる。ロール、プレイか。僕の役割は『救済者』だった。
「役割に従わねばならない……と言うことでないんじゃが、役割に従い生きる者も多い」
僕は、この世界のあらゆる者を救いたいと思っている。チームキリトのメンバーも力を貸してくれる。これは役割に従って生きると言うこと? いや、紛れもない僕の意思だ。
「僕は、この力で人々も、魔獣も、救いたいと思っています。」
「うむ。思うままに生きるのが良いのじゃ。ワシの場合――」
ギルマスも僕も、自分の役割を脱ぎ捨てて、ただ一人の人間としてじっくり話した。
「お茶をお持ちしました」
カレントミーナが現れた頃には、ギルマスのことを勝手に友人だと思うほどに、気持ちは打ち解けていた。
■ □ ■ □
ギルドからの帰り道。
既に日は沈み、町は静寂に包まれている。
等間隔で並んだ街灯が、町を淡いオレンジ色の光で照らしている。
石畳に伸びる僕らの影。猫耳の影が、こちらに顔を向けたのに気付いた。
「キリト君。随分楽しそうに見えたけれど、ギルマスと何を話していたの?」
「他愛もない話です。でも、そんな他愛もない話のお陰で、この先の僕の目標が明確になりました」
「目標?」
「人も魔獣も救うって目標です」
「それって、何か変わったの?」
「変わって……そうか。チームキリトの目標のままで、何も変わっていないですね。でも、自分の意思であることがより明確になったと言いますか……」
僕らの後ろの方から、大きな影が近づいて来た。
「誰かと思えば、ミーナと新人冒険者じゃないか」
声を掛けられ、後ろを振り返ると、英雄ザイン。
――こ、これは、謝罪のチャンスだ。
「ザインさん!! 先日はご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした」
僕は腰を90度に曲げて、精一杯謝罪の気持ちを表す。
「よしてくれよ。新人――いや、『黄泉がえりの亡霊騎士』を討伐したんだ。新人なんて呼んだら失礼だな。キリト、その件は謝ってもらわなくて良い。むしろ、御礼を言わせて貰いたい」
ザインは、膝をゆっくりと折り曲げ、地面に突き立てる。その巨躯が故に僕を見下ろしていたザインが、僕と近い目線に。そして、足は正座となり、丁寧に手を指先を地面にはわせ、腰を曲げて、――気付けば正真正銘の土下座の姿勢を取っていた。
「その節は、大変、ありがとうございましたぁ!!」
ザインのどこまでも響き渡りそうな大声で、近所の住民が何事かと集まって来た。
「やあねぇ、こんな夜中に。一体何があったのかしら」
近くの宿からも冒険者もぞろぞろと出てきた。
「やべぇ、あの新人。今度はザインさんを土下座させてるぞ!!」
「オレ、これから声かけるときには『キリトさん』で行くわ。もう、『新人』なんて呼べねぇよ」
この空気感は、嫌な予感しかしない。
「ザインさん!! 顔を上げて下さい!!」
「いや、そうはいかない。しばらくぶりの睡眠、本当に染み渡った」
「いえいえ、早く行きましょう!! 立って下さい、お願いしますから」
「そうよ、ザイン。これ以上、そのままだったら、怒るわよ」
「そ、そうか。確かに人が集まっているな。それにミーナ。お前が怒り出すと手に負えん。冷静になってくれ」
僕たちは、そそくさとその場を後にした。
■ □ ■ □
その後、『一緒に食事でもどうだ』というザインを何とか帰らせ、ミーナとも別れて、僕は帰路を進んだ。
「キリトさん!! お疲れ様」
「ただいま帰りました」
出迎えてくれたのはリージュだった。
チェイスの自宅に客室が余っていることもあり、ここをチームキリトのアジトとすることに決まったのだ。
ミーナとニーナもいずれこの家に引っ越してくることを考えているようだ。
宿住まいになる僕に関しては、初日からずっとお世話になる格好だ。本当に頭が上がらない。
「キリト、遅かったな。ギルマスとの手合わせはどうだった」
「良い勉強になりました」
「そうか。あのギルドで一番の凄腕は、なんだかんだ今でもギルマスだって話だから、手足が出なくたって仕方ないさ」
(やっぱり、ギルマスは手を抜いてくれていたんだ。僕のモチベーション維持のためかな。変なことは言わないでおこう)
「大丈夫です。今後生かしていくことにします」
「キリトさん、偉い!!」
リージュが僕の頭をなでなでしてくる。
「さすがはアタシのキリトだな!!」
あれ? 今晩はミーナの家に居るはずだと思っていたニーナがここに居て、我が事のように胸を張っている。それに、いつの間にニーナのものになったんだろう。
「いえ、キリトさんは私のものです」
ニーナに張り合うリージュ。うん、僕はリージュのものでもないよぉ。袖を右に左に引っ張られる。
「はいはい! 二人ともそこまでよ」
緩んだ空気をピシリと引き締めたこの声の主は――ミーナだ。
「ただいま、みんな!!」
「「「おかえり、ミーナ」」」
「お、おかえりなさい、ミーナさん」
「じゃあ、これから祝勝会ね」
そうして僕たちは、二晩連続の宴となった。
■ □ ■ □
……宴の最中、チェイスが突然真顔になる。
「キリト、明日辺り、装備品を調達してきたらどうだ?」
「チェイスさんに借りたお古の防具、帰り道でプレートが外れてしまいましたもんね」
サイズはピッタリだったのだが、さすがに寿命を迎えてしまったらしい。
チェイスは「遂に壊れたか! 気にするキリト」と豪快に笑っていた。
「じゃあ、明日はキリト君の装備品を見繕いに行きましょう。おすすめのお店を案内するわ。店主が変わり者だけど……」
ミーナの不敵な笑みに、少々不安を感じるが、楽しみに感じている自分もいた。
「アタシも行く!!」
「私も行きます!!」
ニーナとリージュも同行してくれるとのことで、賑やかな買い物になりそうだ。
攻撃力0の僕にふさわしい装備品が見つかるだろうか。
僕たちの次の依頼に向けて、まずは「装備品」を新調することから始めることになった。
変わり者の店主の店、一体どんなお店なんだろう……。




