第四十一話 違和感
ガキンガキン、その甲高い音と人々の声が混ざった音が、戦場を鳴り渡る。
「クソ!キリがねぇぞ!」
菅野は短刀を、体力を使わないように出来るだけ小さな動きで振り回す。
「菅野さん!銃の許可を!」
近くにいた黒のスーツを着た組員は切羽詰まった表情をする。
「……チィ!」
数秒程度思考を巡らせ、決断をする。
「総員!発砲を許可する!だが、味方に当てるなよ!」
その声を皮切りに、戦場の各地でパン!と乾いた音が響く。しかし、その音もそこまでの頻度で聞こえてくるわけではない。
「あいつは無事か…?」
菅野は、少し遠くにいるトワに意識を向けた。
◆
「おいおい、数はどうなってんだよ!!」
そう愚痴を零すが、ナイフを振るう腕は止まらない。
もうかれこれ戦闘が始まってから、二十分はこの状態だ。
周囲では、仲間が倒れ、担がれる姿が目にはいる。
「これでもかなり減ってる方だとは思うんだけどなぁ!!」
傘都はトワの後ろにいた悪魔を斬り伏せる。
「おいおい、冗談だろそれ。」
斬ることによって、鮮血が舞う。その血がトワの頬にかかるが、特には気にしないで動いている。
「んな呑気な事言ってる場合か!!」
すぐ近くからヒカルの声がきこえる。どうやらヒカルはサキと共に行動してるようだ。
「もうそろ親玉出てきて欲しいんだけど?!」
傘都は叫ぶ。
「くっちゃべってねぇで腕を動かせ!死ぬぞ!」
なんとか包囲されないように敵を斬っているが、数が減ってるようには見えなかった。
「動かしてるわ!でももうそろ限界!」
傘都は腕の疲労を無視してひたすら振り回している。
「命が先に尽きるか腕が尽きるか選べ!」
トワはチラッと傘都を見て、必死な表情をしている。
「すんません!やっぱ腕で!」
うわーん!と嘆くが動きは止めない。
すると、自分たちより少し先から、ドス、ドス、と何かの足音が聞こえてきた。その音が聞こえてきた時、雑魚悪魔達は動きを止め、離れる。
「なんだ…………?」
トワはすぐに動けるように踵を浮かせた。
「象かよ………。」
その音に傘都は冷や汗をかく。
周囲の音が小さくなり、足音だけが大きく聞こえる。
「なんだ、ありゃ……。」
少し遠くにいる菅野の声がこちらまで聞こえてきた。
「……おいおい、デカすぎんだろ。」
その体は、優に三メートルを超えていた。右手には、直径が三十センチを超える太刀を持っていた。
「こんな巨体、デカブツ以来だな………。」
トワはわずかに震えていた。だが、一度深く息を吐いた。
そうして、一歩踏み出した瞬間、声が聞こえてきた。
「俺達は蚊帳の外か?」
その声の主は傘都だった。
「…………傘都。」
後ろを振り返り、目を少しだけ見開く。
「ヒカル……。」
いつの間にか、右隣に立っていた。
さらに、後ろから声。
「少しは頼ってくださいよ。それとも、戦力外ですか?」
サキは溜め息をつく。
「…………そうだな、悪かった。」
ふっ、と口角が上がる。
「なら頼んだぞ、お前ら。」
トワは巨体に向き直った。
「……おうよ!この俺達に任せとけ!」
一瞬ボケっとしたが、ニヤリとほおを緩め、自信満々に答えた。
「四人なら余裕だろ。」
落ち着いた様子でそう言うヒカル。
「期待しといてください。」
サキは武器を構えた。
「……………。」
トワの目に自信が宿る。
トワはナイフを逆手持ちにした。次の瞬間、トワ達四人は、同時に地を蹴った。
◆
「………硬った!」
驚きながらも攻めの姿勢を崩さないトワ。
「でも、動きが単純……だ!!」
ゆっくりと体を動かす巨体の悪魔。大きな太刀を四人に向けて振るう。
「これだったらデカブツの方が強かったなぁ!」
傘都はこんな状況でも笑みを絶やさない。
悪魔はもう一度太刀を凪ぐ。その攻撃を四人は後ろに下がる事で避けた。
「ていうか、意思を感じられなくないか?」
ヒカルは少しだが、悪魔の攻撃、行動を分析していた。悪魔の攻撃は、あまりにも単調で、なおかつ単純に見えていた。
「まぁ、確かに考えて武器を振るってる様には見えねぇな。」
そう話している間、悪魔は少しづつ着実にトワ達に近づいてきていた。
「でもよぉ、確か硬てぇんだろ?あいつの皮膚。」
傘都はチラッとトワに目配せをする。
「……そうだな、硬いし、斬りづらい。しかも滑る。」
先程の感触を思い出した。
「なら、斬るためには鋭く一直線じゃないと厳しいですね。」
「そうだな。ま、やってみるさ。」
トワはそう言うと、再び地面を踏み込み、悪魔の懐まで潜り込んだ。
「はっ!」
そのままナイフを右斜め下に構え、一切のブレもなく一直線に斬り上げた。斬られたとこから、鮮血が溢れ出る。
「ガァ!!!!!」
その瞬間、悪魔は叫び、目線をトワまで映した。
息を酷く荒くして、右腕を振り被り、思いっきり叩きつける。
しかし次の瞬間、トワは右にいた。悪魔は瞬きすらしていなかった。
「図体がデカすぎて、まともに動ききれてねぇじゃねぇか。そんなんじゃ、ただのデカい的だな。」
太刀が深く刺さりすぎたのか、悪魔は太刀を抜こうと力を上に込めている。
その隙を狙い、トワはもう一度斬撃を叩きこんだ。
そこからも血が噴き出る。
「グァ!!!」
二度も斬られた事で、怒りが頂点に達し、太刀を諦めてトワに殴りかかる。
しかし、それでも当たらない。避けた地面からはドゴォ!!とコンクリートが粉砕され、当たりに破片が飛ぶ。
その破片でトワは頬を切った。
「……………。」
鋭い痛みがトワを襲う。しかし、それに構っている暇はなかった。
悪魔は目線の先にいた傘都達の事を忘れ、ひたすらトワに攻撃を仕掛ける。
「……もう少しは考えたほうがいいと思うぞ、お前。」
そう言った瞬間、二人の人影が悪魔の両足めがけて走り出し、左右から同時に刃が走る。タイミングは、ほぼ同じだった。
「今だ、トワ!」
ヒカルがトワに向かって叫ぶ。腱を斬ったサキはトワを見ていた。
斬られた事で歩けなくなった悪魔は前のめりに倒れる。その隙を見逃さず、トワは悪魔の頭を飛び越えた。
立ち上がろうと藻掻く悪魔を下に、ナイフを高く振り上げ、刃が光を反射する。
その瞬間、トワは弧を描く様に振り下ろした。
刃が食い込み、筋肉と骨を断つ感触が手に伝わってくる。
抵抗はあれど、さほど気にするほどのものでもなかった。トワはそのまま力で斬り進め、悪魔の首を断った。
ナイフには、赤色の血液が、べっとりと付着していた。
◆
周りの雑魚悪魔達は消え、怪我人を運んでいる人がちらほら見えた。
「ふぅ、なんとか勝てたぜぇ……。」
傘都は地面にフニャフニャと倒れ込んだ。
「本当、あの硬さはおかしいですよ。」
サキは少し口を尖らせ、目線を塵になりかかっている巨体悪魔へと向けた。
「わりとガチめにトワがいないと勝てなかったな……。」
ヒカルは少し出っ張ってる段差に腰掛ける。
「そうか?いうてお前らだけでも十分だった気がするけどな。」
巨体悪魔の血が付いたナイフを見ながらそう返した。その血も悪魔が死んだことによって塵になりかけている。
「いやいや、何言ってんだトワ。トワがいねぇと決定打にならねぇよ。」
傘都は反論した。
「そうだぞ。多分トワは俺達が腱を斬ったから大丈夫って言ってんだろうが、そもそも構造的に腱周りは皮膚しかなかったから斬りやすかっただけだ。」
ヒカルが言っている一方で、サキはウンウンと頷いていた。
―………そういえば、なんで此処に悪魔が来たんだ?
少し嬉しくなっている傍ら、トワはふと疑問に思い、思考する。
―これまでは……基本悪魔達にはテリトリーがあった。
眉間にシワが寄る。
―それなのに今回は、場所を気にせず動いていた………。何処か引っかかる………。おかしい……。
トワはひたすら考える。
―待て……。
そこで何か確認するようにヒカルへと顔を向けた。
「なぁ、ヒカル。お前、俺がいないと勝てなかった……って言ったか?」
トワは冷や汗をかいていた。
そんな様子を気にすることなく、そうだ、と肯定した。
「なんだよ、自慢か?」
ヒカルがそんな事を言っているが、トワの耳には入らない。
―……もし、もしも、これが人為的なものだとしたら……?わざと仕掛けてきたとしたら?でも、そんなの、何のために………。
ひたすら思考を巡らせる。
―…………誘導?
―でも、誘導して何の意味が……?
そこで、思いついてしまう。
―何処かから、引き離すため?……自分達がいた場所。学園………?
ゾッと背筋が凍るような錯覚に陥った。
―それに、今学園の大半の戦力は、ここに集まっている…………。ここから学園は、それなりに距離もある。
嫌な考えばかりがトワを支配する。
―つまり、戦力のいない学園を襲っても、気づかれにくいし、楽に落とせる……?
パズルのピースみたいにカチッとはまっていく。
―いや、そんな訳はない。そうだ、考えすぎだ。俺きっと疲れてんだな………。偶然だろ、偶然……。
頭を横に振って、思考を取り除く。すると、サキがスマホを取り出し、何かをしているところが見えた。
すると、スマホを耳に当てだした。数秒、十秒、サキは口をひらこうとしない。
さっきの思考が蘇り、恐る恐る訊く。
「なぁ、何して……たんだ?」
サキは少し驚いた様な顔をするが、淡々と答える。
「ユキちゃんに電話をかけてたんですよ。でも、出ませんでしたけどね。」
サキの顔ら心配の色が見えていた。
トワの手が、わずかに強く握られた。
―出ない……?
胸の奥が嫌な音を立てた。
―あの、あのユキが?いつもすぐに返信してくれるユキが?
そう、ユキは基本どのタイミングでもラインをすればすぐに既読がつき、通話をすれば出てくれる。そんな人間だった。
先程吸てた思考が再び復活し、嫌な予感がトワを駆け巡る。
意を決して傘都達へ背を向ける。そして、走り出そうとしたその瞬間……。
「どこへ行くんですか?」
声をかけたのはサキだった。
「悪い、今構ってる時間はないんだ……!」
切羽詰まったような声色をしている。
「どこへ行くんですか……?」
再び訊いた。
「………学園だ。」
言い終わる前に体は少し動いていた。
「なら……私も連れて行ってください。ユキちゃんが心配なんで。」
一瞬だけ考え、口を動かした。
「………なら、しっかり捕まってろよ。」
それだけ言ってサキの腰上に手を当てて、抱え込む。
サキは目を見開いたが、トワはそれすらも気にしていなかった。
その光景に傘都とヒカルが驚いているが、少しも気にせず地面を蹴った瞬間、景色が一気に後ろへ流れた。
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