第五十九話 学校
「あ、いた。」
今から少し遡り、まだ学園を出る前の話だ。トワと傘都に光の三人が歩いているとなにやら息を切らしながらマシロが走ってきた。
「ん?どうしたんだよマシロ。」
トワはなぜそんなに焦っているのか分からず首を傾げる。三人の前まで辿り着いたマシロは膝に手を当て呼吸を整えた。
「実は……言いたいことがあって。」
言いづらいことなのか目が僅かに泳いで口が開いたり閉じたりを数回繰り返している。しかしトワ達はそれを見て焦らせるわけではなく話すときまで黙っていた。
「………その、少しだけ記憶が戻ったんです。」
その言葉にトワは目を見開く。光は何のことかわからず未だに首を傾げているが傘都は事情を知っているのでなんとなく理解できていた。傘都はマシロも初めて会ったときにトワとマシロが話していることが聞こえていたのだ。
「全部じゃないのか?」
少しだけという言葉が引っかかり、確認するように訊く。
「はい、あくまで一部だけです。」
自分でも記憶が少し戻ったことが気になっており、何とも言えない複雑な表情をしていた。
「それで、何の記憶が戻ったんだ?」
トワは真剣な眼差しでマシロを捉える。
「……能力についてです。」
トワ達は紅の口から出ていたことを思い出した。しかしその事がマシロの口から出るとは思っておらず、ほんの僅かに警戒心が生まれる。
「……聞こう。」
一度その気持ちに封をして聞く姿勢を取った。
「そこまで細かくは私も理解してないんですけど……どうやら、異能と能力と呼ばれる二種類のものがあるらしいです。」
傘都は何か引っかかった様子で口を開く。
「二種類あるって言ってもよ、一体何が違うんだ?」
それは当然の疑問だった。
「異能というのは所謂悪魔が、能力というのが人間が使うものなんです。違いというのは中々見分けづらいんですけど……異能が身体能力の一部として、能力というのが身体能力に基づかない独立したもの……と考えたほうが分かりやすいと思います。」
話が難しいゆえにトワと傘都はなんとなく理解していたが光に至っては一切分からない様子だった。トワは光の様子に気がつく。
「……つまり、素手で殴るか銃を使うかみたいなもんだろ?同じ攻撃という手段は変わらないが、その方法が変わるってやつ。」
トワがそう補足する。それでようやく理解したのかあっ、という顔をしてドヤ顔になった。
「なるほど、そういうことねぇ。」
「お前何も理解してなかったくせに、よくそんな俺すごいみたいな空気出せるな?」
傘都は呆れていた。
「えぇ、そういうことです。」
光は一つ思うことがあるのか口を開く。
「じゃあ……俺のこと特殊な力ってのは……能力なのか?」
「えぇ、そうです。光さんからは……なにやら特殊な力の巡りを感じ取れるので多分そうなんだと思います。」
光は更に首を傾げる。
「そんなのって分かるもんなのか?」
「自分でもよく分かんないんです。でも……確かに感じ取れるんですよ。その特殊な力を。」
理解できないことが怖いのか少しだけ手を強く握った。
「あと一つ。能力を扱う上で必要なことがあるんです。」
全員がマシロの言葉を黙って待っている。
「それが……イメージです。理由は分かりませんが、能力を発動するときには心の中でイメージを作るといいらしいです。」
「そこまで分かってて、よく分からないは無理があるんじゃないのか?」
傘都はまた少し警戒心を上げた。
「確かにその通りなんですけど……モヤがかかってるんです。」
よくわからなかったのか頭に疑問符を浮かべている。
「モヤ?」
「はい、確かに細かくはあるんですけど……その情報が本当に正しいのか、それとも間違っているかは断言できないんです。だから、確証がないんですよ。」
悔しそうに目を落とす。
「つまり、マシロの言う事が違う可能性もあるのか。」
トワは冷静にそう考えていた。
「でも、言わないのはそれはそれで違うと思ったんです。だから、頭の片隅に入れといてはくれませんか?」
マシロは目線を地面からトワ達三人へと向け、確かに目を見ていた。
◆
―能力はイメージ……想像力。本当にその通りなら、想像しろ!俺!手のひらに光が集まって……それを一点に射出する、そのイメージを!
光は険しい顔で目をつむる。
「……馬鹿!あいつ何してんだ!」
その様子に気がついた傘都が驚いた顔で光の方に振り向く。当然棒立ちしていれば敵は寄ってくるばかりであり、少数の悪魔達は光の方へと集まっていく。
「トワ!あっちに援護やれるか!」
傘都はその数の悪魔を裁きながらトワをちらっと見る。トワもその視線に気づき、頷いた。
「行ける!」
トワはいまだ黒い目のまま光の方に、悪魔達の元へとナイフを向ける。
―焦るな!焦るな!
光は額に冷や汗を浮かべるが、それでもその手は止めない。すると段々と前よりも早く集まる。そして光は目を開けた。すると目の前には少数の悪魔が迫りつつある。視界の端にはトワもいた。
「あれは……あの時の光?」
トワはどこか引っかかっているようだ。危機感が仕事をしたのか光へと向かう足が遅くなる。
「いっけぇ!!」
光がそう言うと、手のひらに集まっていた光が目の前に向かって真っすぐ突き進んだ。前にいた悪魔達数体の体が光に貫かれる。そこでサキが間に合ったようなのかサキの武器が戦場を駆けた。
「………。」
トワはすぐに攻撃ができるよう構えを取った。しかし、その光に貫かれた悪魔はその場で塵となって消えていった。
「……能力って、悪魔の特攻兵器でもあんのかよ。」
少しばかり目を見開き、驚くトワ。これまで頑張って倒していたのは一体何なのだろうと思考が頭をよぎるが、すぐにそれを頭から消した。
「……本当だったんだ、あれ。」
光がぼけっとしているさなか、トワは光の周りにいる悪魔一体を軽く倒す。
「言いたいことは後で言うから、ひとまずコイツラを倒すぞ!」
トワはそう言って再び悪魔に向かって地を蹴った。
◆
「……終わったか。」
トワは静かにそう漏らす。そして思い出したように光の元へと歩き出した。光も光で何を言われるのか想像できているようで、一度息を吐いた。
「おい光。お前あそこで何してた。」
特に怒鳴るわけでもなく、そう冷静に訊く。
「……前に言われたことをやろうとしてたんだ。マシロって子がしてたことを。」
言い訳せずに正直に話した。
「……別にやろうとすることは構わねぇけど、今ここでやることじゃねぇだろ。次から気をつけてくれ。こっちもこっちで手がまわらなくなる。」
それだけ言うとトワと傘都は追われていた?人達のそばへと足を運ぶ。
「君達が助けてくれたのか。……ありがとう。」
肩で息をしているその男はトワが近づいてくるなり反応を示した。
「いえ、大丈夫です。それよりも、何かあったんですか?」
トワは探るように、だが表面上は心配するようにして問う。
「実は……俺たちは生贄だったんだよ。生贄というか、必要な犠牲というか。」
その男は顔を暗くした。その言葉の意味が分からず疑問符を浮かべるトワ。しかし怒りも確かに感じている。
「……どういうことですか。」
冷静に、感情を表に出さないようにしていた。
「俺たちがいる学校に、悪魔がやってきたんだ。しかもかなりの数の悪魔をな。だから、その数を減らそうとここまで誘導してきたわけだ。」
自嘲気味にそうやって言う男。
「……でもそれって戻るとき。」
トワはそこまで言って気がついた。
「……だから生贄……なのか。」
トワの中で何かが合致するのが聞こえる。
「あぁ、君の考える通りさ。あくまで誘導だけであってその後の脱出までは考えられてない。」
傘都は手を強く握った。
「……そんなの、特攻兵じゃないか。」
歯を強く食いしばる。
「でも、なんでそんなことを伝えてくれたんですか。わざわざ、こんな得体のしれない俺たちに言う義理もないでしょうに。」
「確かにな、確かにその通りだ。だからこそ、これは賭けだったんだよ。君達が悪魔じゃないのか、それとも悪魔なのか……その賭け。まぁ、君達のその質問を聞く限り……俺は賭けに勝ったぽいけどな。」
その男は後もう一つ付け加える。
「あとは……君達が学校を救ってくれるかもしれないっていう、淡い期待さ。」
ふっ、と頬が緩んだ。どうやら愛達も間に合ったようでトワ達の場所まで辿り着いた。
「……何があった、トワ。」
誠也はトワの近くまで寄った。そしてトワは何があったのか、ついさっき話したことを伝える。それは誠也だけでなく愛と回、ユキにも同時に話した。
「……そう、ですか。」
愛は一瞬だけ考え、すぐに答えを出す。
「なら、その学校まで行きましょう。」
しかしトワ達もその答えを予想していたのか、静かに頷く。あとはこのまま放置してはいられないという気持ちもあったのだろう。
かくしてトワ達一行は男達の案内のもと、学校へと向かうのだった。
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