第五十四話 反撃の狼煙
「光………なんですよね?なんなんですか、その目は………。」
サキが唖然とした表情でヒカルを見る。目を見開いていて信じられない様子だ。
「なんなんだありゃ…………。」
誠也も手を止めてヒカルのその姿を見ていた。
「……………。」
紅は光を見据えていた。
―なるほど、あの子も能力者。となると………既に手の内のわかっているあの子よりは、この子の方に警戒を移したほうがいい。
トワを一瞬見たあとすぐに光に目線を戻した。そう結論づけた瞬間、紅は植物を光に向かわせる。
「…!!」
光の金色の目が植物を捕らえた。そして手を前に出す。すると目の前に光の壁が作られ攻撃を防いだ。
「ちっ……防がれたか。」
目をわずかに細める。
―なんだこれ。使い方が……自然とわかる。初めて使う力なのにある程度なら。
光は内心驚きながらもそれを顔には出さなかった。
しかし防いだ程度では植物の攻撃は止まない。更に早く鋭利にさせて光に向かって放つ。
「くっ……!」
再び光の壁を展開した。しかしすぐにヒビが入りガラスのように砕け散った。それでも勢いが止まない。
「光!」
トワは思いっきり地を蹴り、その攻撃を弾く。
「トワ……!」
光は地面を蹴って後ろに下がった。
―面倒くさい。邪魔が入った。
紅は一度植物を引かせ観察する。引いたのを確認したトワは光の元まですぐに移動した。
「おい光、その力はなんなんだ。」
小声で紅に聞こえないように訊いた。
「分からない。でも………少なくとも打開策にはなる。」
その言葉に目を細める。
「本当か。」
トワはまだ信じきれていないようだ。
「あぁ、多分だけどね。」
それに一度黙り、紅を見た。
「…………信じるぞ。んで、打開策って言うからには何か考えでもあんのか。」
紅はトワたちの出方を伺っている。
「ある。だけど二人だけで話しても意味はない。」
「それもそうだな。」
トワは小さく頷き、傘都に全員こっちに連れてこい、と目配せした。その意図を理解したのか傘都が顎を動かしてサキと誠也に伝えた。
「…………。」
二人は頷くと紅を見ながらヒカルとトワの元へ走る。
「何があったんだ光。お前のそれは………。」
誠也が口を開くが光がそれを止めた。
「誠也さん、今はそんなことを考えてる場合じゃないです。今から作戦を言うので、しっかり聞いていてください。」
誠也は言葉が喉から出かけたが飲み込んだ。そしてヒカルが言葉を紡ぐ。
「○○○○○○○○○○○○。」
その作戦を聞き終えた四人は驚きを隠せなかった。
「……正気か?光。」
トワの喉が鳴った。
「お前……それ。」
傘都は何かを言おうとしたがあまりの驚きに言葉にならなかった。
「……死にたいのですか。」
サキが真剣な眼差しを光に向ける。
「あぁ、正気だし、生きるつもりだ。でも……方法はこれしか思いつかなかった。」
「……だあもう!言いてぇことは色々あるが………死んだら承知しねぇぞ、光。」
誠也は頭を掻いて紅に目線を移した。
「勿論、死ぬつもりなんて毛頭ありませんよ。」
その言葉に三人は不満を飲み込み紅を見た。紅はまだトワたちを注視していた。
―あの子たち何か企んでる?
紅のトワたちの警戒度が上がる。
「話し合いは終わった?」
冷たい目でトワに問いかけた。
「あぁ、今丁度な。」
できるだけ感情を表に出さないように細心の注意を払う。
「……そう。まぁ、それも徒労に終わるけど。」
「……そうか?もしかしたらって場合もあるだろ。」
不敵な笑みを浮かべる。しかしトワとてそれはハッタリだった。
「タラレバの話をしても意味ないことくらい分かるでしょ。確かにその子は能力に目覚めた。でも所詮は目覚めたて。」
「それがなんだよ。」
光が口を挟む。
「生まれたばかりの赤子が歩けないように、目覚めただけじゃ能力は満足に扱えない。違う?」
紅は光の目を見据えた。
「さぁ、それを言う義理も理由もない。」
冷たく突き離す。
「そう。ならいい。どっちみち……殺すだけだから。」
紅は今度は容赦なく植物を放った。
「総員、目を瞑れ!」
その声ともに四人は目をつ瞑る。そして光は掌に光を集め全方位に放った。
「くっ………目眩ましか。でも意味ないよ、この植物は相手の能力を感知する。」
植物はその光を無視して光の元へと伸びる。トワはその言葉を確かに聞いていた。
「なっ……!」
光はすぐさま光の壁を三枚重ねた。
「そんな紙装甲で何ができるの。」
一枚目はいとも容易く砕かれ、二枚目に亀裂が入る。
「させるかよ!」
傘都が痛む体を酷使して植物を妨害した。反対にはサキも居た。
「私たちも忘れないでほしいですね。」
サキも光に迫る植物を弾く。
「邪魔………。」
僅かに顔を歪ませる紅。
「そりゃお前の敵だからな!」
紅は更に顔をしかめる。
「てめぇら!植物を近づけさせるな!」
その言葉に反応したのかトワもその身体能力と力をフルに使って植物を斬った。
―やっぱり、あの子が私を倒す打開策になる子。なら………狙うはその子。
紅は二本だけトワたちに向かわせ、その他の全ての植物を光に向けた。
「くっ………!!」
トワがとてつもない速度で光に迫る植物を斬って斬って斬りまくる。しかし斬られた植物は新しい植物へと取り替わった。
トワの赤い目が赤色を置き去りにして動く。その合間を傘都とサキが縫うようにして動き、ひたすら捌いた。
「クソ……!キリがねぇ!」
誠也は光の前に立ち紅を観察する。
―馬鹿!そんな速さで動かれたらこっちだって援護ができないだろ!
光の目には焦りが宿っていた。冷や汗が一筋頬を伝う。
しかし傘都に迫りくる植物が確かに1本存在した。
「傘都!」
光は咄嗟に光の壁を傘都と植物の間に作る。
「そんなことしていいの、それしたら……君が守れないじゃん。」
紅は冷静に光を見据えた。
「がはっ……!!」
光は1本の植物によって横に吹き飛ばされた。二回床にバウンドして痛みを無視して立ち上がる。
「はぁ………はぁ………はぁ。」
下唇から血が一筋流れた。
―クソ……背骨が痛ぇ。幸い少し避けれたから良かったが、僅かでも遅かったら間違いなく骨が砕けてた。
痛みによって肩で息をする光。
「なんだ、その程度か。」
紅の声には落胆と失望が浮かんでいた。
「光!無事か!」
トワはすぐさま光のもとに駆け寄った。
「トワ………あれをやる。」
しかし光の声色に諦めの色はなかった。まだその意思は確かにあった。
「……分かった。」
一度頷き顔を上げた。
「総員!光を守れ!」
全員に聞こえるように声を張り上げる。
「「「了解(した。)(です。)(だ。)!」」」
三人の声が同時に重なった。傘都、サキ、誠也が光の前に立つ。
―何か仕掛けてくる。早く殺さないと。
紅は素早く最適解を導き出し全ての植物を光に向かって最大速度で迫らせる。
「させるか!」
トワが二本、植物を斬った。
「させるかよ!」
傘都が一本植物を弾く。
「させると思います?」
サキが一本植物を受け止める。
「させっかよ!」
誠也が一本受け流した。
「光!あと何秒だ!」
振り返らずに捌く手を止めないで光に訊く。
「一分だ!一分持ちこたえてくれ!」
「一分だって!?そんなにか!」
トワは驚きを隠せなかった。
「頼む!」
光は目を瞑って手を握り、光を練り上げる。黄色の光が光を纏うようにして手に集まった。
―なにあれ。力を溜めてる?もしかして溜めてから一気に解き放つ。もしくは……一点を狙う?……まずい!光を司る能力者なら植物を操る私にとって相性は最悪だ!絶対に止める!
紅の顔に焦りが見え始めた。
「死ぬ気で守れ!死んでも守れ!」
トワがさらに声を張り上げる。それには覚悟が滲んでいた。
「くぅ……!!」
傘都はひたすら歯を食いしばって痛みに耐える。
「あと四十秒!」
光の顔にシワが寄る。
―まだあと四十秒も残ってんのかよ!
トワは体力のすべてを出し切るようにさらに激しくなる植物を斬りまくる。傘都達三人も体力の限界が確かに近づいていた。
「あと二十秒!」
光はさらに光を集める速度を速めた。
「もう耐えられねぇぞ!」
肩で息をするにしてももう吸えないほど体力が削れていた。
―まずい、まずいまずい!早く止めなければ!早く!
ついに紅は焦りを隠さなくなった。
「あと十秒!持ちこたえてくれ!」
―体が満足に動かせない!
サキは自分の動かぬ身体に鞭を打って無理やり動かす。
「あと五秒!」
手に集まっている光が強く輝く。
「はぁぁぁぁ!!!」
誠也は短刀の刃毀れを気にせず弾いた。
―全てを出し尽くす!!
植物が更に増え攻防は激しくなる。
「あと四!三!二!………。」
数えている間にトワが隙を作ってしまい植物が迫る。
「……!!」
それを咄嗟に避けた光。だが、その顔に焦りや恐怖はなく、ニヤリとした笑みだけがあった。
「あ……………。」
しかし避けてしまったことで技が中断された。しかし紅はそこで違和感に気づく。
―勝った!………待て、あの子はどこに行った。あの、赤目の子は何処に。
紅はそこまで考えて背中に風を感じた。
―まさか………後ろ!
紅は反射で後ろを振り返った。そこにはナイフを下から振り上げようとする永久がいた。攻撃しようと植物を増やそうとした。しかし、そこは既にトワの間合いだった。
―赤目じゃ……なくなってる。ってことは……能力を切った?この場面で?そうか……あの光の子は囮。本体は、こっち!
紅の目には純粋な驚愕だけがあった。
「はぁぁぁぁぁ!!!」
トワは雄たけびを上げながら力いっぱいに下から斜めに斬り上げる。
ナイフの刃が紅の体に入り、肉を裂く。
「なっ………!!」
斬られたところから血が溢れ出した。そこで紅は一つの事実に気がついた。
「あぁ、だからか。だから…………。」
紅は一度歯を食いしばる。
「君も…………同じくせに。」
紅はその言葉を最後に、目を閉じながら背中から倒れた。
◆
「あ、それはそこに置いといて。」
保健室で治はマシロに指示をしていた。
「はい。分かりました。」
少し大きな荷物をテーブルの上に置く。
「すいません、これはどこに。」
マシロは消毒液を持ち上げた。
「ん?消毒液ならあそこの棚に。」
治は近くの棚を指さした。
「はい、ありがとうございま……………。」
次の瞬間、ズキンと頭が痛んだ。
「い………痛い!」
膝を床につけ両手で頭を掴む。
「大丈夫かい!」
治は自身の作業を引っ張り出してマシロの前で膝をついた。
「なに…………これ!」
頭を抱えてうずくまる。
―変なのが……頭に流れ込んでくる!痛い……痛い痛い!
あまりの痛みにマシロの顔は歪む。
「しっかりしろ!しっかりしろマシロ!」
―一体これは何がどうなってるんだい!
保健教諭として理由を考えるが何も思い浮かばない。
「の………う、りょく。い………のう?」
そう呟きながら意識が遠くなるマシロ。
「しっかりしてくれ!しっかりしてくれ!」
体を揺さぶって確認しようとする治。
―駄目……だ。意識…………が……………。
そこでマシロの意識はプツンと途切れた。
できれば評価の方してもらえると嬉しいです!あと次回で植物少女編完結です。




