53 二次試験 4
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「カルロくん、舞台の修復が終わるまで少々お待ちください」
ヴィンセントを運んできたベリアンに言われて頷く。
大蛇の尾によって砕けた床の石板がゆっくりと直っていっている。もう数分ぐらいかな。
お付きの二人に担がれて、ヴィンセントは舞台の端へと運ばれていった。
ティムにひざまくらしてもらって、ミリムはぼんやりとこっちを見ている。そこは普通、男女の位置が逆だと思うんだけどな。
まあ、対戦の終わった相手はいい。
それより目の前の脅威だ。
リィナは竜卵を発動させたまま俺を見ている。
どうやら最初から出し惜しみなしの全力でくるつもりのようだ。
竜卵の発動前に倒すという案は使えない。
「となると、ヴィンセントと同じやり方が妥当かな」
大蛇を避けて、リィナを倒す。
これが一番有効な戦術だ。
単純な身体能力なら俺はリィナを大きく上回っている。
白兵戦にさえ持ち込んでしまえば、一気に押し切れるだろう。
あの大蛇も体の大きさが裏目に出て、下手に割って入ろうものならリィナまで巻き込む危険性があるので、結果として無力化できる。
問題は、そんなものはリィナだって百も承知だという事か。
ヴィンセントを一撃で下した打撃には武術の理があった。
わかっていた事だけど、リィナ当人も強い。
守りに徹されたとして、防御を崩せるかどうかがカギになるかな。
「お待たせしました。これより最終戦を始めます。カルロくん、あちらへ」
時間か。
床は既に傷ひとつない状態に戻っていた。
ひとつ深呼吸をしてから歩き出す。
戦う前にリィナに話しかける。
「驚いたよ、その子はなんていうの?」
「ああ。紹介しよう。僕のストレンジ、幻獣のキュイだ」
幻獣か。
生物型と呼ばれるストレンジの中でも既知の生物にないモノにつけられる名前だ。
竜人族の歴史の中でも数えるほどしか存在しないというけど、まさかそんな規格外に遭遇するとは。
キュイと呼ばれた大蛇を撫でるリィナはどことなく誇らしげだった。
竜卵という道具としてではなく、相棒として信頼しているのだろうか。
「三層でそれならもっと大きくなるのかな」
「さあな。それは僕にもわからない。確かなのは、間違いなく強いという事だ。つまらない戦いはするなよ?(遠慮なんてしていたらケガをするからな。気を付けろ)」
わかっている。
だから、俺も返事の代わりに竜卵を発動させた。
ティレアさんと戦った時のようにロープを両腕に巻きつけ、戦闘準備完了だ。
「それが君のストレンジか」
「リィナみたいにすごそうじゃないでしょ?」
「ふん。安い卑下をするな。僕が油断でもすると思ったか?(強いのはわかっているんだ。全力で挑ませてもらう)」
リィナが腰を落として、構えた。
位置取りはキュイのやや後ろ。
俺も戦いの姿勢に入る。
余計な力を抜いて、心を熱く、頭を冷たく、あらゆる戦術を頭に浮かべて、忘れた。
集中を高めていくにつれて、会場のざわめきが遠くなっていく。
「それでは、始めてください」
ベリアンの声。
同時に走り出す。
俺とリィナだった。
一直線に間合いへと。
減速なしの衝突コース。
想定の外の動きをされた。
動揺の中で放った拳は荒い。
避けられた。どこに? 下だ!
「――っ!」
腹部に衝撃が走る。
リィナの選択はシンプルな当て身。
いや、武術なんて関係ない、ただの体当たりだった。
俺とリィナの背は同じぐらいでも、体重ならこっちが勝っているし、竜卵の強化もある。
少しだけバランスを乱すけど、それだけだ。
倒されたりはしない。耐えられた。
転がったのはリィナの方だ。
「キュイ!」
リィナの声と同時に大蛇の尾が迫ってきた。
横薙ぎの一撃。
まるで大木でも転がってくるような光景だった。
砕けた床を思い出してぞっと血の気が引く。
この軌道、体当たりで転がった――いや、伏せたリィナには当たらない。
対して俺はバランスを乱している。
これでは避けられない。
「―――!」
思い出せ。
儂がティレアさんと戦った時の事を。
攻撃を受け止めるんじゃない。
逆らうな。流すんだ。
激突の瞬間、自ら跳び上がる。
そして、迫りくる尾に対して両腕を上から下へ払う。
触れた瞬間。手が砕けたかと思った。
腕の振りじゃ足りない。
可動域の限界まで回してもまだ。
ロープまで広げても、まだ不足。
衝撃は消しきれなかった。
だからこそ、利用できる。
衝撃を受けて、まるで大渦に巻き込まれた葉っぱのように流される体。
その回転に自分から乗った。
結果、尾の側面に弾かれて、宙へと跳ね上げられた。
どこか遠くから悲鳴が聞こえた。
俺にやられた時、ヴィンセントもこんな光景を見たのだろうか。
観客席の二階の人と目が合ったような気がする。
けど、大丈夫。
体は痺れているけど、致命的じゃない。
竜卵の強化の範囲内だ。
落下と回転の勢いを受け身で逃がして、何度も床を転がりながら状況を見る。
だいぶ飛ばされた。
リィナまで十歩ぐらいの距離がある。
リィナはやっと立ち上がったところ。
キュイは指示待ち。
ベリアンは止めないな。
初撃はやられたけど、返させてもらう。
床を踏み砕くつもりで急停止。
体が悲鳴を上げるけど、聞かない。
強引に捻じ伏せる。
摩擦で石板に黒い線が引かれて、止まった。
けど、そんなのは前段階。
踏み込む。
正真正銘の全力疾走。
十歩の距離を二歩で踏破した。
「!?」
リィナの反応は遅い。
今の一撃で大打撃を与えたと確信していたのだろう。
すぐに俺が反撃してくる可能性を軽視していた。
その胸に一撃を叩き込む。
「――ぐぅっ!」
寸前でガードされた。
リィナは体を捻って、肩で受け止めたのだ。
しかも、感触が軽い。
咄嗟に自分から後ろに跳んだのだろう。
派手に吹き飛んではいるけど、ダメージは随分と減らされてしまった。追撃しなくては倒しきれない。
「――っ、あ、キュイ!」
リィナの叫びが響く。
即座に頭上から蛇の頭が襲い掛かってきた。
鋭い牙に噛まれればひとたまりもない。
追撃は諦めて、後ろへと下がって仕切り直そう。
キィィィィィィィィイイイイイイイイイイインッ!
さっきまで俺がいた場所にキュイの頭突きが突き刺さり、床の石板が粉々に砕け散った。
いくら七層の竜卵でもあれが直撃したらまずい。
ベリアンは一発で試合を止めるだろう。
すぐには攻め込まれない程度に距離を置いて息を吐く。
キュイは深追いしてこなかった。
リィナの前に移動すると、翼を広げて威嚇してくるに留めている。
初手、痛み分けか。
いや、戦術としては遅れを取ったのは俺だろう。
竜卵の差のおかげで強引に乗り切れただけだ。
まさか、弱点のはずのリィナから突撃してくるとは思わなかった。
この辺り、まだまだ俺は未熟だな。
儂なら想定して、逆に利用してしまうのだろう。
儂にバトンタッチするか?
いや、しない。
俺がどこまでできるのか、試してみたい。




