83 グニラエフ立石群 三日目 5
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儂もディアロスも互いしか見ておらん。
ヴィンセントら取り巻きでは入れる世界ではないからの。
七層の竜卵持ちの激突に巻き込まれるのがオチじゃろう。
合図の代わりになるきっかけなんぞ待つ理由はない。
主導権を握るために儂から仕掛けた。
踏み込む。
残り、十メートル。
誰でもほんの一息もあれば詰められる距離。
七層の竜卵によって強化された体ならば瞬きの間に踏破できる。
一秒も掛からん。
残り、九メートル。
だが、引き金を引く方が早い。
ディアロスの唇が愉悦に歪むのが見えた。
同じ七層の竜卵の持ち主。
技能と経験の差ならば儂がずっと上だろう。
しかし、反応速度の差はほとんどない。
ならば、十メートルを詰める儂と、引き金を引くだけのディアロス。
どちらが早いかは明確じゃ。
残り、八メートル。
極限の集中に没頭する。
不要な感覚が抜けた。
音が消え、香りが消え、味が消え、残るのは視界と空気の感触のみ。
さあ、見ろ、見ろ、見ろ!
銃口から射線を予測しろ!
撃ち出されるタイミングを見切れ!
残り、七メートル。
予測射線。
儂の額。
眉間。
当たれば頭が消える。
ディアロスの指先。
動く。動いた。
今。
踏み出した足から力を抜く。
残り、七メートルのまま。
引き金が絞られた。
黒い砲撃が僅かに見えた気がした。
前のめりに倒れた儂の上を通過していく。
意識から外れた轟音が耳に届くが聞かない。
膝に力を入れる。
疾走を強引に繋げた。
残り、六メートル。
ディアロスが引き金を戻した。
僅かに銃口が揺れる。
下方修正。
標的の大きい胴体、いや、胸に狙いを変えた。
先と同じ方法では避けられん。
体を左に傾ける。
ぶれる体。
残り、五メートル。
二射目。
引き金が引かれた。
黒い砲撃。
躱せん。
右肘から先が吹き飛んだ。
「あぁ」
残り、四メートル!
勝手に喉が声を漏らす。
痛み?
知らん。
忘れろ。
消えた。
疾走はそのままに。
驚きに目を瞠るディアロスだけを見る。
「ぁぁああああ」
残り、三メートル!
銃口を再度構え直された。
遅い。
鈍い。
弱い。
伸ばす。
左手を。
前に。
「あああああああああああああああああああ」
残り、二メートル。
吼えたのは儂か、ディアロスか。
三射目が放たれる。
衝撃が頬を掠めた。
顔の右側を砲撃が抜けていった。
勘違いでなく本当に右耳が聞こえなくなる。
鼓膜が破れたか。
体が傾いていく。
伸ばした手が離れる。
足に力を入れて耐える。
だが、これでは届かない。
もう一歩を踏む前に四射目がくる。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
なら、届けるまでよ。
タイミングを狙っていた竜卵を発動させる。
左手の先からロープが伸び、足りない距離を補った。
銃口。
その中にロープを突き刺す。
「何を!」
忌避感からか反射的にディアロスが弾こうとするが、させるわけがなかろう。
ロープを操作して、銃口を塞ぎ続け、その間に最後の二メートルを詰める。
左手で竜砲を掴んだ。
銃口を上空へ向ける。
奴の右手と竜砲、そして、儂の左手をまとめてロープで縛り上げた。
「放せ!」
「もう一度、味わってみるかのう?」
囁きにディアロスが震えた。
腸砕きの痛みが記憶に蘇ったのだろう。
儂が右腕を動かそうとすると、空いている左手で肩を掴んできよった。
肘から先が強制治癒で直される前の腕じゃ。
ディアロスが何事か叫ぶ前に、もう一度囁く。
「おぬしは知っておるか? 腔発と言ってのう。銃口や砲身に何かが詰まった状態で撃とうとすると、中で爆発を起こす現象なのじゃが。腕ぐらいたやすく吹き飛ぶのじゃが」
青柳君から借りた漫画でよく見たのう。
暴発ではなく、腔発が正しいらしいが、儂も知り合いに教わるまで知らんかった。
儂の言葉にディアロスの表情に迷いが浮かんだ。
自身の竜砲の威力を知るからこそ、腔発を起こした時にどうなるか想像してしまったのだろうよ。
若いのう。
もう、そこは儂の術中の内よ。




