第六十話 現実
「おい、お前ら二人。」
誠也は愛と回に話しかける。二人はその声に反応して振り返った。
「はい、何ですか。」
愛はいつも通りの母性を感じる笑みで答える。愛はなんとなく察しているが、回は分かっていない様子だ。
「悪いが、お前らには車で待機してもらう。」
誠也は愛と回を交互に見た。
「………そう、ですか。分かりました。」
愛は本心を隠して仕舞い、ゆっくりと頷く。回も何か言おうとしたが足手まといだということを瞬時に理解してぎこちなく首を縦に振った。
「勿論、付き添いで二人ほど組員を置いておく。だから、まぁ……危険になったとて死ぬことはまずないから安心しろ。」
それだけ言って誠也はトワ達の方へと歩き出した。
「…………。」
愛は静かに何かを考えていた。
◆
「菅野さん。今すぐ学校に行ったほうがいいかと。」
トワは小走りで近寄ってくる誠也に振り向いた。誠也もある程度のところまで近づくと足を止める。
「何があった。」
誠也は周りを少し見て事情を感じ取ったのか、すぐにトワの方へ顔を向けた。
「それが……」
トワは話し始めた。学校のこと、襲撃のこと、そして身代わりとなってここまで悪魔を引き連れていたこと、その全てを。
「……なるほどな。だからお前は……。」
そこでトワのついさっきの言葉の意味を理解した。
「分かった、お前の言うことが正しい。」
誠也はすぐに納得をしたのか、それ以上は踏み込まなかった。
「傘都、光、サキ、学校に行くぞ!」
トワは少し声を張り上げて指示が通るようにする。それが聞こえたのか、三人はトワの方へ振り向く。誠也も誠也で残りの組員たちへと指示を出す。組員たちは頷いた。
「……わかった。」
傘都は覚悟を決めたように目つきが鋭くなる。
「…………。」
光は手のひらに光を集めたり霧散させたりして能力の感触を確かめていた。しかししっかりと声は聞こえているので、静かに頷いた。
「えぇ、分かりました。」
サキは特に驚く様子もなく自身の武器を軽く見る。
誠也は武器をすぐに短刀、拳銃、その二つに不備がないかを点検した。しかし特にこちらも問題はないようだった。
そうしてトワ達は男達の案内のもと、学校へと走って向かうのだった。
◆
「おい!陣形を崩すな!そこ、もっと前に出ろ!」
一方その頃学校では、悪魔たちと人間による攻防戦が繰り広げられていた。そのうちの小林聖は後ろにいたまま、指示を飛ばしていく。
「聖さん!負傷者がまた増えました!」
聖は耳につけている無線でその声を聞いていた。
「大体何人だ!」
的確に、死なないために指示を飛ばす傍ら、把握するために言った。
「…………六十です!」
「六十だと!……クソ、軽症者から戦場に復帰させろ!」
聖は一瞬だけ倫理観が邪魔をするが、そんなとこ行ってる場合ではないのですぐに結論を出す。
「……了解しました!」
プツンと無線が切れ、聖は目の前のことを考えた。
―なんで……なんでこんなにも数が多いんだ!いつもなら普通に勝ててたのに!なんで……なんで!
内心では物凄く焦っているのか、なんでが多くなる。
―この人数で勝てるか?いや、勝てない……勝てるわけがない。いつも通り二人で一人を倒すとしたら……相手が100もオーバーしている。こんなの……どうすれば。
一瞬だけ諦めが思考をよぎるが、聖は頭を振って頭から振り落とす。
「いや……やめ……いやぁ!!!」
聖が少しだけ思考に浸ったせいか、仲間の叫び声が多くなっていった。
―そうだ!そんなこと考えている時間はない!
聖は再び目つきが鋭くなる。
「総員!後ろに下がって陣形を固めろ!守りに徹するんだ!あとは遊撃隊に任せる!」
すぐさま遊撃隊の方へと無線を繋げると、相手から反応があった。
「こちら遊撃隊!何か用か!」
「正門付近の討伐を頼みたい!」
それだけ聞くと遊撃隊から応答がきた。
「了解した!」
短く返事をすると無線が切れる。遊撃隊を任されている隊員たちは素早い動きで正門まで走った。
「……おい!マモルの奴はどこに行った!」
隊員の一人が一瞬だけ周りを見渡すと、マモルと呼ばれた人だけがいなかった。ほかの隊員も短時間で確認を済ませたが確かにいない。
「隊長、探しますか!」
隊員の一人がそう声をかける。
「いや、いい!俺たちだけで行くぞ!」
しかし隊長はそれに焦ることはなく冷静に判断を下した。それを言うと遊撃隊は悪魔に向かって走り出しす。
「おらぁぁぁ!!」
一人が鉄パイプを大きく振りかぶり力いっぱいに振り下ろした。それが悪魔の後頭部に当たると金属音を響かせて砕かれる。
「よし、前線が復帰している。この調子で………。」
聖は遊撃隊の戦いぶりに僅かに安堵しながら状況を見極めていた。
「……だが、あまりにもジリ貧すぎる。このままいけば負けるのは俺達………どうにかなるか?」
冷や汗が頬を伝って首に流れる。しかしそんなことを来にしている余裕は聖にはなかった。遊撃隊が前線に戻って少し経った。しかし、戦況は未だとして不利なことにはかわりない。
「外部……来るわけがない。来たとしても逆上したあいつらだ。死ぬのは……どっちに転んでも俺達。」
どうあがいても希望のきの字すら見つからない。前線も遊撃隊が来ただけでは時間稼ぎにしかならなかった。もう悪魔側がジリジリと押していっている。
「隊長!もう限界です!数が多すぎますよ!」
一人がそう言葉を漏らす。その声は緊迫感しかなかった。
「……分かっている!だがやらなければ早死にするだけだ!」
歯を食いしばりながらひたすら応戦する隊長。
「やっても死にますよ!」
半ば自暴自棄になっていた。
「数秒伸びるだろうが!」
その言い訳はあまりにも苦しすぎた。
「…数秒で何ができるんですか!」
恐怖で瞳が潤んでいる。もう限界なのだろう。
「死ぬ覚悟だ!」
その言葉を聞いてギリっと歯を食いしばる隊員。一瞬だけ悪魔から思考を外したがすぐにもとに戻す。
「……こんな短時間でできるものですか!」
隊長が隊員に向かってそうさけぶ。隊員の攻撃は感情が表に出ているからか、どこか荒っぽさがあった。
「…………すませるしかない!」
状況は拮抗してきた。いや、若干押されているがそこまで目立っているわけでもない。しかし着実にピンチになりつつあった。
「………クソっ、クソっ!」
苛立ちを吐き捨て一心不乱に攻撃する。それで悪魔は倒れていくが数が多すぎて次から次へとやってきた。次の瞬間、光る何かが飛来してくる。それは一直線に悪魔の頭に深く突き刺さった。
「…………は?」
いきなりの出来事で隊員は唖然としている。
「……間に合った!」
その声はこれまで聞いたことのない声だった。あの学校にいた誰とも違う声、初めて聞く声。
「……なんだ。」
隊長は一瞬で気づき、悪魔の方に包丁を突き刺して抜く。声のした方に視線を移した。他の人も気付いているのか一瞬反応するが、悪魔と対峙しているのでそれどころではなかった。
「……あれは。」
そこには黒髪黒目の少年がおり、すぐ横には同じような子と、輝いた黄色の目をした子もいた。
「傘都、横を頼む!」
黒髪の真ん中の子は傘都と呼ばれる子に指示を出している。
「光!あそこを狙えるか!」
黄色の目をしている子の手には段々と光が溜まっていく。
「……オカルト?マジックか?」
隊長は目を見開いたままその光景を見ていた。いや、目を背けることができなかった。
「トワは?」
傘都はちらりと真ん中の子に視線を託す。
「あそこだ。」
トワは隊長達の方を見ていた。
「………。」
隊長はあっけにとられていたまま動けない。一度隊長は瞬きをした。しかし次開けたときには、トワの目は赤く染まっていた。
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