67 オリジナル
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「助かったよ、マルス。ありがとう」
「いえいえ。お安い御用よ。それにしてもカルロ君も男の子ねえ。あたふたしちゃって、かわいかったわ」
嫌なところを見られたな。
儂にバトンタッチしておけばよかった。
「あの人、怖かった、です」
カナンはマルスの背中にしがみ付いたままだ。
もう定位置みたいな安定感がある。
なんというか動物の親子を見ているみたいな感じ。
「ふふ。女の子は大丈夫よ。変に関らなければ、ね」
「へ、変って?」
「そうねえ。三角関係とか?」
女の戦いとかになったら大変だな。
マルスはあらゆる意味で平気そうだけど、カナンには荷が重いだろう。
一口でパクリと飲み込まれる未来しか見えない。
自分でも想像してしまったのかカナンがマルスの背中にしがみ付いたままガクガクブルブルと震えだしてしまった。
「大丈夫よ。その時はあたしが守ってあげるから!」
「おおおおおねがい、します……」
必死だな。
まあ、気持ちはよくわかる。
俺だってあんなのに巻き込まれたら、マルスに助けてほしいよ。
「じゃあ、あたしたちは魔導学科の見学に行ってくるわね。二人は図書館なんでしょ。気を付けてね」
「い、いって、きます」
魔導学科コンビを見送って、俺たちも図書館に向かう。
道中、心なしかリィナが不機嫌だったけど、話しかけている間に落ち着いたようで、図書館に到着する頃にはいつもの調子にもどってくれてほっとした。
「この学習院はどこも規模がすごいね」
「そうだな。大陸最高学府を名乗るだけはある」
学習院の図書館は一見すると普通の建物だった。
赤レンガのレトロな建物で、ちょっとした校舎程の大きさがある。
でも、一見するとなのだ。
中に入ると広大な空間が待っていた。
まるで本の森。
そこから見下ろす地下一階部分には整然と本棚が並んでいる。
縦横に百棚ずつはありそうだ。
仮にひとつの棚に三百冊が収められているとしたら、蔵書量は三百万を超えてしまうんじゃないだろうか?
一階部分は吹き抜けになっていて、上階には読書スペースや机が並んでいた。
朝早い時間だというのに先客の生徒たちの姿が見える。
受付の職員に聞いてみると、どうやら下で本を探して、一階で持ち出しの手続きをして上で読むというシステムらしい。
「ただし、君たちは特待生ですので情報開示レベルが他の生徒より高くなります」
「情報開示レベル?」
職員さんは俺たちを連れて地下へ向かうと、更に下の階へと下りて行く。
上からでは見えなかったけど、この図書館には更に下の階があったらしい。
下り階段の前には警備員らしき人が二人も立っていて、俺たちのマントを見ると通してくれた。
資格がないと下りさせてもらえないのだろう。
つまり、地下に行く程、貴重な資料を読める、と。
「現段階だと君たちは地下三階までですね。通常、一年生の特待生では地下二階までで、実績を積んでレベルが上げなくては入れないのですが、君たちの場合はエスクリスク聖殿の地下祭儀場の発見を考慮した結果と思ってください」
やった。苦労をした甲斐があったな。
何をするにしても情報というのは重要だ。
下手に物とかお金をもらうより、よっぽど価値がある。
地下二階は本棚といくつかのテーブルが置かれていた。
先輩らしい人たちの姿がチラホラと見える。
俺たちに気付いて観察してくるような視線もあったけど、図書館で騒がないという常識を破るような人もいない。
続けて更に地下三階へ。
地下二階と同じような造りだけど、こっちはテーブルの代わりに個室が用意されていた。
そこそこ大きな部屋もあるので、数人のグループが会議に使うのかもしれない。
この階になると生徒の数より、教員らしい人たちの姿の方が多くなっていた。
「地下二階以降は持ち出し禁止です。メモを取るのは構いませんが、情報の漏えいには注意してください」
「ちなみに、一番下は何階なんですか?」
「地下五階ですね。教師でも一部の人間しか入れなくなっています。生徒で入れるのは数名だけで、後は卒業生ぐらいでしょう」
ふうん。
それは楽しみだな。
遺跡以外に関する文献もあるだろうけど、俺や儂が知りたい知識はそこに収められているはずだ。
とはいえ、段階を踏んで行かなくては大失敗するのは目に見えている。
まずは基本から押さえようという方針にリィナも賛成してくれたので、俺たちはは一度地下一階まで戻って、学習院内の遺跡の概要から調べる事にした。
案内してくれた職員にわかりやすい本を教えてもらって、さっそく手続して上の階へ。
空いていたテーブルを見つけて、向かい合ってページをめくっていく。
この本に載っているのは各遺跡の場所と、簡単な概要が載っているだけなので、まずはざっと流し見た。
「全部で三十五もあるんだ」
周りの迷惑にならないように顔を寄せ合って、小声で話す。
「精霊族と獣人族の由来の遺跡が多いが、魔族の遺跡も七つ。考えられん数字だな」
「でも、移設した遺跡は小規模なのが多いね」
「無理もないだろう。一度解体し、運び、同じように積み直す。言葉にすれば簡単だが、実現するのは難しいぞ。遺跡の規模が大きくなれば、条件はもっと難しくなる」
「遺跡を再現しただけでもすごいもんな。模造遺跡なんて自虐的な名前で呼んでるみたいだけど」
儂もいくつかの遺跡の移設事業に携わっているけど、あちらよりもこの世界の方が難易度は高いだろう。
遺跡がどのようにして機能しているかを解明して、その上で機能を一時停止させてから解体。移設。再現。そして、再起動だ。
移すだけでも難事業だというのに、さらにハードルが上がっている。
「けど、そう言う意味では移設した遺跡は解明済みなんだね」
遺跡の詳細については報告されて、この図書館のどこかに収められているのだろう。
情報開示レベルを上げれば閲覧できる。
それにも興味がないわけじゃないけど、儂が求めるのは未知の探究だ。
どうしても食指が鈍ってしまう。
溜息まじりの呟きで俺の内心を察したのか、リィナが楽しげに口元を持ち上げる。
「ふん。貪欲な事を言う(向上心があるな)」
「リィナは違うの?」
「僕は君ほど解明に熱心ではない。だが、キュイを認めさせるには手柄が大きいほどいいだろう」
自分の竜卵を撫でながらリィナは開いたページに目を落とす。
「元からこの地にあった移設されていない中でも全容が判明していない遺跡――未解遺跡には興味がある」
本の後半に記載されている遺跡の一覧だ。
目次に名前を連ねるのは六つ。
・グニラエフ立石群 獣人族
・ラハン・ザトゥン霊廟 獣人族
・トゥネブ・エスドイド・エマ寺院 精霊族
・オド・ネメニファーラ大空洞 精霊族
・オイビルアの捻塔 魔族
・ロダシュカン宮殿 魔族
ほとんど謎が解明されていない、危険度の高い遺跡。
それぞれを説明するページも基本的な事しか書かれていない。
だからこそ、心躍る。
「ああ。俺もだ」




