82 グニラエフ立石群 三日目 4
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「カルロ?」
名前を呼ばれるけど、まずは現状把握。
破壊した扉の向こう側。
リィナとキュイが倒れている。
どちらもかなり酷い状態だ。
一見するとキュイの方が重傷だけど、リィナの方が急ぎだな。
傷は強制治癒で治っただけで、服の破け具合から想像するに肩と脇腹に重傷を負ったのだろう。
それにキュイのダメージから伝わった衝撃も相当だと見える。
意識があるだけでも驚くべきところだ。
「とりあえず……」
後の面々はディアロス、キュイを取り押さえた四人の取り巻きに、ヴィンセントを含む後方の四人か。
さっと見渡して、順番を決めた。
儂、やっちゃって。
儂、やっちゃおう。
切り替える。
だけど、互いの意志は同じ続きを言葉にした。
『全力で』
リィナに銃口を突き付けている第三皇子ディアロス。
圧倒的なアドバンテージを持ちながら、悠長に呆けている隙を突かせてもらおうか。
「邪魔じゃ」
一歩の踏み込み。
それで互いの距離をゼロにした。
ディアロスが驚いているが、遅すぎる。
驚いている暇があったら動かんか。
だから、儂なんぞに虚を突かれるのだよ。
竜砲と呼ばれる黒い銃を掴み、空へと向けさせる。
僅かに遅れて引き金が引かれて黒い砲撃が空に放たれた。
七層の竜卵による腕力で振り払おうとしているが、無駄じゃよ。
儂とヌシでは積んだ経験が違えば、技能が違う。
「何故だ! 何故、こんな力が!?」
手を掴むという単純な作業にも色々とコツはある。
掴み方。力の入れ方。互いの駆け引き。
まあ、そんなことを語って聞かせる義理もなし。
儂は無言のままディアロスの腹に拳を当てる。
「ぬんっ!」
全身を廻した。
足の指から、足首、膝、股関節、腰、胴、胸、肩、腕、肘、手首。
そして、拳に集約した捻りの力を送り出す。
空手の裏当て。
中国拳法の浸透勁。
古武術の鎧通し。
呼び方は色々あるそうだが、儂のこれは自己流じゃ。
軍人や、部族の戦士や、格闘技を趣味にする教え子から習ったあれこれに、青柳君がら勧められた漫画の技を参考にして、儂なりにまとめてみた技。
拳を当てて相手の筋肉や血脈を押さえ、ゼロ距離から回転力を叩き込む。
特に名前はないが……腸砕きとでも呼ぶかのう?
こうすると内臓に直接威力が届く。
どんなに体を鍛えた人間であっても、鍛えようのない場所だ。
本来なら筋肉と骨によって守られているそこに、減衰しないままの衝撃を受けたディアロスが膝をついた。
竜砲も取り落として、打たれた腹を押さえておる。
「リィナから離れんか」
その胸ぐらを掴んで持ち上げて地面に叩きつけた。
さらに蹴りつけて吹き飛ばしておく。
通路を何度かバウンドしてヴィンセントの所まで飛んでいきおったか。
うずくまったまま震えて動かない。
続けてキュイを押さえる四人。
儂と目が合うと体を震わせた。
「キュイを放さんか。おぬしらもああなりたくなければのう?」
忠告を送るが、反応はない。
迷いが見えるのう。
儂が恐ろしいが、命令違反でディアロスに罰を受けるのも恐ろしいといったところかのう。
「ならば、否応もなしじゃな」
脱力によって体を沈ませる。
その落下エネルギーを前進に転換。
真正面から踏み込むが、四人ともが棒立ちのまま反応できずにおる。
人間の脳は優秀だからのう。
無意識の内にあらゆるものを分析して、予測してくれるのだ。
そして、自覚しない内に頼っている。
結果、相手が動くのを見て反応するのではなく、動こうとする挙動で反応するのだ。
故に動きだしそのものをなくしてしまえば、踏み込まれたと気づくまでタイムラグが生じてしまう。
その僅かな時間は七層の竜卵を持つ人間を相手にするにはあまりに長い。
「がっ!?」「ぐえ!」「ぎゃ!?」「ごえっ」
立て続けに四度。
腸砕きで打ち倒した。
強制治癒はまともに働かない。
内臓を損傷したのではなく、あくまで掻き回されただけじゃからのう。
しばらく、激痛を味わっておれ。
「キュイ。よく頑張ったのう」
「きゅい……」
胸に穴を空けられ、鱗は剥がれ、羽根は焼け、それでも主人を守ろうとしていたのがよくわかるよ。
その体を持ち上げて、リィナの下へと運んでやる。
儂の名前を読んだまま固まっておったリィナがようやく動き出した。
力なく頭を寄せるキュイの鼻先を抱きしめる。
「キュイ、ありがとう。すまない。お前はわかっていたんだな。カルロがここにいると」
「きゅい」
ほう。そうだったのか。
蛇の五感は人のそれとは違う。
ピット器官だったか動物の体温を読み取るというが、それで扉の奥にいる儂に気付き、主人を助けるために運ぼうとした、と。
本当にいい子じゃ。
儂もその頭を一度撫でてやる。
「キュイ、よくやったぞ。後は儂に任せろ。リィナ、竜卵に戻してやれるか?」
「ああ」
キュイの巨体が竜卵に戻る。
ふむ。
リィナの竜卵の印が増えておるのう。
四層に入っておるじゃないか。
エスクリスク聖堂に続いて、グニラエフ立石群の戦いで成長したようじゃ。
リィナは大切そうに竜卵を抱きしめ、そして、儂を見上げてくる。
こらこら。そんな不審な目を向けんでくれよ。
「しかし、カルロ。どうして君がここにいる」
「ああ。昨日の夜には到着してたからのう。キュイの灯りを目印に探そうかとも考えたが、迷路の道次第では合流できんかもしれん。ならば、リィナなら最深部まで辿り着けると信じて待つ方がいいと思ったんじゃよ」
「そうじゃない」
「む? 助けに入るのが遅れた事か? それはすまんかったのう。まさか、一度閉じた石の扉を破壊するまでが試練とは思わんかった。戦いの気配は気づいておったが、扉を壊すのに時間が掛かってしまったんじゃ」
「そうでもない! 助けてくれた事は感謝している! ありがとう! 君がいなければ僕は殺されていた! だけど、だが、僕が聞きたいのは、どうして、ここに、グニラエフ立石群に、君がいるんだという事なの!」
ふむ。
衝撃からは回復してきたが、まだまだ平常心ではないようだのう。
死の淵をのぞいたのだから無理もあるまい。
話している内に興奮してしまって、気持ちが空回りしておるようじゃ。
その証拠に口調までおかしくなっておる。
ほれ、俺。
ちっと話してやらんか。
これは儂の場面じゃなかろう。
なに、奴らはもうしばらくは動けんようにしてある。
少し話すぐらいの時間はあるじゃろう。
リィナは睨むように俺を見上げてくる。
うん。非常にレアなリィナを見た気がするな。
「あー、リィナ。提案があるんだ」
「提案!? なんだ! 言ってみなさい! 例の命令だっていいぞ!」
自分でもわけがわからなくなっているな。
追いかけている最中に色々と考えた。
俺の気持ち。
リィナの気持ち。
マルスの気持ち。
色々考えて、結局のところはシンプルだった。
「友達なんかが首を突っ込むなって言ったでしょ」
「……言ったな」
思い出したのか、途端に勢いを失うリィナ。
こんな時でも俺を傷つけたと心を痛めるんだからな。
まあ、少しは落ち着いてくれたようだから結果的に良かった。
そのまま続ける。
「だから、もっと仲良くなろう。友達よりもっと深い関係に」
「なん、だと?」
「俺はリィナの親友になりたい」
手を差し伸べる。
リィナは顔を赤くしたり青くしたり忙しい。
視線を僕の顔と手の間で何往復もさせるばかり。
さて、返事がもらえるまで待ちたいところだけど、さすがにそこまでは悠長にしていられないか。
「だから、俺にもリィナの問題を少し背負わせてよ」
「き、カルロ! 何を――!」
強引に手を取り、引き上げながら後退。
俺たちがいた場所に黒い砲撃が突き刺さり、土埃が舞い上がった。
「貴様あああああああああああああっ!!」
吼えるディアロスが竜砲を乱射する。
怒りで照準が定まらないのだろう。
リィナを肩に担いだまま走っていても当たる気配もない。
そのまま石の扉の残骸を跳び越えて、グニラエフ立石群の最深部を駆ける。
最深部は直径三十メートルほどの円状の広場だ。
広場の中央には環状列石が並んでいる。
どの岩も五メートル近くはあり、なかなか壮観な光景だった。
前世の儂の記憶にあるストーンヘンジによく似ている。
その更に中央には巨大な翡翠の宝石が浮かんでいた。
植生豊かな土の上に支えもなく浮遊している宝石の大きさは、人間がすっぽり入れてしまいそうだ。
この辺りだけは宝石の柔らかな輝きに照らされている。
「これは……」
「リィナはここに隠れていて。ここなら亡者も石像の守護者もいないから」
宝石に目を囚われるリィナを巨石の裏に座らせて、俺は扉の方へと歩き出す。
「待て、カルロ! これは僕の問題――」
「いや、俺たちの問題だ」
優しいリィナは危険に友達を巻き込むなんてできない。
だから、証明するのだ。
俺なら大丈夫だと。
どんな危険にも負けないと。
友達を頼ってもいいのだと。
後を追ってきたディアロスたちが最深部の広場になだれ込んできた。
といっても、取り巻きはヴィンセントたちの四人だけ。
残りの四人はまだ立つ事もできないのだろう。
もしかしたら痛みのあまり気絶しているかもしれない。
七層到達の竜卵を持つからこそ、ディアロスは耐えられたのかな。
十メートルほどの距離で対峙する。
一対五。
そして、銃が有利になる距離。
「大人しく帰るなら見逃してあげてもいいんだけど……」
「ぶっ殺してやるぞおおおおおっ!」
ディアロスが俺に銃口を向けた。
話し合いなんて最初から選択肢にない。
「なら、倒すだけじゃの」
儂は拳をきつく握りしめた。
『腸砕き』
儂が冗談で二重の○みをやろうとしたらできちゃった。
良い子は絶対に真似しちゃだめだぜ!




