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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
第三章 グニラエフ立石群
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74/179

71 皇帝一族

 71


「あのね、さっきのカルロ君の話なんだけど、もう大正解。わたしはトワム議長国の議長の娘よ。三女だけどね」


 ソファに腰かけたマリー先輩は開き直ったのか普通に話し始めた。

 どうやらドレス姿は恥ずかしかったのか、胸元とスリットを手で押さえて隠している。


 すぐにでもマルスを捕まえに行きたいところだったけど、いいから聞いていきなさいと止められたのだ。

 向かいの席にカナンと並んで座る。


「それで、新入生の子の中に狙い目の子がいるから、探し出して調べろって言われていたのよ」

「その相手がリィナ?」

「多分ね。曖昧な話だったから、わたしもリィナ君が本当にそうなのか探りを入れていたのが正直な話なのよ」


 その割にはアクセルを踏み過ぎだったような気もするんだけど……ああ、そうか。慣れていなかったから加減できなかったんだね。


「でも、あってると思うわよ。新入生で幻獣のストレンジ持ちって他にいないでしょ?」

「俺も全部の模擬戦は見ていませんけど、おそらく」


 教員に色々と聞かれていた間に模擬戦のほとんどが終わってしまっていた。

 その中に幻獣のストレンジがいた可能性もあるけど、極めて低いだろう。

 もしもいたとしたら、すぐに噂になって広まっているはずだし、単純に幻獣が出現する割合から考えても有り得ない。

 八百年の竜人族の歴史でもほんの僅かな数なのだ。


「その情報を教えてくれるんですか?」

「ええ。なにかあったみたいだしね」

「どうして?」

「マルスって子はリィナの関係者なんでしょ。その情報もあったから」


 ちょうどやってきたヴィオラが紅茶を置いていく。

 何も言っていないの俺の前にサンドイッチを用意してくれた。

 そう言えばお昼を食べ損ねていたんだ。

 視線で感謝を告げて、サンドイッチに手を伸ばしつつもマリー先輩の話に集中する。


「リィナ君と一緒にいたはずのカルロ君が一人っきりで、しかも、血相を変えてそのマルスを探しに行くなんて言うから、リィナ君に何かあったんだろうなって思ったの」


 どうして教えてくれるのかと聞いたつもりだったんだけど、推理を披露されてしまった。

 しかし、少ない情報から正解を導き出しているんだから、やっぱり頭のいい人なんだろうな。

 さすがは三年生の次席。


「ねえ。それって第三皇子絡みじゃない?」

「もう噂になっているんですか?」


 食堂で俺たちとディアロスが軽いトラブルを起こした話が広まるのは仕方がない。

 相手はあの傲岸不遜なディアロスで、こっちは入学試験で前例のない記録を量産した二人組だ。

 話題としては十分だろう。

 実際、マルスとカナンも聞いたようだし、ある程度は知られているのも頷ける。

 とはいえ、寮にいただろうマリー先輩まで知っているとは思わなかった。


 驚いて聞き返すと、やっぱりねとマリー先輩は微笑んだ。

 あ、鎌をかけられたのか。


「なんだ、かわいいところもあるじゃない。その、さっきの感じも悪くなかった、けど」


 後半なんかぼそぼそと呟いていた。

 おい、儂。これ、妙なフラグを立ててないか?

 マリー先輩はコホンと空咳で誤魔化して、話を戻してくれた。


「第三皇子は有名人だしね。悪い意味で」

「でしょうね」


 少し話しただけで性格の悪さは知れた。

 あんな性格の権力者なんて厄介ごとを呼び込むのが目に見えている。


「わたしの国だって、あの男とは縁を結ぶなって言うぐらいなのよ? 気に食わない生徒を半殺しにしたとか、平民の娘を手籠めにしたとか、貴族令嬢を襲ったとか、他の生徒の手柄を奪ったとか、教師を脅して成績を改竄させたとか……」


 指折り数えていくマリー先輩。

 予想していたよりも悪いぞ、これ。

 本気で竜帝国の未来が心配になってきた。

 本当にまずいなら孤児院の皆を連れて他の国に移住しようかな?


「竜卵だけは強いから性質が悪いのよね」

「そうなんですか?」

「知っているでしょ? 竜帝国の皇帝一族の竜卵の伝説」


 ああ。有名な話だ。

 竜帝国の皇帝の血を引く人間にはある特徴が出る。


「全てアームズの竜卵で、出てくる武器も同じなんですよね」

「ええ。竜砲よ」


 竜砲。つまり、銃器だ。


 銃の脅威は語るまでもないだろう。

 少なくとも剣や槍で挑めば一方的に撃ち殺されてしまう。

 その力を利用して初代皇帝は帝国を最強国に育て上げたと言われている。


 どうして皇帝一族にだけそんな特権が与えられたのか。

 国は竜帝の寵愛を受けているからと広められているけど、実態はわからない。


 あいつも皇帝一族というなら竜砲を持っているのだろう。


「しかも、七層の竜卵持ち」

「七層って……」


 カナンが俺の竜卵を見つめる。

 俺と同じレベルなのか。


「まあ、自分の実力で手に入れたわけじゃないみたいだけどね」

「他の人に協力させて、か」


 配下たちに遺跡群を取り押さえさせて、それを安全な場所から竜砲で撃つような真似をしたのだろう。

 手段はどうあれ、遺跡群を倒せば竜卵を成長させる事はできる。


「そんなにトラブルメーカーなんですか?」

「ええ。学習院側もさっさと卒業してほしいみたい」

「同感です。よく帝国も放置していますね」


 明らかに内患の種だ。

 いくら強大な力を持つ竜帝国でも内側から崩壊するれば力なんて意味がない。

 普通ならすぐに排除されるだろう。


「第三皇子の使い道も決まっているからでしょうね」

「それって……」

「第一皇子と第二皇子。どっちがうまく愚か者を処理できるか比べる試験じゃないかって噂よ。それを知らないのは当人と取り巻きだけね」


 自分の家族を駒扱いどころか、狩猟の餌扱いかよ。

 何も知らない人間が見たら次代の皇帝候補が、暴虐な弟を涙ながらに粛清する絵に映るかもしれない。

 家族を罰してまで平民を守る皇帝。

 さぞ評判を得られる事だろう。

 ついでにそういう裏事情を見抜けないような貴族連中もまとめて始末できる、と。


 その手際や相手陣営への妨害の巧みさで後継者レースが有利に運ぶのか。

 俺からしたら有り得ない話だ。

 家族をなんだと思っているのか。

 聞かなきゃよかった。

 もう話を戻そう。


「そんな第三皇子だからトラブルになったって思ったんですか?」

「ううん。リィナ君が関わっていると思ったのはそれだけじゃないわ。あんまり大きな声で言えない話だから、ちょっと耳を貸して」


 マリー先輩は周りの耳を気にするように身を乗り出してくる。

 こっちも顔を近づけると、先輩の頬にさっと朱が差して、ビクッと肩を硬直させた。


 もう、そういう反応しないでくださいよ。

 カナンも口を押えてアワアワしない。


「んっ、わたしが聞いた情報をそのまま教えてあげるわ」


 俺が真剣な目で見つめると、マリー先輩も調子を取り戻してくれた。

 前置きを挟んで、もう一度辺りに気を配って、それから俺の耳元に囁く。


「いい? 一度しか言わないわよ。『新入生の幻獣持ちはアームズを持たずに生まれた皇帝の一族だ』って話よ」

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