第五十二話 格差
「散らばれ!!」
誠也は声を大きくして迫りくる植物から距離をとる。
その声を聞いてトワ達四人も各々弾いたりして避ける。
「ぐっ………!!」
トワはそれを受け止め弾こうと植物に刃を当てた瞬間、後方に吹き飛ぶ。
しかし幸い壁に激突する前に転がることで威力を相殺し、すぐさま目線を植物に向けた。
「……!」
その植物はトワの眼前にまで迫っており、思いっきり体を横に弾くように動かす。
「総員!絶対に固まるな!餌食になる!」
誠也は右手に短刀、左手に銃を構える。少女に狙いを定めて引き金を引いた。パンっ!という音が鼓膜を振動し、弾が回転しながら少女へと迫る。
「本当に学習能力がないんだね。」
冷たくも呆れている目で誠也を見つめる。その弾は少女に届く前に植物によって防がれた。
―やっぱりか……。
内心舌打ちしながら、植物に捕まらないよう動きを止めない。何やらサキと傘都が外回りをしている。
「………今だ!」
傘都がそう言うと、サキと挟み込むようにして発砲した。
「…………。」
それも植物に阻まれる。少女は見向きすらしていない。
「なっ!」
傘都は顔をこわばらせる。
―見てすらいねぇのに防げんのかよ!
額に一筋の冷や汗が流れた。
―これはあまりにも……差がありすぎですよ。
サキは歯を食いしばる。だがゆっくりしている時間はなかった。今度は弾を防いだ植物がとんでもない速度で二人に襲いかかる。
「ヒカルは何して………。」
一瞬だけ視線を外し、目を向ける。そこには何度も弾こうとして後方に吹き飛ぶを繰り返しているヒカルの姿があった。
「こんな状況で目をそらすなんて、君は馬鹿なの?」
その声が聞こえた瞬間、急いで視線を戻す。しかし、遅かった。ゴギャッ、という人体からなってはいけない音を鳴らしながら靭やかに横へ吹き飛ぶ。
「がっっっ!!!!」
あまりの勢いに弱めることができず、右肩が埋もれるようにして壁に激突した。痛みと衝撃によって息ができなくなる。
「かひゅ………。」
必死に吸おうと口を動かすが金魚みたく口をパクパクすることしかできなかった。
「傘都!!!」
トワはその轟音に反射して傘都が目にはいる。そのせいで力が僅かに緩んでしまい弾けなくなり、頬に一筋の血が流れた。
―い………痛い!痛い痛い痛い!
打たれた場所が肋骨に近い場所のせいで、下にある肋が砕ける。しかもそれが内臓に刺さり痛みで動けない。
しかしそんな悠長にしている時間はなかった。冷や汗をかきながらも目を動かすと迫りくる植物が目に入った。
「…!!!」
痛みで軋む体を無理やり動かしそれを避ける。
「ふぅん………避けれるんだ、それ。」
僅かに関心を寄せながらも攻撃の手を緩めない。
―ま、このままなら数分経たずして終わるかな。
少女はひどく冷静に考えていた。
「よそ見すんじゃねぇ!死ぬぞ!」
短刀と銃を駆使して植物を避けたり弾いたりしている。
―にしてもこいつ、斬れねぇ……硬すぎだろ!
誠也は短刀で受け止め、拮抗状態に入った。
―あのままでは傘都が……。
サキは逃げている傘都を援護するように植物に対して何発も発砲する。
「させると思う?」
ちらっと横目で少女はサキを確認した。飛んでくる弾を少女は植物を操りはたき落とす。
「………そんなんありなんですか。」
サキの表情がさらに険しくなる。これだけ五人が藻掻いても、少女にはまだ何一つとして傷をつけられていない。その事実が五人に刺さる。
「………!………!」
トワはふつふつと怒りが湧いてくる。傘都に怪我を負わせた紅に。ギリギリと歯軋りをした。
「………ん?」
未だに植物でサキと傘都を追わせている紅は違和感に気づく。
「なんだこれ。なんか………嫌な感じ?」
心の赴くまま、その嫌な予感を感じる方へと目線を向けた。その先にはトワが写っていた。何やら下を向いて、攻撃をはじきながらボソボソと何かを言っている。
「…………。」
紅は自身の勘に従い、構える。
「………殺す。」
トワはバッと顔を上げた。額には青筋が立っており、目を見開いていた。つい先程の真っ黒の瞳から真っ赤な目へと色が変わった。
「………!」
紅はすかさず植物にふたりを追わせるのをやめ、片方は自身を守る為の盾、もう片方は攻撃へと転じた。
「………なぜ。」
サキは植物が追ってこなくなったことに疑問と不安を覚えた。それを把握するため、全体を見渡せるよう紅とは距離を取る。
「…………は?」
痛む肋を無視して走り続けていた傘都は足を止めた。肩で息をしており、心拍数が落ち着かない。
植物がトワへと迫りきた瞬間、トワは力任せにナイフを振る。植物は音を立てて地面に落ちた。斬られた断面は粗く、斬るというよりも叩き斬るという感じだった。
「嘘。」
流石の紅も予想外だったのか僅かに目を丸くした。トワは深く腰を前に落として思いっきり地を蹴る。轟音が鳴り、床が抉れた。
「何ですか、この音は!」
サキは珍しく声を荒げ、トワの方へと振り返る。
「…………。」
守りの植物を分厚くして防御力を上げる。トワは無言で迫り来る。迫り来るさなか、トワは拳を強く握った。そして、着弾する。
ドゴン!という音を発して植物が悲鳴を上げ、砕けた。植物の破片が宙を舞い、トワと紅の目が合う。
目を合わせたまま今度はナイフを握って振りかぶる。が、しかし。
「…………。」
紅はナイフを振り下ろしたトワの腕を左手で滑らかに、滑り込ませるようにして触れ、弾いた。
「!!!」
怒りに支配されていたトワの脳に目の前のことで衝撃が走る。
「なるほど、ヤッパリ私の見立ては正しかった。でも………少し拍子抜けかな。」
紅の冷たい目がトワにスッと入っていく。トワは背中に冷たいものを感じた。
「それにさ……私だって一応さ、四大悪魔の一人なんだよ?………舐めないでほしいな。」
紅は右手に力を込め、真っすぐに突きを出す。
「がっ!!」
紅の拳がトワの腹にめり込み、後ろに吹き飛んだ。そのまま背中から入るように壁に激突した。
その衝撃で壁が凹み、トワは床に倒れる。ナイフを持っていた手に力がはいらなくなり、カランカランという音が体育館を木霊した。
―どういうことだ、避けられなかった………!何か小細工でも!いや………違う。予備動作だ。予備動作がなかったんだ!
トワは痛む腹を抑えて立ち上がる。下唇から一筋の血が流れている。
「……でもまさか、この短期間でこれまで出力を上げられるとは流石に想定外かなぁ。能力って私たちの異能と違って出力上げづらいのに。」
そんな軽い口調で言っているが全く隙も油断もなかった。
「能力?異能?何言ってんだ………お前、は。」
トワは顔を拭った。
―確かあいつ……前にも能力者とかなんか言ってなかったか……?いや、今はそんなことどうでもいい。ひとまず、こいつをどうにかしねぇと。
まっすぐと紅の目を見据える。
「あれ、知らないんだ?なるほど……まぁでも知らなくて当然か。あの頃にいたわけでもあるまいし。」
紅は少し感心していた。
「でも、異能と能力も知らずにここまでこれたことは素直に驚くよ。でもだからこそ、厄介なんだよねぇ。そういうわけで、つまり君は………死ぬべきだ。」
今度は植物を三本生やしてトワへと向け、襲わせた。誠也を攻撃していた植物は紅自身を守る盾に、ヒカルを攻めていた植物はトワを攻撃するための植物として、ほとんどのリソースをトワへと当てた。
「君みたいな卵は潰しておくに限るよ。」
その四本は容赦なくトワに襲いかかる。つい先程までとは全く違った。威力も速度も硬度も桁違いに上がっている。
「クソ……!!」
トワはそれを裁こうとその力と身体能力をフル活用して弾き、斬りつける。しかしその硬度のせいで浅い傷しかつけられなかった。
「なんですかあれ………どういうことですか。」
サキは冷静にその状況を観察していた。
「………なんでトワだけ。」
ついに痛みに我慢できなくなり、膝をついた。汗が額から流れる。
「クソ…!あの状況じゃあ助けに行けねぇ……!」
誠也は悔しさと不安で強く噛んだ。
「なんで俺は……何もできないんだ。」
ヒカルは顔を歪め、ナイフを握る手を強く握る。俯かせた顔には、恐怖と怒りだけが支配していた。




