第五十五話 世界は廻る
「………………終わった、のか?」
その光景を見ていた傘都はそう声を漏らす。
「……終わったぽいな。」
光が便乗するように言った。
「えぇ、終わりましたね。」
はぁはぁと肩で息をしているがサキ。
「お………終わったぁ…………。」
ふにゃふにゃとヒカルは地面に倒れる。
「本当に………死ぬかと思ったよぉ。」
ひどく疲れた様子で地面を眺める光。
「……つうか、マジであんな無茶な作戦が通るのかよ。」
誠也は本当に意外といった様子の声が隠せない。そこで傘都が思い出したように肋の痛みがズキンとやってくる。
「がっ…………め、滅茶苦茶いてぇ!!」
地面にうずくまって全く動けないようだ。
「大丈夫ですか?」
サキは傘都の近くで膝をついた。
「おま……コレが大丈夫そうに見えのかよ……?」
ゆっくりと冷や汗ダラダラの顔を上げる。
「えぇ、まぁそれなりに。」
傘都のその様子に対してサキはなぜか落ち着いていた。
「これが大丈夫そうに見えるならお前は今すぐ眼科行け!」
声を出したことで少しばかり痛みが強くなる。
「失礼ですね。これでも心配してるんですよ?」
そう言う割には平然としている。
「おかしいな、俺には全くそう見えないんだが?興味ないねみたいな面しか見えないんだが?」
ゆっくりとサキを見上げた。
「何を言うんですか。ほらこの通り。」
手を広げてこの通りと見せているが全くそのようには見えない。
「お前それわざとやってる?俺のこと煽ってる?煽ってるよね?煽ってるな?」
覇気のない目でサキを睨む。
「さぁ、何のことやら。」
そう二人で話しているとトワが四人に近寄る。
「お前らこんな状況で何してんだよ。」
トワは呆れた口調で二人を交互に確認した。サキはまさに自分関係ありませんと言わんばかりに目を背けている。
「……白々しいな。」
「だから何のことですか。」
それでもまだしらを切ろうとした。
「いや無理だって。流石によ?流石に分かるわこんなもんお前。もう誤魔化せないんだわ。」
その言葉を聞いてサキがそっと小さく舌打ちをした。
「今滅茶苦茶舌打ちしてたよね?してたよな?」
光は置いてけぼりだった。
「あとなにそのちっ、反省してま〜すっていうその顔と態度。怒られたけど素直に認められない中学生か。」
「つまんないですね。」
ふっと鼻で笑った。
「黙れ。」
「漫才やるのは構わねぇけど………流石に光のことも心配してやれ。あそこで体育座りして拗ねてんぞ。」
誠也は三人に光の方を指さした。
「すごいすみっコぐらし感。」
トワはそう溢した。
「いや真っ先に思いつくのがそれかよ。すみっコ要素どこいった。すみっコでもないし暮らしてすらねぇだろそれ。」
うずくまったまま目線だけを光に変えた傘都。
「訴えられますよ。」
サキが冷静にツッコむ。
「おい光、大丈夫か。」
トワは近づいて声をかける。
「いやいいんだ俺はどうせ日陰者だしお前らみたいな陽の者とは違うし俺なんて皆から忘れられる哀れで惨めな存在で…………」
滅茶苦茶ぶつくさ言っていた。
「………どうしよこれ。」
三人の方に振り向くトワ。
「いや知らねぇよ。」
誠也が呆れたように答えた。
「トワのせいでは?」
サキは滅茶苦茶責任転嫁しながらトワに投げつける。
「サキてめぇマジで覚えとけよ。」
しかしそんなことを気にしている余裕はなかった。
「あ、あ〜〜……光?聞こえてるか?」
念のためもう一度声をかけた。するとゆっくりトワの方に顔を向ける。
「あ、トワか。お前も俺を笑いに来たのかそりゃそうだよな俺なんて価値のない人間で皆から必要とされてない哀れな存在…………」
未だに止まらなかった。
「違うから!光は滅茶苦茶活躍してるって!それにな?今回の作戦だってお前がいなくちゃ勝てなかったんだから………ね?お前は凄いんだ!」
そう背中を優しくトントンと叩きながら慰める。
「うん、知ってた。だよね、俺ってやっぱ凄いよな。」
「いや立ち直り早!?一秒なかったぞ今!」
さすがに驚きを隠せない。
「本当にそれでいいんですか………?」
サキすら困惑していた。
「いやつうかこんなことしてていいのかよ?」
傘都のその言葉で四人が黙る。
「…………良くないわ。つうか早く帰らないと。」
トワがハッと思い出して出口に向かおうと足を扉に向けた。
「いや待って?なにそのまま帰ろうとしてんの?」
傘都は引き止めた。
「……………?」
何が駄目なのか分かっていない様子だ。
「お前なにそのえ?何処かおかしいとこあった?みたいな顔。おかしいところしかないわ。」
「いや……ちょっと何が言いたいか分かんないんだけど。」
首をわずかにかしげる。
「お前お目目ついてる?この状態で動けるわけねぇだろ。重傷やぞこちとら!」
声を張り上げたせいでさらに痛んだのかダンゴムシのごとく丸まった。
「あ、そういえばそうだったわ。すまんすまん。」
テヘ、と舌を出す。
「てめぇぶち○すぞ!」
「まぁまぁ、そうカッカすんなよ。ほら、おんぶしてやる。」
トワは傘都に背中を向け、膝をついた。
「後でシバいたるからなお前………。」
ぶつくさ言いながらもゆっくりとトワの背中に乗る。乗り終わったのを確認したトワは立ち上がった。
「んじゃ、帰るか。」
誠也がトワ、傘都、ヒカル、サキの順番で見渡し、足を扉の方へと動かす。
「まぁ、少し待てよ。」
そう声が響き渡る。
「ん?なんだよトワ。何を待つって……………。」
誠也は不思議そうにトワに視線を移した。
「………菅野さん。トワ……何も言ってませんよ?」
光は目を見開く。
「………は?」
素っ頓狂な声が場を支配した。そして瞬きした瞬間、顔を黒いフードで顔を隠した男がトワたちの眼の前に現れる。
「「「「「!!!」」」」」
瞬時に全員が距離を取り武器を取り出す。
―は?は?どういうことだ。………まったく感じ取れなかった。何の気配も感じなかった。
トワは驚いた表情で固まり、冷や汗が額を流れる。ゴクリと喉が鳴った。
「まぁまぁ、落ち着こうぜ………お前ら。」
一方フードの男宥めるように余裕綽々といった様子だった。
「お前は………誰だ。」
トワの頭が警戒を最大限発していた。それは感情ではなく本能として。
「そんなことどうでもいいだろ。………俺のことなんて。」
自嘲するように口を動かした。
「何が目的だ。」
トワ以外の四人はひと言も発せないでいた。
「そうだな、俺の目的はただ一つ。…………木更津傘都に手を施す。」
それを聞いたトワは瞬時に傘都を下ろし最大限地を蹴った。
「……!!」
誠也は迷わず銃を取り出した。しかし、発砲する前に誠也の意識はなくなっていた。
「お前ぇ!!!」
感情が高まりトワの目が赤く染まる。
「……へぇ、そこまでは行けたのか。」
男はボソッと呟いた。トワが大ぶりにナイフを振るう。
「素人だな。」
フードの男は腰からナイフを引き抜き、トワのナイフを弾く。
―同じナイフ……?
弾かれたトワのナイフが床に突き刺さる。
「がっ……!!」
男は目にも止まらぬ速度でトワの腹横を蹴る。馬券!という音と共にトワは壁に激突した。
「トワ!」
顔を上げてトワの方に目線を向ける傘都。
「余所見していていいのか?」
その声はすでに傘都の後ろにあった。
「!!!!」
急いで後ろを振り返る。が、しかし。襟を掴んで持ち上げられた。
「……離せ!!」
そこでようやく事態を把握した光が人差し指を向けて光弾を放つ。
「離して……ください!」
サキも武器を手に取って男めがけて投げた。しかし、それはいとも容易く防がれ、男はサキの首に手刀を落とす。
男はその光弾を見もせずにナイフを逆手持ちにして斬った。
「……は?斬った?」
驚きのあまり開いた口がふさがらない。男は傘都に何かしらの力を使い、拘束して動けなくさせた。そのまま男は光めがけて回し蹴りをした。それによって吹き飛ばされる。しかし間一髪で光の壁を1枚作っていたから動けないが、多少なりとも衝撃を吸収できてはいた。
「………は……なせ!」
傘都は男をにらみつける。しかし男はそれをもろともしていない。なんなら笑みを浮かべてすらいた。
「紅を倒したお前らが………こんなものとはな。」
再び傘都を持ち上げる。
「それじゃ………やらせてもらおうか。」
男はナイフを仕舞い、持ち上げていないもう一つの手に力を貯める。手に纏われたその力は幾何学模様と謎の粒子、量子が組み合わさったような見た目をしていた。
「………や……やめ…ろ!」
トワは痛みから立ち上がれず男を睨みつける。
「やめてほしいなら立ち上がってみろ。ま、その様子じゃあ無理か。」
男はトワを無視して後ろに振りかぶる。
「やめ…………やめろぉぉぉ!!!」
トワは渾身の力を振り絞って走り出す。男は振り被ったまま思いっきり傘都の胸に押しつけた。その力は傘都を包むようにして吸収されていった。
「遅いな。」
男はトワの腹を殴って気絶させる。
「あ……………が…。」
傘都はゆっくりと目を閉じた。
「………気絶したか。」
男は傘都を持ち上げていたその手をパッと離した。
―なんなんですか………あれは。
サキはあまりの恐怖と緊張によって動けずにいる。サキもトワ同様生物としての格差を本能で理解していた。
「じゃあなお前ら。次合うときは………少しは期待してるぜ?」
そう言いながら掌でゲートをつくり、入った。
「………!」
光は四つん這いになって、歯を食いしばっていた。
◆
「佐藤准尉。突破できませんでした。」
これはとある県境、そこには自衛隊の仮拠点があった。
「そうか。……報告感謝する下境二士。航空自衛隊のほうは?」
資料に目を通しながらちらりと下境隼人の方を見た。
「そちらの方も同様、進展なしとのことです。」
それを聞いて顔をわずかに歪める三宮。
「そうか………。やはりあの透明な壁は突破できんか。」
「どれだけの科学者を集めても……中には入れずじまい。……何かヒントがあればいいんだがな。」
「……下境二士、下がっていいぞ。」
その言葉に背筋を整える。
「はっ、失礼しました。」
隼人は一定の間隔で足音を刻み、そのテントを出た。
「よ、隼人。また報告か?」
そう隼人に声をかけたのは同期で同じ二士の山本蒼汰。
「あぁ、その通りだ。」
その言葉に顔色を暗くした蒼汰。
「……この一ヶ月以上、どれだけ壁に穴を開けようとしても……全部無傷で進展なし、か。しかも他の拠点でも突破できてないんだ。本当にどうなってんのやら。」
呟くようにそう言った。蒼汰は帽子を影になるように前に倒す。
「一体、いつになったら終わるんだろうなぁ。この任務。」
蒼汰は壁の方に向く。
「あぁ………本当にな。」
隼人も帽子を深くかぶり透明な壁がある方に視線を移した。
これにて植物少女編が完結、ということで一章が終わりました!評価の方してもらえると幸いです!




