皆と一緒に
「………そうか。」
とある武家屋敷の一室、その男、仲成はゆっくり茶を飲んでいた。その周りには惨殺されたその家の家族達がいることを除けば普通だった。
「紅が、やられたか。」
その目には悲しさと無力感、それと少しの怒りが仲成を支配していた。カチャリと音を立てて湯飲みを置く。
「…………。」
仲成は徐々に目を閉じ、紅に黙祷を捧げた。そんな状況とは裏腹に、空は太陽が明るく照らす雲一つない晴れだった。
◆
「………ん………ぅん?」
保健室のベッドでトワは目覚める。ボヤケていた視界が段々と鮮明さを取り戻していく。視界が晴れると目の前には見知った天井が見えた。
「………保健室、か。」
ゆっくりと体を起こし、周りを見ようとするがカーテンで囲まれているせいで見ることができない。
「……なんかデジャブを感じるな。」
しかし幸いにもあまり怪我をしていないおかげか体が動かせる。
「前にも……紅に心臓貫かれた時と同じ感じがするな。」
トワは近くのカーテンをシャー!という音と共に開けた。そしてそこには前と同じように治が椅子の背もたれに寄りかかり寝ていた。
「……過去に戻ってるとかじゃないよな?」
と、そんな事を言っていると。
「そんなわけないじゃないですか。」
そこにサキがヒョコッと姿を表した。
「っぶねぇ……!ガチ今ビクッたんだけど………!」
ふぅ、と心を落ち着かせてもう一度サキを見る。そこには呆れているような面倒くさそうな表情をしているサキが確かにいた。
「そんな馬鹿なこと言ってないで、さっさとベッドから起きてください。大した怪我もしてないんですから。」
クイッと顎を動かして出るように指示をするサキ。
「いやそうだけどね?そうだよ?事実なんだけど事実で殴ってるくるほうがよっぽど深く刺さるんだわ。今グサって行ったよ?」
のそりと体を動かしてベッドの下にある上履きを履いた。
「そういえば、他のやつは?光とか、菅野さんとか…………傘都とか。」
最後、傘都の名前を言うとき僅かにうつむき、目元に影が差した。
「光も菅野さんも目覚めてますよ。それに……傘都も。」
傘都の時だけ少しだけ頬が緩んだのは気のせいだろう。
「そうか………そうか。」
その声には確かな安堵が宿っていた。目元がほんのわずかに潤んでいる。
「教室にいますから、早く行ったほうがいいですよ。」
そこでトワは一つの違和感に気づく。
「そういえば、あいつ怪我してたよな?肋骨。」
「えぇ、そうですね。折れてました。」
平然とそう答えるサキ。
「……なんでベッドから抜け出してんの?」
呆れ半分怒り半分で感情がぐっちゃぐちゃになっていた。
―まぁ……多分治先生が治したんだろうけどさぁ。
と、寝ている治を見ながら答えを当てているトワ。
「それ貴方が言えることですか?」
はぁ、とサキはため息をついた。
「やめてよ。それ言われたら何も言い返せないんだから。」
気まずそうに目を背ける。
「なら言わなきゃよかったんですよ。馬鹿なんですか?」
「う〜〜ん、中々言葉の刃物がグサグサ刺さるねぇ。もはや殺す気でしょそれ。」
そんなこんなで歩きながらそんな会話をしていると、すぐに教室の目の前に辿り着いた。
「なんか久々な気がすんな。ここに戻ってくるのも。」
扉の近くにある学年と組が書かれている板を見る。
「一日ぶりですけどね。」
訂正するように言った。
「え?そうなの?」
目を丸くしてサキを見る。
「えぇ、そうですけど。」
サキは当たり前のような感じを出していた。
「それ先に言ってよぉ!せっかくカッコつけて昔を懐かしむ主人公みたいな真似してたんだからさぁ!なんかすごく恥ずかしいじゃん!」
「なんかではなく凄く恥ずかしいですよ。今すぐやめてもらいたいくらいには。」
それを真顔で言い放つサキ。
「毒舌凄いね?もしかして俺のこと嫌い?」
「嫌いではないですよ。呆れてて隣にいることが恥ずかしいというだけで。」
「やっぱり嫌いじゃない?」
「違いますよ。」
「本当に?」
「本当です。」
「………マジ?」
それに額に青筋を浮かべたサキ。
「そんな事してないでさっさと中に入ってください。」
扉を開けてトワの背中を思いっきり蹴る。トワは蹴られて少し宙を舞い顔から着地することになった。
「………なにもそんな蹴ることなくない?」
顔が床に激突したせいで赤くなっていた。
「しつこい貴方が悪いです。」
「なにも言い返せないんだけど。」
トワはムクリと体を起こして立ち上がる。
「言い返さなくて結構です。」
僅かに怒気を含んでいるのか目が細まっている。
「………何してんのお前。」
すると後ろから聞き覚えのある声がトワの背中に当たった。
「………傘都。」
その声がした方へと振り返る。そこには困惑が大半を占めている表情の傘都が立っていた。
「…………無事、なんだよな?」
おずおずと目を合わせる。
「え?いきなりなんだよ………。」
あまりの緩急についていけてない様子の傘都。
「だってお前、肋骨折れてたって………。それと、あの時変な男に何か植え付けられてたじゃねぇか。」
そこでなんのことか傘都は思い出したのかあ〜という顔をした。
「……何その顔。」
トワは違和感に気づく。
「あ、いや〜………ね?」
「………お前忘れてた?」
ジトッとした目で傘都を見た。
「ま、まさか………そんなわけないじゃないですかやだ〜……。」
やけに汗をダラダラとかきながら身ぶり手ぶりを使って否定している。トワはさらに怪しんだ。
「……………俺こいつのために心配してたのか?」
トワの顔には疲労の色が強く出ていた。
「せめてその感情を隠してください。」
「……というか、傘都。あの時お前の体になんか入れられたけど………大丈夫なのかよ。」
トワは思い出したのか、心配そうな目をトワに向ける。
「それなんだがな………なんともないんだ。」
「………………は?え?何もないってどういう。」
「そのまんま。俺が目覚めたあと、なんか体に異変がないか調べたんだが………マジでなんもねぇ。前と変わらず健康体だ。」
傘都も傘都で不完全燃焼なのか僅かに苛立ちを含んでいた。
「だから………あの男が何をしたかったのかも分からねぇ。」
「何かしら植え付けられているなら違和感を感じてもおかしくないですよね?それすらもないんですか?」
サキは顎に手を当てて考える。
「あぁ。」
短く、でも確かに確信を持って頷いた。
「……だから、あんまり考えても分からねぇと思う。医者もここにはいないし、その設備もない。」
傘都は諦めたように言った。
「なにも諦めることなんて………。」
と、トワが反論しかける。
「傘都の言うとおりですよ、トワ。もしかしたら時間経過で分かるものかもしれません。今は気にしても仕方ないかと。」
冷静にそう返していたサキだが、僅かに言葉のトーンが下がっていた。
「……なら質問を変えるけどよ、体の方は大丈夫なのか。」
ピシッと傘都に指をさす。
「大丈夫大丈夫。ほら、こうしてみても………まったく痛みがこない。」
傘都は体を捻って見せつけた。
「おい……あまり身体に負担をかけるんじゃねぇよ。」
「それお前が言えたことか?」
二度目のその言葉に深々と刺さる。
「あのね?サキにも言ったけどそれ俺何も言い返せんのよ。正論で殴ってくるのやめてください。」
「自分を見れない馬鹿が何か言ってらぁ。」
フッと煽るような目つきをしていた。
「ねぇ、コイツぶん殴っていいかな?いいよね?よし分かった。」
「カスの三段活用やめてください。」
しかし、それをサキが羽交い締めにして抑えていた。トワは足をジタバタさせて拘束を抜けようとしているがサキの力が強いのか抜け出せないでいる。
「よせ、俺を止めるなサキ。俺は今すごく自分を抑えられな…って力強いな!?待って!?普通に抜け出せないんだけど!お前のその体のどこにそんなに力があるんだよ!?」
トワは驚きのあまり目を丸くしていた。
「うるさいですね。少し静かになってください。」
サキは羽交い締めのままさらにきつく締め上げ、そのままボキッという音と共にトワは気絶した。
「………今絶対折れた音したよね?してたよね?」
「…………さぁ。」
サキはトワをそのまま離し目を背けた。
「なんで目を背けてるの?ねぇ?サキ?」
傘都は急いでトワの元へと近寄り体をかかえた。
「そんな………トワが………トワぁぁ!!!」
傘都は涙を流し強く抱きしめた。
「勝手に殺すな。」
するとトワの不機嫌そうな声が聞こえてきた。
「……なんだよ、生きてんのかよつまんねぇ。」
ケッとつまらなさそうにトワを離す。何故か涙も引っ込んでいた。
「お前切り替え早すぎじゃね?」
その瞳には純粋な驚きがあった。
「役者もびっくりの変わりようですね。」
サキは先ほどから呆れしか口にしていない。
するとそこにその声で駆けつけたのか、数人の足音が近づいてくる。
「何があったんだよ…………って……何これ。」
その足音の正体は光だった。光だけでなくユキと太郎も扉からヒョコッと顔を覗かせている。
「……なるほど、いつも通りだね。」
ユキは何かを察したのかそれだけ言ってトワの方へ近づいた。
「まぁ、この二人が馬鹿をしていただけですよ。」
サキはとてつもなく簡潔にそのことを伝える。しかし光も光でトワ達の馬鹿を前にも見たことがあるのであ〜、と納得した。前にも見たというよりも自分も巻き込まれていたが。
「……そう……なの?」
太郎だけは状況を理解できていないのか頭に疑問符を浮かべていた。
不安もわずかな恐怖も残るが、それでもここは確かに平和だった。
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