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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 学園編 2
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91 今後の展望

 91


「これから二人はどうするの?」


 リィナが学習院に入ったのはキュイと一緒に活躍するために探索者になる事だった。

 けど、今となっては前提が崩れてしまっている。

 探索者以外の道を探してもいいのだ。

 そうなると従者のマルスも道を考え直さないといけなくなる。


 リィナはキュイのお腹から顔を上げて、ひとつ頷いた。


「もちろん、卒業までここで学ぶつもりだ」

「探索者になるのは変えないんだ」

「ああ。正直に言えば僕は道を見失っている。どこかのお節介が無理やり引っ張り出してくれたからな」


 どこかの誰かとしてはコメントに困る。

 何が困るかって反省も後悔もしていないから謝るわけにもいかない事だ。

 そんな俺にリィナは口元をゆるませて、続けた。


「だから、そいつについていきたいと考えている」

「え? ついていくって」

「カルロは探索者になって遺跡を巡る旅をしたいのだろう?」

「あれ? 俺の夢って話したっけ?」

「そのぐらい遺跡の話をする時の君の目を見ればわかる(その、親友、だからな)」


 そんなにわかりやすいのか。

 俺も儂も遺跡の考察をしていると周りが見えなくなっているみたいだから、自分がどんな顔をしているのかちょっと心配になるな。


「人のやりたい事を否定したんだ。なら、君が僕に新しい夢を見せてくれ」

「俺がリィナに新しい夢を……」


 責任重大だな。

 言葉の重みを受け止めていると、リィナはそっぽを向いてしまった。


「つまり、責任を取れという話だ」


 本当に責任重大じゃないか。

 リィナにそんな気はないのだろうけど、女の子から言われたら色々と心臓に悪い台詞だぞ、これは。

 ……ないんだよね、深い意味?


 しかし、リィナが言う事にも一理ある。

 あれだけ好き放題に言って、暴れたのだ。

 手を引いておいて放り出すなんて卑怯な真似はできない。


「わかった。俺が責任を持ってリィナを預かるよ」

「ふん。それでいい」


 顔をそむけたままだけど、意に沿った答えだったのかリィナの背中でウサギさんがハイジャンプを繰り返している。


「じゃあ、マルスは?」

「ええ。あたしも変わらず魔導学科で勉強ね。服と一緒なのよ。最初はリィナのサポートのために始めたんだけど、魔導具作りも面白くなっちゃって」


 じゃあ、本当に今までと変わらないんだな。


 二人とバラバラにならなくって俺としても嬉しいけど、こうなると問題は今後の方針だよなあ。

 責任を取ると決めた以上、成り行き任せとかにはできない。


「じゃあ、卒業後の事とかもおいおい相談していかないとね」

「?」

「あら?」


 二人して首を傾げている。

 そんな変なことを言ったつもりはないんだけど、また何か勘違いでもしているだろうか。


「なに? どうしたの?」

「カルロ君、卒業したら探索チームを結成するんじゃないの?」

「いや、どこか有名な探索チームに入れたらなあってぼんやり考えてただけで、そんなふうには考えていなかったんだけど」

「どうして?」


 どうしてと聞き返されても困るな。

 探索者として遺跡を冒険するなら腕のいい探索チームに所属するのが一番の早道だからという以上の理由はない。

 遺跡学科の生徒としてはきわめて一般的な進路希望だろう。


「カルロ、よく考えてみるんだな。今更、君が他所の探索チームに加わったところで互いにメリットがないだろう。学習院に来てほんの数日で、既存の遺跡の地下部分を発見して脱出。単独で未解遺跡オリジナルを突破して、多くの謎を解明。手間暇をかけて既存のチームに入り、下積みを重ねるなど時間と労力の無駄だ(君は本当に凄い奴なんだ。もっと自覚を持って)」

「そうね。もう出来上がっちゃっているチームにカルロ君ほどの人材が入っても、持て余しちゃうかもしれないわよね」


 なるほど。

 そういう考えもあるのか。

 儂は世界中の探索チームに参加していたけど、儂が邪魔になるというケースもなかった。

 けどそれは、儂の方が年上で、確かな実績があったからだろう。

 今は違う。

 年齢も、実績も、立場も。


「それなら、マルスの言う通り、カルロが自分のチームを立ち上げた方がいい。違うか?」

「……うん。わかった。ちょっと考えてみるよ」

「卒業まで三年もあるんだしね。それがいいわ」


 考える時間はたっぷりある。

 割と前向きに検討する方向で考えていこう。

 リィナの秘密を考えると自分のチームの方が都合もいいしね。


 返事を保留にしたのが気に入らないのか、リィナはビシッと指先を突き付けてきた。


「ふん。だが、忘れるなよ。その時はチームの一番最初の仲間は僕だからな」

「了解。じゃあ、リィナはサブリーダーって事でよろしくね」

「サブリーダー、か。リーダーのパートナーという奴だな。ふふ。いいだろう。精々、僕にリーダーの座を奪われないように気を付けるんだな(精一杯頑張るぞ!)」


 既にリィナの中では俺がチームを発足させるのは決定事項みたいだな。

 責任を取ると言った以上は期待を裏切らないようにしないとな。


「ところで、リィナはこれからどうするの?」

「何を言っている。今、話した通りだ。遺跡学科を卒業する。そうだな。カルロ、在学中も君と行動を同じくできればと思っているが、迷惑とは言わないな?(一緒に勉強したいんだが、ダメか?)」

「あ、それは歓迎だけど、そっちじゃなくて。格好とか性別の事。どうするのかなって」


 男子として入学してしまっているのだ。

 どういうルートから制服を入手したのかわからないけど、いきなりスカート姿を披露すると騒ぎになりそうじゃないか。


「ああ。それなら問題ない。女装趣味という事で通す」

「……それで昨日は怒ったのに?」

「細かい事を気にするな。男らしくないぞ(それはないしょだ)」


 そのままリィナはキュイの後ろに回って隠れてしまった。

 何事かぶつぶつ言っているけど、俺の位置だと聞き取れない。

 席の近いマルスは聞こえているみたいだけど、教えてくれそうになかった。


 まあ、マルスの恰好を容認してしまえる学習院なのだ。

 リィナが女装したとしても問題にはしないだろう。

 というか、本当に懐が広いな、ノーツ総合学習院。


 話に一区切りついたところでドアがノックされた。

 マルスが入室を許可すると専属メイドさんがやってきた。

 何故か現れているキュイに驚きつつも、すぐにポーカーフェイスに戻って用件を伝えてくるあたり、彼女もプロだな。


「ご歓談中申し訳ありません。マルス様にお客様がお見えです」

「あら、どなた?」


 夕食を終えてから時間も経っている。

 こんな夜に来客とは誰だろうか?


「カナン様でございます」

「カナンちゃんが?」


 マルスの様子からすると約束していたわけではなさそうだ。

 俺たちは顔を見合わせた。


「僕たちは席を外すか?」

「うーん。それはカナンちゃんに聞いてからにしましょうか。ここに通してもらえるかしら。あと、紅茶の準備もお願い」

「かしこまりました」


 メイドさんがすぐにカナンを連れてきた。

 カナンは部屋に入ってくるなり話を始めてしまった。

 これはあれだ。

 先に話す事を考えていて、それを必死に暗唱している感じだ。


「こ、こんばんは。夜遅くに、ごめんなさい。マルスさんに、お願いが、あって、なるべく、早い方が良くて、だから……あれ? ひゃう!? ふええっ!?」


 途中でようやく俺とリィナがいるのに気付いたらしい。

 さらにキュイの巨体に驚き、さらにさらにリィナの女子制服姿に驚いて、とても忙しそうだった。


「はいはい。落ち着いて。まずはそこに座りなさい。ほら、紅茶も飲んで。それからゆっくり深呼吸よ?」

「ひゃ、はい……」


 なんだかマルスが保育士さんみたいだな。

 手慣れた様子でカナンをソファに座らせている。


 その間に俺とリィナはソファから離れておく。

 キュイも竜卵に戻してもらったので、少しは圧迫感も減っただろう。


 マルスはカナンが落ち着いたのを見計らって尋ねた。


「それで、あたしにお願いって言ってたけど、どうしたのかしら?」

「あ、うん。マルスさん、お願いが、あります」

「ええ。なにかしら? 教えてくれる?」


 優しく促されて、カナンは意を決したように小さな手をギュッと握り締めると、目をつぶったまま、叫ぶように伝えた。


「わ、私と、いっしょに、水商売、してください!」


 よし。

 俺は部屋に帰って寝ようかな。

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