第五十七話 俺参上!
「……なぁ、狭いんだが。」
トワたちは車内の後部座席でギチギチに詰め込まれていた。あれからトワたちは九時に学園を出発して泉野市まで車で走っている。トワたちが乗っている車の後ろにはもう一台組員達が乗っている車もついてきていた。
「おい馬鹿そこ踏むんじゃねぇ!」
誰かに踏まれたのかいっ!と顔に痛みを見せる傘都。
「あ、悪い。それ俺だわ。」
まったく悪びれる様子もなく光は淡々と言った。
「お前それ反省してねぇだろ!というか後部座席に四人は多すぎだって!」
前の座席には、運転席に誠也、助手席にはユキがいる。
「なんで私がこんなところに………。」
サキはサキで後部座席に座っていた。しかし四人はすし詰め状態なので普通であればめちゃくちゃキツイ程度に収まるのだが、サキがいるせいでトワ達男子三人組が押しのけられているのだ。
「トワ!おめぇはもっとそっちに詰めろ!」
傘都は自分のスペースを確保するためトワを犠牲にした。
「嫌に決まってんだろ!俺の領地がなくなるわ!」
しかしトワも断固として譲らない。そんな攻防が繰り広げられている後部座席とは裏腹に、さらに後ろ席では愛と忠造回がゆっくりしていた。ゆっくりしているというよりもトワ達の激戦を眺めているという感じだった。
「……あれは大丈夫なのかい?」
回は隣りにいる愛に向かって苦笑いしながら訊く。
「……まぁ、大丈夫じゃない?」
そんな回とは裏腹に愛はいつもの母性を含む声をしていた。回は一瞬だけ目元に翳りを作ったが、すぐに元の表情に戻した。
「というか…なんであなたまでついてきたの。」
その言葉にはほんの僅かに棘が混ざっていた。回は気まずそうに苦笑いを続ける。
「……まぁ、僕だって一応泉野市は故郷なわけだからね。」
「……そんなこと知ってるわよ。……まぁいいけど。」
愛は興味を失ったのか、それとも問い詰めたくないのかは分からないが深く聞くのをやめた。
「おい、うるせぇぞお前ら。」
誠也は運転しながら呆れた声を出している。ユキは回と動揺苦笑いしていたが何処か楽しそうでもあった。
「というか、なぜそんなにも私から距離をとるんですか。」
ジトッとした目でトワ達三人を射抜く。
「……だってお前の近くにいたらなんかしばかれそうなんだもん。」
その言葉にサキは僅かに目を細めた。
「どういうことですか。」
あ、ヤベとトワと光、それに言った張本人である傘都は内心冷や汗をかいていたが引くに引けないのか突き通すことを決める。
「……ね?例えばお前の隣ギチギチに詰めたとして……地面デコボコじゃん?だからそれで揺れてお前の方に寄りかかったら………ね?」
その先は言わなくても分かるだろうと言わんばかりに目を背けていた。
「……まさか、私がそんな程度で手を出すと思っているんですか?」
トワ達三人は目を見開き手を口に当てて驚きを隠せない。
「何なんですかその顔は。腹立ちますね。」
はぁ、とため息をついたサキ。
「……まさか、手を出さないのか?」
傘都はおずおずと確かめるように手を挙げる。
「殴りますけど?」
間髪入れずそう答えた。しかも真顔で。
「やっぱ手出すじゃん!ほらね!?というか今の発言でそれやんのかよ!」
トワと光は知ってた、という顔をしていた。
「逆になんで殴らないか考えてみてほしいですね。」
さも当然かのように、常識を説くようにサキは言っている。
「いやね?車で揺れるのはしょうがないのよ、自然現象なのよ。」
まるで子供に教えるかのように優しく丁寧に誤解なく伝えようとしていた。
「えぇ、そうですね。」
しかしサキはそれを肯定した。トワたち三人は驚いた。
「……え?…………え?」
言葉が見つからないのかひと言しか話せない。
「まぁそれはそれとして殴りますけど。」
二度目の宣言であった。
「いや肯定しといて考え方変えないのかよ。そこは変える流れだろ。」
トワが傘都を訝しげな目で見ている。
―……こいつがツッコむなんて明日は、いや、今日は槍でも降るのか?
そう考えていると顔に出ていたのか傘都に気づかれた。
「……なんかお前今めちゃくちゃ失礼なこと考えなかった?」
野生の勘というやつなのかトワの体は一瞬、ビクッとなった。
「……そんなわけないだろ。」
めちゃくちゃ目を逸らしていた。
「じゃあ何で目逸らすんだよ。」
あまりにも冷静なツッコみだった。
「……………。」
沈黙が車内を支配する。そんなこんなで泉野市の境目のところまで到着した一同。
「おい、そんな馬鹿話してるところ悪いが、もう降りろ。ここからは泉野市だ。」
その言葉が合図となり、騒がしかった車内が静かになる。そうしてトワたちは車の扉を開けて泉野市に降り立った。
「泉野市かぁ………中学の頃練習試合とかで行ったことはあるけどなぁ。」
傘都はバスケ部時代を思い出す。
「な〜に黄昏てんだお前は。」
呆れながらトワはチョップをかました。
「いっつぅ〜〜!お前今俺凄く主人公ぽかっただろ!いいとこだったのによぉ!」
しかし考えていることはひどく馬鹿であった。
「お前の考えてることなんざ丸わかりだ馬鹿。何年お前の親友してると思ってる。」
二人は顔を見合わせた。
「「へへっ……。」」
傘都とトワは笑った。
「そこのアホ二人衆。さっさと行きますよ。」
サキの言葉で二人は我に返り歩き出す。トワたち五人に愛と回の二人、そして組員五人の計十二人の大所帯での出張だった。
「……景色が変わんないな。」
トワはそうこぼす。周りには住宅地が広がるだけで特に何か拠点になりそうなものは何一つなかった。
「ひとまず、学校に行くのが最優先だ。もしかしたら人がいるかもしれないからな。」
誠也とトワが前を、光に傘都が後ろを警戒している。
「…………。」
トワたちの少し前の木の中に誰かが潜んでいた。しかしトワたちはそれに気づいていない。
「…!!」
そしてタイミングを見計らったのか木の上から飛び降りる。着地と同時にグキリという音がなった。トワと誠也はすぐに気がついて武器を取り出した。
「誰だ!」
それまでの温和な雰囲気は完全に消えている。
「……ふふ……ふふふ。」
その木の上から飛び降りてきた謎の人物は不敵に笑っていた。
「………斬りかかる準備はしておけ。」
誠也はトワにしか聞こえない声量で囁く。
「了解です………。」
トワの眼光が鋭くなり、ナイフの刃が光を反射する。それでも謎の人物は余裕を崩さない。
「…まぁ、そんな焦るなよ。俺はただお前らと話をしにき……」
そう言いながら謎の人物は歩き出す。そして、めちゃくちゃ躓いた。しかも何もないところで。
「………………え?」
一瞬何が起こったか分からずトワは呆気に取られている。
「……………。」
その人物は何も言わずのそりと起き上がった。
「………なんだよ、その目は。」
謎の少年はトワを睨む。しかし状況が状況なのであまり威圧感はなかった。
「いや、絶対あの時の飛び降りたやつのせいだよね?だって着地した瞬間グキリって音してたもん。絶対それだよね?」
どんな顔をしていいか分からずトワは困っていた。
「そ、そんなわけないだろ!ほら、この足をよく見てみろ!しっかり立ってるだろうが!」
めちゃくちゃプルプル震えていた。
「………そっかぁ。……っていけないいけない。お前は誰なんだよ。」
やっと状況が見えてきたのか冷静になるトワ。他の傘都達は警戒する気がなくなったのか、それともめんどくさくなったのかな分からないがトワに任せている。
「ふふ……よくぞ聞いてくれた!この俺は!四大悪魔の一人!沃土様の忠実なる部下であり、超強い悪魔である………宝鐸だ!」
ドドン!というような効果音がきこえてきそうなほどあまりにも堂々としていた。
「……沃土?」
その言葉が引っかかったのか警戒を強めた。
「そうだ!かの四大悪魔の一角であるあの、沃土様だぞ!おそれいったか!」
フハハハハ!と笑い声を上げて価値を確信している。しかしトワたちにはよく分からなかったようで首を傾げていた。
「………何だよその顔、まさか……沃土様を知らないのか?紅様を倒したくせに?」
トワの警戒心がマックスになる。
「……なぜ紅の名前を知っている。」
ナイフを構えていつでも戦えるようにしていた。
「ようやくやる気になったか。……紅様を倒したんだ。……少しは楽しませてくれよ?」
宝鐸は不敵に笑って刀を構える。傘都達も何かあった時のために武器を抜いていた。互いの空間には空気だけが通り抜け、緊張が高まる。
そして、木の葉が地面に落ちた瞬間、二人は一気に踏み込んだ。
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