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戦う考古学者と卵の世界  作者: いくさや
間章 学園編 1
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68 遭遇

予約投稿をミスっていたのに気付いて、超高速で次の話を書きました。

短めで申し訳ない。

 68


 そうしている間に昼を告げる鐘が聞こえてきた。

 一度、本を返して図書館を出る。


「寮に戻る?」

「いや、僕は遠慮させてもらおう」


 ああ。エロビッチ先輩が待ち構えていそうだもんね。

 じゃあ、俺もやめておこうかな。

 リィナの情報を聞き出そうとしてきそうだし。


 というわけで、普通の学生の食堂に向かう事にした。

 ちなみに、この食堂でも学生証を見せれば無料で食べられるので、持ち合わせを心配する事もない。

 早速、列に並んでいくつかのメニューから注文を終えて席を探すのだけど、なかなか空きが見つからなかった。


「お昼時だから人が多いね」

「視線が煩わしいな。カルロ、あの奥に行こう。人が少ない」


 食堂の窓際の席は空席が目立つ。

 早速、向かおうとしたところで嫌な顔に出会ってしまった。


「貴様ら、ここで何をしている!」


 ヴィンセントかよ。

 いつものお付きの二人がいないけど、食事の手配にでも行っているのだろうか。

 噛みつきそうな勢いで睨みつけてくるヴィンセントを、リィナも引かずにまっすぐ睨み返していて、一触即発の雰囲気だ。


「ここは貴族専用席だ! 平民の来る場所じゃない! それとも、その特待生のマントをぼくに見せびらかせに来たのか!」


 そんなわけあるか。

 被害妄想が豊かすぎるぞ。


 しかし、そうか。

 貴族席ね。

 確かに混雑しているのに空いているのもおかしな話だった。

 校則で定められたルールではないけど、慣習として浸透している話に逆らってもろくな事にならない。

 ここにこだわる理由もないのだから、移動した方がいい。


「リィナ、場所を変えよう」

「そうだな。相手をするだけ気がめいる」


 リィナにしては珍しく表向きも内向きも厳しい。

 ヴィンセントが謝るまでデレを見せる気は一切ないらしい。


「ヴィンセント、騒がしいぞ」


 踵を返そうとしたところで、窓際から声が飛んできた。

 呼ばれたヴィンセントは唇を噛んで、苦いものを飲み込むような顔をしながらも声の主に向かって頭を下げた。


「こんな場所で声を荒げるとは、ロクトルの家は嫡子にまともな教育もできんのだな。そんな体たらくだから平民なんぞに役職を奪われる。貴族の恥さらしめ」


 たたみかけるように辛辣な言葉が叩きつけられた。

 自分が言われたわけでもなくても不快になる。

 それでもヴィンセントは無言だ。

 きつく拳を握りしめて必死に耐えていた。


「そうだ。無能ならば無能らしく黙っているがいい」


 そんなヴィンセントを嘲る男がやってきた。

 俺よりも一回り背の高い男だ。


 第一印象は『醜い』。


 顔の造作が悪いわけじゃない。

 むしろ整っている方だと思う。

 けど、表情が全てを台無しにしている。

 彼の目にあるのは己以外の全てを見下す冷たさだけ。

 そんな悪意が一目でわかってしまうのだから、相当なものだ。


「ほう。お前たちが新しい主席と次席か」


 そんな男の興味が俺たちに移る。

 俺とリィナを一瞥し、嘲笑を隠しもせずにヴィンセントを煽った。


「ヴィンセント。貴様はこの程度の平民に遅れを取ったのか。必ず首席で合格するなどと言っていたじゃないか。それがこれとはつくづくつまらん男だ」


 俺はまっさきにリィナを見る。

 リィナの性格上ならこんな奴を放っておくわけがないからだ。

 相手が何者かわからないのにトラブルを起こしたら大変だ。

 いざとなったら止めなくてはならない。


 だけど、リィナは俯いたまま無言だった。


 でも、平常心でもない。

 能面のように表情から感情が抜け落ちていた。

 それでいながら、手のひらが傷つきそうなほどに拳を握りしめている。


「おい、貴様らも貴様らだ。この程度の男に勝ちを拾った程度で調子に乗るなよ? 最近は勘違いする愚か者が多くてな。多少、腕が立つという程度で、平民は貴族に使われなければ役に立たんという事実を忘れるらしい」


 好き放題言ってくれる。

 さすがに何か言い返すべきだろうと前に出ようとして、リィナに腕を掴まれた。


「リィナ?」


 思わず足を止めた。

 すごい握力が痛かったわけでも、驚いたわけでもない。

 俺を止めるためだったのだろうこの手が、まるで『助けてくれ』と叫んでいるように感じたからだ。


「む? さては貴様ら俺を知らんのか。これだから無知な平民は困る。田舎に籠っておればいいものを。おい、ヴィンセント。発言を許す。この平民に俺が誰か教えてやれ」

「はっ、殿下」


 あ、今の一言で想像がついた。

 この帝国で殿下と呼ばれるのはある一族だけだ。


 ヴィンセントは頭を下げた姿勢のままその男の名を呼んだ。


「こちらのお方は偉大なる竜帝国皇帝ファルカウス陛下のご子息。ディアロス第三皇子であらせられる」


 貴族と厄介な関係になったと思ったら、今度は皇子様かよ。


 内心で溜息を漏らしつつ、俺は片膝をついておいた。

 固まったままのリィナも、腕を掴んでいた俺につられるようにしてポーズを取ってくれる。


 この反応が正解だったのか、傅かれた事で満足したらしいディアロスは鼻を鳴らすと、踵を返した。


「いずれ貴様らの主となる男の顔と名ぐらい覚えておけよ、平民。ヴィンセント、いつまで俺を待たせる。貴様がどうしてもと頼むから、グニラエフ立石群の攻略計画に加えてやったのだ。足を引っ張るようなら使い捨てる前に切り捨てるぞ」

「はっ、ただいま」


 ヴィンセントを引き連れて去っていく。

 二人の気配が窓際の席に消えるのを待って、俺は顔を上げた。

 固唾をのんで見守っていた、あるいは巻き込まれないようにしていたらしい生徒たちも安堵の息を吐いている。


 しかし、この国の未来、やばいんじゃないのか。


 第三皇子のくせして皇帝になるとか衆人環視の中で宣言しちゃったり、あからさまに平民を貶めた発言をするし、貴族子弟にも同じ態度だし。

 国を傾ける要素しか見当たらない。


「あー、面倒なのに巻き込まれたね。って、リィナ?」


 未だに座り込んだまま動かないリィナ。

 心配になって顔を覗きこんで、思わず背筋が凍えそうになる。


 ディアロスの去っていった方向を睨み続けるその目は、まるで親の仇でも見るような激しさを湛えていた。


「リィナ?」


 もう一度、今度は慎重に声を掛けるとようやく届いたのか、リィナはビクンッと体を揺らせて、俺を見て、周りを見て、最後に睨んでいた先を見て、立ち上がった。


「……すまない。カルロ、僕は用事ができた」

「え? って、ちょっと待ってよ! リィナ!?」


 そして、そのまま食堂を早足で出ていってしまうのだった。

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