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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 学園編 1
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69 拒絶

 69


 さすがにのんびり食事をしている場合ではない。

 さっきのリィナの様子は尋常ではなかった。


 リィナが置いていってしまった食事と自分のを適当に周りにいた生徒に押し付け、慌てて食堂から飛び出したけど既にリィナの姿は見当たらなかった。

 俺ほどではなくても三層を越えた竜卵の性能は常人を越えている。

 すぐにでも追いかけておけばよかった。


 それでもどっちに行ったのかわかれば俺なら追いつけるはずだ。

 食堂の近くの生徒に聞き込みをすれば、さすがに色々と目立つリィナ。かなりの証言が得られた。

 聞き込みしながら追いかけてみると、向かった先は図書館らしい。


「すいません。リィナが来ませんでしたか?」


 午前中に案内してくれた職員さんが受付にいたので尋ねる。

 俺を覚えてくれていたので話はすぐに通じたけど、表情を険しくしてしまった。


「ええ。先程、地下に向かって行かれましたが、あの、館内では走らないようにして下さいと伝えて……、あ、だから走らないでと!」


 まったくもってその通りだけど、今だけは勘弁してください。

 後でしっかり謝りますから。


 心の中で謝罪しつつも地下一階に飛び降りる。

 何事かと視線が集まるけど、今は無視だ。

 警備員に双頭竜のマントを見せつつ、地下二階へと駆け降りた。

 ざっと地下二階を探してもリィナの姿は見つからない。


「もうひとつ下か」


 地下三階に降りたらすぐに見覚えのある後ろ姿が見つかった。

 リィナは早足で本棚を巡っては、目的に適った本を何冊か抱えている。


 幸い昼の時間のせいか他の人は見当たらない。

 場所を変えなくても大丈夫だろう。


「リィナ」

「カルロか。悪いが今は忙しい。後にしてくれ」

「リィナ」

「………」


 一度は取りつく島もない態度だったけど、もう一度繰り返すと短い沈黙を挟んで手を止めてくれた。

 けど、俺を見る目には激した感情が残っていて、冷静とは言えそうにない。


「君が言いたい事はわかる。だが、その上で言おう。しばらく、僕に構わないでくれ」

「そんなふうに言われて放っておけると思う?」


 竜帝国皇帝の息子――第三皇子の登場からおかしくなったリィナ。

 向こうはリィナに特別な反応はしていなかったけど、リィナの側には大きな問題があるのは明らかだ。


 権力者、それも帝国でもトップに近い相手に平民がトラブルを起こすのは、どう考えても危険すぎる。

 いくらキュイという幻獣の主であるリィナであってもだ。

 権力というのは腕力で覆すにはあまりに手が広い。

 自分自身は守れたとしても周りまでは守りきれない。

 外堀から崩されて、いずれは力尽きてしまう。


 そんな事はリィナもわかっているだろう。

 けど、今のリィナはそれを承知の上で動いている。


「せめて、事情ぐらいは教えてくれてもいいと思うんだけど」


 リィナは再び間を置いて、それでも返ってきたのは拒絶の言葉だった。

 俺を見つめてくる碧眼には強い意志が揺らめいている。


「なら、例の賭けの報酬でも使えばいいだろう」


 無理強いしなければ聞き出せないようだ。

 一日デレデレ状態が惜しいわけじゃないけど、そうやって聞き出したところでリィナは頑なになるだけな気がする。


「俺はリィナを友達だと思っているんだけど、友達を心配しちゃダメかな?」

「……ありがとう。僕もカルロを得難い友人だと思っている」


 リィナらしくない率直な物言い。

 それだけに大事な気持ちを言葉にしてくれたんだと伝わって、こんな時だというのに嬉しくなる。


 だけど、リィナは首を横に振った。


「だが、これは僕が解決しないといけない僕の問題だ。僕を友達だと言ってくれるなら、どうか今は僕の好きなようにさせてくれ」


 頭を下げられてしまった。

 俺が了承するまで上げるつもりはないのか、深く腰を折ったまま動かない。


 この、頑固者め。


「それって友達ぐらいで首を突っ込むなって事?」

「……そう、捉えてもらっても構わない」


 あー、これ、わりとショックだ。

 出会ってからほんの数日でも気心が知れたし、プライドをぶつけて勝負したり、命を賭けた戦いを共にしたりしている。

 そんな相手に拒絶されるのはくるものがあるとは思っていたけど、自分でも意外なほどにダメージを受けていた。


 あ、そっか。

 俺にとって同年代の友達ってリィナとマルスが初めてだったからか。

 テールの町の人たちはどうしても俺たちを孤児院の子だっていう目で見ていたから、話していても距離を感じていた。

 だから、学習院に来て初めて俺は、俺だけを見て認めてくれる相手に出会えたんだ。


 きっと、それが嬉しかったから、嬉しかったぶんだけ胸が痛くなる。


「わかった。リィナはリィナの好きにすればいいよ」


 溜息を飲み込んで、背を向けた。

 八つ当たりしてしまわないように早足で階段を上っていく。

 感情を持て余す俺の代わりに、儂が職員さんに謝ってくれたりしているのを感じながら、考えるのはひとつだけ。


「……ったく。リィナめ」


 思い出すのは背を向ける途中で見えた表情。

 ようやく頭を上げたリィナの顔が頭から離れない。


 涙をこらえてしかめた眉。

 声を殺そうと噛んだ唇。

 湿って揺れた瞳。


「泣きそうな顔するなよ」


 あんなの放っておけるわけないだろ。バカ。

 孤児院育ちを舐めるなよ。

 懐に入れた相手をそう簡単に諦めるもんかってんだ。

 友達じゃ足りない?

 なら、もっと親しくなってやるから覚悟しろよ!


 とっかかりはある。


 第三皇子ディアロス。

 グニラエフ立石群。


 それから、マルスだ。

 俺よりもずっとリィナとの付き合いの長いあいつなら何か知っているはずだ。


「魔導学科に行くって言ってたな」


 まずは寮に戻っていないか確認して、それからだ。

というわけで、間章終了です。

次回から新章突入になります。

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