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第12話 家族の在り方

LGBTの問題について少し踏み込んだ話題が出てきます。また、現実のものに沿った架空の制度も出てきます。あくまでも物語を進めるうえでの表現であり、それ以上の意図は全くございません。そのことを踏まえたうえでお話を読んでくださいますと幸いです。

「ごめんね、希美ちゃん。3週連続でお休みを奪う破目になっちゃって。」




我らがクラスの学級委員長…。鈴木美玲さんはわかりやすく両手を合わせながら私に謝罪の言葉を述べてくる。まあ確かにここ暫く休みを潰され続けているのは非常に嘆かわしいことだが、改まって謝られると逆に申し訳なく思えてくるからできればやめていただきたい。私だってあんたらが部活や委員会で忙しい日々を送っているのは十分理解しているよ。そういった背景を鑑みれば、私はむしろ彼女たちが貴重な時間を割いてくれる現状に感謝の意を示したほうがいいのかもしれない。はっきり言って有難迷惑でしかないけど……。



「…あれからあなたに聞きたいことが山のように増えた。今日は洗いざらい全部白状してもらうよ。鈴木さん……。」



つい今し方有難迷惑だと思ってしまったばかりだが、今日に限っては鈴木さんが時間を作ってくれたことに心からの感謝を述べるべきだろう。なし崩し的に引っ張り出された直近2回の日曜と違い、今日の私は間違いなく自らの意志で鈴木さんのもとを訪れている。ここ最近私の周りに起きた出来事のネタ晴らしを…。そして、私が忘れているという過去にしっかりと向き合うために……。



「もちろんそのつもりだよ。けど、最初に言っておくとあなたが忘れている過去については何も話すことができない。私はその件の当事者じゃあないからね。」



こいつ、いきなり出鼻を挫いてきやがった。いや、ここは私の素直に見通しが甘かったと反省するべきか。鈴木さんが藤本さんや瑠花から直近の出来事について情報を仕入れてくるだろうと踏み、彼女であればすべての事実を語ってくれるに違いないという考えで今日という日に挑んだわけだが…。



冷静に考えて鈴木さんの言い分はぐうの音も出ないほどのド正論。鈴木美玲という女が私の過去物語に登場した事実は存在せず、私が忘れているらしいトラウマに彼女は一切関わっていない。瑠花たちから色々話を聞かされているのは間違いないようだが、それでもやはり鈴木さんから中学時代の記憶について問いただすのは道理に反していると言わざるを得ない。



…だが鈴木さんよ。



「当事者ではないけど関係者ではあるんじゃないの?」




私がその質問をした瞬間。鈴木さんは口元にうっすら笑みを浮かべ、私に対して何やら意味深な視線を送ってきやがった。だが、エスパーでない私には彼女が何を思って笑っているかこれっぽっちも理解ができない。悪いが、質問に対する回答は態度でなく言葉で示してくれないか。





「…うん、そうだね。私は高校入学以前から希美ちゃんのことを知っていた。あの娘から…。奈緒からいろいろ話を聞かされてたからね。」



…ほう、それはかなり意外だな。てっきり小鳥遊さんは私に何の関心も抱いていないと思っていたが…。いったい彼女がどんな風に私の悪評を語ってたのか普通に興味があるよ。だがしかし、今考えるべきはそこじゃないな。



後出しに思われるかもしれないが、私は最初から瑠花のことを微塵も疑っていなかった。あいつは類稀なるお気楽アホ女だが、あんなことを嘘や冗談で言う下賤な奴では決してない。それでも私はあいつの発言をそのまま素直に受け止めることができなかった。それが真実であると認めきることができなかったのだ。だが、こうして鈴木さんの口から核心的なセリフを聞いてしまった以上はすべてを受け入れるしかない。



…それでも。



「…姉妹ってわりには苗字も違うし、容姿もあんまり似てないように思うけど……。」



瑠花の言葉を完全に受け止めきれなかった一番の理由はこれだ。鈴木さんが留年でもしてない限り2人の年齢は同じ…。つまりは双子の姉妹ってことになるのだろう。だが、2人の間にはそれを匂わせる要素があまりにも皆無だ。苗字の件は言わずもがな。容姿や性格からも血の繋がりが全く感じ取れない。それに、姉妹であるならどうして同じ学校に通っていなかったのかって点も甚だ疑問だ。それでも鈴木さんが小鳥遊さんとは姉妹だと言い張るのなら、考えられる可能性はただ一つ……。




「お察しの通り、姉妹と言っても私と奈緒の間に血縁関係はない…。要するに義姉妹ぎきょうだいってやつだよ。」



…まあそうだとは思っていたよ。親の再婚が理由か。或いは漫画やドラマとかでよくある義姉妹の契り的なやつなのか。そのあたりの事情に踏み込んでいいのかはわからんが、どちらにしても並々ならぬ裏がありそうだな。



「ねえ、希美ちゃんは遺伝子ドナーって知ってる?」



どういう意図の質問かわからないが、知っているか知らないかと聞かれれば一応は知っているというのが私の答えだ。確か不妊に悩む夫婦に向けた支援制度だったか。遺伝子提供や体外受精を用いた代理出産など、夫婦の事情に考慮したサポートで子供を授かることができる制度だっていうのをネットの記事か何かで見た記憶がある。日本では法律関連の制約とかであまりメジャーじゃないようだけど……。



それはともかく、その話があんたと小鳥遊さんの義姉妹関係にいったいどう繋がる?あんまり詳しくは知らないが、遺伝子ドナーが用いられるのは基本的に夫婦どちらかの不妊が理由のはずだ。だからこそ、1人目、2人目と制度を利用する場合もその兄弟姉妹には父親か母親との血縁が必ず存在している。少なくとも、『義姉妹』という表現が当てはまる関係にはならないんじゃないか。



「遺伝子ドナーの主な役割は不妊に悩む夫婦の救済…。だけど、海外ではそれ以外の目的で利用されることもあるんだよ。日本での事例は本当に数えるほどしかないけどね。」



なるほど。話の展開的に『それ以外の目的』ってやつが鈴木さんと小鳥遊さんの関係を説明する鍵になるって感じか。だが、無知で馬鹿な私にはそれが何なのか皆目見当つかない。保健の授業じゃあるまいし、もったいぶらずさっさと答えを明かしてほしいんだけど…。




「……私と奈緒に父親は存在しない。けど、親が一人しかいないってわけでもない。私たちの両親は2人ともが母親…。私と奈緒は女性同士のカップルがそれぞれ遺伝子ドナーを用いて生まれた子ども…。それが私と奈緒が姉妹である理由のすべてだよ。」





……衝撃の事実すぎて返す言葉が全く出てこない。しかし、これでようやく疑問の一つは解消された。この国には現在、同性婚という制度が存在しない。そして、人間という生き物は同性との間に子どもを授かることができない。その側面で考えれば、鈴木さんと小鳥遊さんは法的な親族関係も生物的な血の繋がりもない全くの他人だという他ないだろう。だが、そんなものは現代の社会において大した問題ではないと私は思う。表面上の繋がりなどなくとも、愛があるのであればそれは紛れもなく家族と呼ぶべき関係だ。鈴木さんたちがお互いのことを姉妹だと認識していたのであれば、そこに異議を唱える理由はどこにも存在していない。それが、鈴木さんの話を聞いた末に至った私の結論だった。




「ふふっ。さすがに驚いてはいるみたいだね。けど、同時にあなたは私の話をすんなり受け入れようともしている…。希美ちゃんのそういうところ、本当に素敵だなって思うよ。」



そうやって人の心を見透かしてくるのはいい加減やめていただきたい。自分のすべてが丸裸にされているようで非常に不愉快だ。それと、些細なことでいちいち素敵だなんだとからかうのも勘弁してほしい。話を聞いてるだけで褒められるとか、はっきり言って馬鹿にされているとしか思わんぞ。





「…けど、みんながみんな希美ちゃんと同じ価値観なわけじゃない。特殊な家族関係が原因で、小学生の頃は私も奈緒も毎日のようにからかわれていた…。それこそ、死んでしまいたいと思うくらいにね。」



…なんとも胸糞悪い話だな。しかし、だからと言って鈴木さんたちをからかっていた連中を責めるのは少し違う気がする。少数派の存在を攻撃し、排除しようとするのは群れで生活する生き物の性だ。人間は本能に従って生きるだけの獣ではないが、精神が十分に成熟していない子どもに多様性を受け入れる価値観を求めるのはあまりに酷すぎるだろう。


だからと言って、鈴木さんたちに降りかかった悪意なき攻撃を仕方のないことだと切り捨てる気はまったくないがな。



「私たちが別々の中学に進学したのも特殊な家庭環境を誰にも知られたくなかったから…。お母さんたちのことはもちろん大好きだけど、普通・・とは違う境遇を背負って堂々と生きられるほど私と奈緒は強くなかったの……。」



なるほど、そういうことだったのか。姉妹なのにどうして同じ中学に通っていなかったのかは疑問の一つだったので、それが解消できて本当によかったよ。まあ、姉妹関係の謎が解消された時点で優先度はだいぶ下の方に落ちていたけどな。そんなことより、鈴木さんの放ったセリフのせいでまた別の疑問が浮かび上がってしまったことの方が重大だ。




新たに生じてしまった疑問…。それは、誰にも知られたくなかった秘密を私なんかに明かした理由に他ならない。いや、もちろん私がそれを求めたからってのが根本であることはわかっているよ。だが、彼女の語った事実は誰かに聞かれて簡単に答えられるほど軽いものではないと私は感じた。だからこそ、鈴木さんがその秘密をすんなり明かしてくれたことに強い違和感を抱いて止まないのである。。藤本さんもそうだが、あんたらは私が誰かに秘密を吹聴するじゃないかとは考えないのかね。…いや、そんな真似をする気はこれっぽっちもないけどさ。





「私と奈緒の関係について話せるのはこれが全部…。本当は奈緒のことについてもっと詳しく教えてあげたいんだけど、これ以上はあの娘のことを思い出しちゃって悲しくなるから……。また別の機会に少しずつ話していくから、今日のところはここまでで許してほしいかな。」



いや、もう十分だよ。亡くなった家族のこと思いださせてしまい本当に申し訳なかったと思っている。だが、これで今日はお開きにって流れにするわけにもいかない。重い話の後で気は進まないけど、あんたには他にも語って貰わなければならないことがあるんだ。



「…悪いけど話はまだ終わっていない。あなたは瑠花から中学時代の私について聞き、それをあの3人に伝えて回った…。いったいどうしてそんな真似をしたの?」



厳密には小鳥遊さんからも私の話を聞いていたとのことだが、それとは別に瑠花からあることないこと聞き及んでいたというのはすでに言質が取れている。だが、あいつは鈴木さんの真意についてまったく口を割ろうとしなかった。曰く、『そんなの本人から聞け』とのことだ。ちなみにあいつからそのセリフを吐かれた瞬間、私が本気で殴りそうになったのは言うまでもない。



「……希美ちゃんを奈緒の呪縛から解放してあげたかったから…。希美ちゃんの魅力をみんなにも知ってもらいたかったから……。そして………。あの3人がずっと前から希美ちゃんに興味を抱いていたからだよ。」



鈴木さんが語った3つの理由…。私はそのすべてを全く理解することができなかった。


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