第四十二話 助け
―き……気まずい!!
トワが離れたあと、太郎はユキと共に行動していた。
「……………。」
ユキは顔をうつむかせながら歩く。
今は荷物をまとめるため、教室へと向かっている。
「ね、ねぇ……。」
勇気を振り絞り、声をかけてみた。
「…………。」
しかし、失敗。反応すらしてもらえなかった。
しばらく歩き、互いの教室へとたどり着いた。
各々中に入り、バッグの近くに膝をつき、重要な物だけを選別する。
太郎の教室ではほかのクラスメイト達が急いでいる様子でバッグに詰めていた。
―これは……いらない。これはいる。
何度もこの作業を繰り返し、出来るだけ手間暇かけずに簡単に済ませた。
―よし、こんなもんかな。
バッグに荷物を入れ終わり、既に開いている扉の先を踏み出した。
次に太郎は、ユキのクラスである1-Aへと足を向けた。
少し歩いた先でユキが教室から出ていくのが見える。
「…………。」
ユキは目線を変え、太郎が目に入った。
足を止めずにユキの所まで歩く。ユキは待っていた。
太郎がユキの隣まで来ると、ユキも歩き出した。
第一体育館までの道のりでは、二人はひと言も発さなかった。
第一体育館に着くとそれなりに人がおり、第二体育館とで人数は半々になっているようだ。
耳をすませてみると、近くから子どもの声が聞こえる。
「ねぇ、これからどうなるの……?」
心配そうな声色で、母親の袖をつまみながら訊いていた。
「大丈夫よ、気にしないで。何とかなるから。」
端から見ればそれは子供をあやす母親であるが、太郎にはそう言い聞かせているようにしか見えなかった。
ふと目線をそらしてみれば、熟年夫婦と思わしき人達が何かを話しながらあの子供と同じように心配そうに目線を下げていた。
武装した5人が紋付き羽織袴を着た高齢の男性と話しており、終わり次第体育館から去っていった。
「…………。」
太郎は顔を俯かせた。
―何もできないって分かってるけど……。それでも、できることはないのかな………。
拳を握った。
そう考え、太郎は人混みを割って近くの先生の元へと向かった。ユキもついてきていた。
「先生。」
太郎が声をかけると少し驚いた表情をするが、すぐにもとに戻った。
「なんだい、君。」
訝しげに声を揺らす。
「その、何か役に立てないかと……。」
「……本当かい?」
「えぇ、本当ですけど。」
何故そんな事を聞くのが分からず、疑問符を浮かべながら答えた。
「……本当に助かるよ。ありがとう。」
その教師は頭を下げる。
「いえ、気にしないでください。こっちもやりたくてやってますから。」
優しく声を出した。
「なら、あっちの体育館の様子を見てきてくれないか。」
先生は申し訳なさそうに言った。
「わかりました。では。」
太郎はくるりと身を翻し、ユキと共に第一体育館を出た。
少し歩いていて、ふと足を止めた。
「………そうだ、ユキちゃん。どうして、俺についてきたの?」
1度立ち止まり、振り返る。
「…………。」
言いたくないのか分からないが、黙っていた。
「あ、言いたくないなら大丈……」
そこまで言ってユキが被せてきた。
「なんにもしないわけには、いかないから。」
気まずそうに目を斜め下に追いやった。
「………そっか。ありがと。」
その言葉に目を見開いて顔を上げた。驚きしかなかった。
「な………んで。」
確認するように声を震わせた。
「なんでって言われても…………。」
太郎はう〜〜んと声を唸らせる。
「…………。」
ユキはフッと息を吐き、口に少し曲がった弧を貼り付け、太郎を見た。
「……ありがと。太郎君。」
「………こちらこそ。」
目を僅かに見開いて、柔らかく笑った。
それから第二体育館に着くまで、あの気まずさはとうになくなり、消え去っていた。二人が第二体育館に着くまで一言も言葉を交わすことはなかった。
ギィっと音を立てて扉が開く。その先には第一体育館同様、多くの避難者で溢れかえっていた。
第一体育館と変わらぬ様子にユキの肩の力が抜けた。
「ひとまず、先生に確認するのが先かな。」
周りを見渡し、先生を見つける。
「だね。」
ユキもそれに反応し、太郎に続いた。
「すいません。」
太郎は声をかけた。
「ん?なんだい、君たち。」
その60歳くらいの先生は訝しげに二人を見た。
「第一体育館から来たんですけど、今状況ってどうなってますかね?」
「状況かい?………そうだね、こっちは特に問題ないよ。あとは、避難経路だけだね。」
最後の避難経路の事を話す時、先生ははぁ、とため息をついていた。
「そうですか。ありがとうございます。」
太郎は頭を下げ、その場を去ろうとする。しかし、それを先生が止めた。
「待ってくれ。……第一体育館の様子はどうなっている?」
太郎の目を見た。
「こっちも特に問題はないです。」
その言葉に安心したのか、表情が少しだけ柔らかくなった。
「そうか、なら良かった。悪いね、足止めをしちゃって。」
「いえ、大丈夫です。それに、気持ちは分かりますから。」
フッと柔らかい笑みを浮かべる。
「そう言ってもらえると助かるよ。」
再び太郎とユキはくるりと向きを変え、第二体育館を出た二人は、第一体育館へと向かって歩いていた。
「…何ともなくて良かった。」
ユキがフッと息を吐いた。
「そうだね。本当に。」
二人は屋根がついた通路から廊下へと進み、廊下には上履きのカツカツという音が響く。
太郎とユキは第一体育館の直ぐ側に来るまで他愛もない世間話を繰り返した。
第一体育館と校舎をつなぐ屋根だけある通路にさしかかった時、ふと太郎が校庭を見た。
「………?」
何やら人影がある。しかし、瞬きをした瞬間にその人影は消えた。
「……太郎君?」
何故か立ち止まっている太郎に疑問が浮かび、ユキは近づいて声をかける。
「………あ、ごめん。」
はっ、とユキに気づいた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。気にしないで。」
心配させぬよう柔らかい笑みを浮かべる。
「そっか、じゃあ、戻ろ?」
ユキもいつもの表情に戻り歩を進めた。
―……気のせいか。
チラッと校庭を見るが、やはり人影などは存在しなかったことを確認して、止まっていた足を動かした。
第一体育館から離れて十分、戻ってこれた二人は再び先生へと一直線で向かう。
「先生、行ってきました。」
後ろを向いて何か指示をしていた先生は太郎の声に気づくと身体を太郎の方へと動かした。
「ありがとう。それで、どうだったかな?」
「特に異常は見当たりませんでした。」
「そうか。行ってくれたこと、感謝するよ。」
そうだ、と先生は付け加えた。
「もう君たちもゆっくりしていてくれ。後は、私たちがどうにかするから。」
ユキと太郎は互いに見合い、頷く。
「はい、ではお言葉に甘えさせていただきます。」
それを聞いた先生は安堵の息をついた。そして、二人は先生の元から離れた。
「それで、どうなっているんだ?」
先生はすっと気持ちを切り替え、話し合っていた他の先生に声を向けた。
「それが、どうやら戦闘員が確認から戻ってきてなくて………。」
「それの何がおかしい?あれからまだ十分しか経ってないんだぞ?」
その先生の言葉がつっかかったのか問いただすように聞いた。
「そうじゃないんですよ……。異常確認のため、電話をかけたんですが……出なかったんです。」
そこで、紋付き羽織袴を着た高齢の男が近づく。
「そりゃどういうことだ?」
先生達は振り返った。
「貴方は………仁さん?」
仁は腕を組んでおり、確かめるような目をしていた。
「おい、それは本当のことか?うちの組員が?」
少し威圧的に思えたのか、僅かに萎縮する。仁はその事を言った若い先生へと目をやった。
「え、えぇ。何度もかけましたが、出ませんでした。」
それに気づいた先生は答えた。
「……ちとまずいな。おい、今すぐ十以上のグループを作るように指示を………。」
言いかけたその瞬間、ギィっと扉が音を立て、開いた。
全員が一斉にそちらに振り返った。
そこには、血に塗れた刀を片手に、袴の汚れもシミも一つない百八十センチほどの青年が立っていた。
本当に遅れてすいませんでした。ちょっとリアルの方が忙しくて中々投稿できませんでした。これからはもっと早く出せるように頑張ろうと思います。




