第五十八話 冒険
「………いやよっわ!?」
トワはナイフを構えていたが一撃で終わってしまい、宝鐸は地面に伏していた。頭にはコブができている。トワが峰打ちをしたからだ。
「……想像以上に早く終わったな。」
傘都は驚きのあまり目をパチクリさせて開いた口がふさがらない。他の愛達も同様、めちゃくちゃ驚愕していた。
「さっきの緊張関係返してほしいんですけど。」
はぁ、とため息をついて手を額に当てるサキ。気が抜けているのかそれともやる気が失せたのかは分からないが宝鐸を追撃しようとする素振りはなかった。
「……う……うぐ。」
気絶から目を覚ました宝鐸はゆっくりと立ち上がって頭のコブを抑える。
「いってぇぇぇ!!」
下瞼に涙を溜めて優しく触っていた。時々擦れたのか痛っ!っという声を上げて顔を歪めている。
「よ……よくもやりやがったな!」
ムキー!という交換音が聞こえそうなほどなにやらプンプンと怒っている。トワ達はさらに困惑した。
「……いや、お前だってめちゃくちゃやる気だっただろ。」
多少の申し訳なさを含ませていた。誠也に至ってはもはや銃を降ろしている。
「そ、それは……その……。」
チラチラと目を泳がせて必死に言い訳を探していた。
「言いかえせないのかよ。」
ジトッとした目で思わずツッコんでしまうトワ。
「お、俺はいいんだよ!俺には正当な理由があるんだからな!」
胸を張って堂々とそう言った宝鐸。しかもドヤ顔で自分のせいだと意地でも認めないらしい。
「例えば?」
その言葉に宝鐸はドヤ顔を凍らせた。
「た、例えばだな!そう、例えば……例えば……。」
宝鐸は今になって必死に考えてる。どうやら正当な理由はないらしい。
「いやめちゃくちゃ言い淀んでんじゃねぇか。」
傘都もいつのまにかトワの隣に並びながらジト目を宝鐸に向けていた。
「いつの間に俺の隣に来たんお前?」
トワはチラッと傘都に視線を移す。
「ついさっき。」
何も迷わず気後れすることもなく堂々とさも当たり前かのように言葉を発した。
「そっかぁ〜。」
ツッコむことに疲れたのか死んだ目で宝鐸を見返した。
「んで……どうすんの?このまままたやり合うの?」
そんなことを問わない言っているがそんな気は市内氏するつもりもない。
「くっ………。」
悔しそうに目をうるうるさせて口を開く。
「お、覚えてろよぉ〜!!」
そう捨て台詞を吐いて急いで足を動かす。足がクルクルとタイヤのように回り砂ぼこりをまき散らしながら宝鐸はトワ達から背を向けた。
「そんなベタな捨て台詞言う人いるんだ。」
回はそこが気になったのか逆に感心していた。
「……いや早!?」
あまりの早さにユキは目をパチクリさせて驚いている。
「……結局何だったんだよあいつは。」
あまりスッキリしていないようでう〜んと頭を悩ませていた。
「まぁ、そんなこと気にしてる暇があるならサッサと拠点探し行こうぜ。」
分からないことは分からないと区切りつけた傘都はトワに向かって言う。
「…ま、そうだな。気にしてても仕方ねぇか。」
一同目を閉じたトワは目を開ける。
「よし行こう。」
トワはゆっくりと歩き出した。
「ねぇトワ君。」
ユキはふと気になった事があったのか口を開く。
「ん?なんだ?」
トワは歩きながら顔だけ少しユキに向けた。
「なんで私を連れてきたの?私トワ君達みたいに戦えないし……強くないよ?」
ユキは不思議そうに、不安そうにトワに尋ねる。目が僅かに泳いでいた。
「まぁ、確かにそうだな。ユキは強くないし俺たちみたいに戦えるわけでもない。」
トワは当然のことかのようにその言葉を口にする。傘都達は何も言わず黙っていた。
「……だよね。うん……そうだよね。知ってた。」
そう言う割には諦めと悲しさが混じっている。
「でも、ユキは人一倍誰かを笑顔にできる。困ってる人がいたら見捨てられないし、いつも笑顔を振りまいて人に安心感をもたらせる。」
「それは、俺たちにはない才能だ。あとは純粋にさ、居てくれたほうが安心するんだ。いつものメンツだってことにさ。」
その声はひどく柔らかかった。
「……!」
ユキは僅かに頰を赤らめ口元を緩める。自然とそうなっていた。
「……そっか。」
ユキは顔を伏せながら歩きだす。そしてトワの隣に立った。
「?どうした。」
トワが不思議そうに見つめている。
「……ありがと。」
満面の笑みではなかった、明るすぎる笑みでもなかった。それはユキという少女が持っていたいつもの柔らかい微笑みだった。
トワは一同僅かに目を見開いた。しかしすぐにつられたのか頬が少し緩んでいた。しかし確かに緩んでいた。
「……またアイツらいちゃつきやがって。見せられるこっちの身にもなれってんだ。」
ケッ、と何かを吐き捨て悪態をついていた傘都。
「うっわぁ………めちゃくちゃ甘いな。あそこだけ異様に甘い。違いで言えば太陽の表面と黒点ぐらい差がある。」
光は傘都とは違い、わ〜おといった様子で見ていた。
「絶妙に分からない例えやめてもらえます?」
サキはいつもの無表情な顔で光に視線を向ける。
「なんで例えがそんなに独特なんだよ。」
あの誠也すら光の言葉にツッコんでいた。
「いや、結構分かりやすいと思うんですけど。」
光はマジな顔で言っているので本当に分かりやすいと思っている。
「お前それマジで言ってんの?その例えが分かりやすいって?」
本当に信じられないといった様子で光にジト目を向けていた。
「いや分かりやすいだろ。なんなら赤ちゃんでも一秒で理解できる。」
「お前のそれを赤ちゃんが一秒で理解できたら馬鹿なんてこの世にいないんだわ。」
もはや呆れほうが感情の割合を取っておりツッコむことしかできない。
「お前なかなか辛辣だね?」
流石に心外といった様子で目を開けていた。
「事実だ。」
迷いなく、躊躇いなく堂々と言う傘都。
「少しは否定しよ?」
傘都な言われて悲しくなったのかほんの僅かに涙目になっている。
「とは言っても否定できる要素がないので仕方ないですね。」
傘都よりサキのほうが辛辣だった。
「ボロクソ言うなお前ら。」
ため息をつきながら歩く足は止めない誠也。
「……あそこにスーパーがある。」
一方トワは先頭を歩きながら周りを見ていた。
「一応中に入ってみる?」
ユキはトワに歩幅を合わせて覗き見る。
「うん、言ってみてもいいかもね。」
愛は大人に見せる敵とは違う温かさを持っていた。トワたち一行はその少しくたびれたスーパーへと足を運んだ。しかし以外にも距離が近いこともありすぐに目の前までたどり着けた。
「ここか。にしても……随分と、こう………ボロいな。」
自分たちが見ているスーパーとはまったく様子が違い、その差に言葉を失う。
「そりゃ、俺たちはすぐに発電所助けれたから問題なかったが……他のところはそうでもねぇだろ。」
誠也はボロくなった看板を見上げる。
「……中に入ってみますか。」
そう言ってトワはゆっくりと扉の前に立つ。そしてナイフを取り出したその瞬間、いきなり自動ドアが開いた。
「……え?電気通ってんの?」
驚きが隠せない。
「……らしいな。」
トワ達はひとまず中へと足を踏み入れる。そこには空調の効いた室内と冷凍保存されている食料が数多くあった。
「多分……こっちでも人が生きていてインフラをしっかり立て直せたのかも。」
そう回は呟きながらスーパーの中を周る。それは自分たちとはなんら変わらない様子だった。満足したのかトワ達はスーパーを出た。
「それで、次は……。」
どこの道に行きます?と訊きかけた次の瞬間。
「おい!ここまで誘導しろ!」
遠くからそんな声が聞こえてきた。
「………?なんか聞こえなかったか?」
傘都は耳を澄ませる。すると続きがさらに耳に入ってくる。
「無茶ですよ!俺たちが死にますよ!」
その声は確かに恐怖に包まれていた。トワ達は互いに顔を見合わせ、走り出す。しかし意外と声から近かったのかすぐに人の姿が見えて来る。
「傘都!光!俺は前のやつをやる!横のやつらはお前らがやれ!任せたぞ!」
トワはすぐに判断を下した。
「了解!」
傘都はナイフを取り出す。
「分かった!」
光は手のひらに光を集めた。サキは後ろから付いてきてるらしく走って向かってきている。トワもナイフを引き抜き一気に距離詰めた。
「……な!?」
誘導しろ、と叫んでいた男は目を見開いて開いた口が塞がらない。トワはそれを気にせず、悪魔にナイフを振り下ろした。
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